さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】華岡青洲の妻

2022-11-26 23:17:47 | 読書録

有吉佐和子/新潮文庫

華岡青洲は世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功した人物で、自分の妻を麻酔薬の実験台に使ったことは知っていたが、本書はその裏にあったドロドロした嫁姑関係を描き出している。

青洲の実績を整理すると、ざっと以下のような感じである。

1.麻酔薬<通仙散>の開発・・曼陀羅華(チョウセンアサガオ)を主成分とする。古代中国の伝説的名医:華佗による「麻沸散」をイメージしている。

①犬猫を使って動物実験。最初はかなりの動物が死に至る。毒性を弱め、だんだん死ななくなるが、投薬後、呆けたようになってしまう個体がまだまだ多い。

②麻酔が完成しないうちに、小姑が乳癌で亡くなる。

③毒性を弱め、効き目の良い麻酔薬が出来てきたところで、姑が自ら実験台になると言い出し、嫁もそれに続く。まずは毒性をかなり弱めたものを姑が服用。かなり苦しんだ後に眠りにつくが、つねると体が動くことから、麻酔の効き目も弱かったと考えられた。

④次に効き目も強いが毒性も強いものを嫁が服用。やはり投薬後苦しみ、その後深い眠りにつき、なかなか目覚めなかったが、目覚めた後、解毒薬を青州から口移しに飲まされた後、正常に起き上がる。その様子を見て、姑が嫉妬。

⑤姑が2回目の人体実験を申し出。だが嫁より毒性の弱いものを飲んだため、薬も早く切れて目覚めてしまい、悔しがる。

⑥嫁の産んだ娘が亡くなる。嫁号泣。目ヤニの異状は泣きすぎによるものと誤解。

⑦嫁の2回目の人体実験。麻酔は上手くいったが、失明してしまった。

⑧姑の死亡。

⑨嫁は失明しながらも再度子を身籠もり、長男が生まれた。

2.乳房の外傷(牛の角による)に対する縫合手術。

当時、乳房を割かれたら助からないと思われていたが、青州は手術を行い、成功させる。

この頃、小姑2の首横に血溜ができる。嫁が第三子(次女)を身ごもる。

3.高齢の乳がん患者の癌摘出手術.

どうせ死ぬなら、実験台になって死にたいという貴徳な患者が現れ、前述の1.2の技術を総合して手術を行い、成功した。これが世界初の全身麻酔による乳癌手術成功事例となった。

小姑2はこの成功を見ることなく亡くなるが、失明した嫁に対して深い理解を示す。

・・・・・・・・・・・・・・・・

こうした事績とは別に、姑である於継の理不尽さに対する記述が目立つ。息子が修行中で不在の時に、家格が上であるのに加恵に対して、嫁に来てくれと頼み込み、息子不在なのに式もあげさせ、しばらく嫁(加恵)をちやほやしていた。だが息子が帰ってきた途端に、態度が一変。表向きは加恵を大事にしている風を装うが、陰では陰湿な態度を取るようになった。於継と加恵はまるで青州の愛を取り合うライバル関係のようになった。だが、流石に夫婦であるから、青州の加恵に対する愛情は深まっていき、於継に焦りが見られるようになる。それが自ら人体実験の申し出につながったのだ。

読んでて不快になる程陰湿で、こうはなりたくないものよ・・と思いながら読んでいたが、青州の手術成功と、小姑2による理解が救いだなぁ。

しかしまぁ、麻酔薬を飲むときに、眠る前に苦しまなければならないというのは、今では信じられないなぁ。だが麻酔とは本来怖いものなのだ。私の子供時代、知り合いの妹さんが、麻酔が原因と思われる手術失敗で亡くなった。今の麻酔は、少なくとも苦しまなくて良いし、死ぬような事例も極めて少なくなったと考えられる。技術進歩には感謝感謝。

私も、心臓の不整脈治療のため、カテーテルアブレーションを受けた時、全身麻酔をされているが、2回の手術とも、麻酔で意識が遠のいていく感覚はまるでなかった。気づいたら手術が終わってた・・って感じ。全身麻酔もそうだが、歯医者の局所麻酔なんて本当にすごいよなぁ。

こうした優秀な麻酔薬が今使われるようになったのも、まさに、先人の苦労の賜物だ。

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