法廷闘争の末、全国約8万の神社を束ねる“総本山”が断罪された――。

 

 内部告発を理由に懲戒解雇されたのは不当だとして、宗教法人「神社本庁」(渋谷区)の元部長(61)らが処分の無効を訴えた訴訟。東京地裁は3月18日、「懲戒権の行使に客観的な合理性はなく、社会通念上相当性を欠く」と原告の訴えを認める判決を言い渡した。

「神社本庁が15年10月に1億8400万円で売却した職員寮が即日転売され、後に3億円以上に値上がりした疑惑が発端でした。元部長らは同様の案件が複数あり、売却先が同じ不動産業者で随意契約だったことを問題視。『不当に安く売却したのは背任行為に当たる』などとした内部告発の文書を配布したのです。これに対して神社本庁は17年8月、元部長を懲戒解雇し、裁判になっていました」(神社本庁関係者)


元部長(左)は会見で「主張がほぼ全面的に認められた」 ©共同通信社

 内部告発で「疑惑の張本人」と名指しされたのが、神道政治連盟の打田文博会長。神政連は日本会議とともに、憲法改正を目指す安倍晋三前首相らの活動を支えてきた団体だ。その打田氏とともに神社本庁執行部を総長として率いるのが、田中恆清氏である。異例の総長4期目に突入し、内部では「打田―田中体制」(同前)と評されてきた。

 しかし、その内実は危うい。不動産取引疑惑以外にも不倫スキャンダルなどが相次ぎ、“こんぴらさん”こと「金刀比羅宮」(香川県)のように本庁から離脱する動きも出ている。

神社本庁側が“強烈な言葉”で訴えた体制の正当性

 神社界と縁のある皇室との関係も微妙だ。神社本庁において象徴のトップである「統理」の多くは旧皇族らが務め、現統理の鷹司尚武氏も昭和天皇の孫にあたる。だが、その鷹司氏はカネや女性問題ばかりが報じられる田中氏ら執行部に対し、「顔も見たくない」と不信感を募らせてきた。

 それだけに、打田氏や田中氏にとって、「今回の裁判は絶対に負けられない戦い」(前出・本庁関係者)だった。事実、神社本庁は裁判所に提出した最終準備書面でも、強烈な言葉で体制の正当性を訴えていた。

〈(敗訴すれば)包括宗教団体としての組織維持ができなくなる。被告は、伊勢神宮や皇室と密接な関係があって、いわば『日本の国体』の根幹を護っている最後の砦である。(中略)決して裁判所が日本の国体破壊につながることに手を貸す事態があってはならないと信じる次第である〉

 だが、“詭弁”は裁判官に通じなかったようだ。

 奇しくも、判決と同じ日、神社本庁幹部が集まる会議があった。全面敗訴の一報が伝わると、出席者からは「これ以上裁判を続けても恥を晒すだけ」と控訴に否定的な声が上がったという。

 国体護持の前に、職員の雇用すら守れない神社本庁。八百万の神が泣いている。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年4月1日号)