白い家のある風景

モダニズム・アールデコ 趣味の(仕事の)建築デザイン周辺を逍遥します

アールデコってなんだ2

2010-04-15 | アールデコ
 前回の話の続きなんですが、装飾がなくても「これってアールデコだよね」という建物はたくさんあります。書店の洋書売り場に行くとART DECO」というタイトルの本を見かけます。それらの本には大抵コルビュジェによる20年代の住宅が載っています。時にはオランダの建築家ヨハネス=ダウカーのゾンネストラールサナトリウムなど、「いくらなんでもこれはアール・デコじゃないだろう」というモダニズムの作品も載っていたりします。つまり1930年代のスタイルと言う広義の意味でアール・デコをとらえているのですね。
 でもやっぱり、ダウカーの作品を見てアールデコは感じませんよね。一方、前回例にあげた、マレ=ステファンやオリバー=ヒルの作品にアール・デコを感じるのはなぜでしょうか。確かに彼らの設計した建物は、1925年のパリでの装飾芸術展(アール・デコ展)のパビリオンなどと全然違いますから、藤森照信氏の言うように、狭い意味ではアール・デコじゃないと見られるかもしれません。でも、ダウカーのような純粋な(?)モダニズムの建物とはちょっと違った、象徴性やある種の古めかしさ、機能より視覚的な美を求める態度、時代性をあらわした優雅さ、といった何物かが付加されているのです。
 ヒルの代表作ミッドランドホテルを見ると、部分的に装飾が在りますが、全体としてはモダニズムと言ってもいいシンプルな建物です。しかし、ゆるやかに湾曲した平面が女性的エレガントさを出していて、水平線を強調した庇や象徴性をもった階段塔など、悪く言うと俗っぽさ、よく言うと一般のモダニズム建築よりも優美さがあります。内部は明らかにアール・デコの装飾があるのですが、装飾をはずしてもこの雰囲気は「アール・デコ」としか言いようがありません。この湾曲した平面はヒルの特徴で、ほかの作品にもくりかえし現れるのですが、原美術館の湾曲した平面はヒルの影響もあったのではないかと、前々から思ってました。もっとも、湾曲した平面はヒルだけが採用していたのではないので、証拠はありませんが。
 ちなみにミッドランドホテルは廃業して荒廃していたところを、トラスト運動のような形で市民の協力を集めて復活し営業を再開しているようです。さすが英国ですね。このホテルは、TVドラマの「名探偵ポワロ」に登場します。このシリーズは実は1930年代建築の宝庫で(なにしろドラマの設定が1930年代)フーバー工場とか、ロンドン動物園ペンギンプール、ハイアンドオーバー、ハイポイントアパートなどなど数々の傑作建築がロケに使われ、なかなか見られない内部も撮影されているので、この時代の建築ファンは必見です。


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