東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

ダンドゥットの謎にせまる その6 スンダ (Pop Sunda)

2014-11-25 19:05:31 | 音楽 / ミュージック

ずっと前の記事で、リンク先が消えたり、内容が古くなっています。

ダンドゥットの記事なら以下のブログへどうぞ(怪しいサイトではございません)

 https://hap-pya-ku-bikini.hatenablog.com/

 

 まず、長い前知識から。そんなもの知ってるという方は、すぐに下のyoutubeへのリンクからどうぞ。

 インドネシアで一番人口密度が高いジャワ島。全人口の六割、日本全体の人口とほぼ同じである。その中で、行政上は西からバンテン/西ジャワ/中ジャワ/ジョクジャカルタ特別区/東ジャワそしてジャカルタ首都特別区に分けられる。このうち、母語がジャワ語の人が多く暮らしジャワ文化圏と言われるのは中ジャワ/ジョクジャカルタ特別区/東ジャワである。こまかいこと言うと、マドゥラ島も行政上東ジャワ州に含まれる。

 一方で、西ジャワ州はスンダ語を母語にする人が多く暮らし、スンダ文化圏と言われる。ここは、住んでいる人びとも外の人もジャワとは違った独特の文化を持っているとみなしている。ステレオタイプ的な見方では、ジャワではスンダを垢抜けない田舎者とみなし、スンダではジャワを堅苦しい窮屈な連中とみなしているそうだ。もちろん、こんなステレオタイプな区分はどこの国にも地方にもある。

 さて、ポップ・ミュージックを考える場合、このジャワ対スンダの区別は、彼らスンダ人ジャワ人には歴然としているらしい。しかし、わたしには、ほんとうに重大な違いがあるのかどうか、よく判らない。スンダ的なものとジャワ的なものをごっちゃにしているかもしれない。それに、ほんとに、彼らが感じているほど違いがあるのかという、根本的な疑問もある。(母語が違うことは確実だが、どの程度違うのかも判らん)

 それで、ダンドゥット(dangdut)の話になるが、言葉の違いが判らない我々(このブログへの訪問者の皆様も〈我々〉に含めてすみません。でも、スンダ語とジャワ語両方できる人って研究者の中にもめったにいないのだ)に同じように聞こえるポップ・スンダPop Sundaが他のダンドゥットとは断固として区別されているらしいのだ。ダンドゥットというジャンルの外側にポップ・スンダがあるのだ。そして、ポップ・スンダや伝統的スンダ音楽がダンドゥットに影響を与えた場合、外側からの影響と捉えられる。

 実にややこしいことに、ダンドゥットの歌手は、このスンダ地方出身の人が多いようで、ダンドゥット全体の中心とも言えるはずなのに、外側に位置するポップ・ミュージックと捉えられる。

 それから、日本だけの事情だが、1980年代にダンドゥットが紹介された頃(椎名謙介氏のことについては、以前わたしがこのブログで書いた)、ポップ・スンダもほぼ同時に紹介された。エルフィ・スカエシの天翔けるようなヴォーカルに魅せられた人も多いだろうが、同時に、素っ頓狂なスンダ・ポップの魅力にひかれた方も多いはずだ。ダンドゥットもポップ・スンダも同じように楽しんだ方も多いだろう。

 それではPop Sundaとはどんなものか見ていこう。いつものように、ブラウザのクッキーを消して、youtubeのアカウントにはログ・インしないで、素のまま見ていくと、自動生成のサジェスチョンが出てくる。まず、ヘンなものから。

Doel Sumbang - aku tikus dan kucing 1982? 男性歌手、シンガー・ソングライター

 おお! ボブ・ディランですねえ。いや、泉谷しげるか。歌詞は「オレが生まれたのは……」という長い長い、社会批評を込めた皮肉な内容であるようだが、グーグルの翻訳でも不明な単語がいっぱいあって、こまかいところはよく判らない。この歌手もこのタイプの曲はこのデビュー曲だけで、あとはなんでもありのシンガー・ソングライターになる。1990年代にはdisco 風の曲もある。例として

Doel Sumbang Full Album Best of The Best 1990 CD 2 広告はいります。こんなアップロードはすぐに消されそう。レゲエ調の曲、女性シンガーとのデュエット多い。Pop Sundaに含まれる。なぜ、こんな歌手を紹介したかというと、この歌い方だ。スンダにしろジャワにしろ、この手の発声、歌い方の男性歌手がいっぱいいるのである。

 次も有名な人らしい。

Darso - Mawar Bodas 2006 すでに故人である。最近、つまり晩年の曲。

Darso - Kabogoh Jauh これはもっと普通の(?)ダンドゥットらしい曲

 Kang Darso もしくはHendarso としてインドネシア版ウィキにも載っているのだが、録音歴などまったくわからない。youtube上にはたくさんビデオが上がっている。頭のネジが弾けるようなトホホなビデオが多いが、このメロディー、このリズム感、この歌い方、これこそダンドゥットの骨格だ!

 しかし、やっぱり女性ヴォーカル! あんまり顔やスタイルを気にせず

Bungsu Bandung - Bohong Ah 8曲のプレイリストのうち5曲め なお、7.00 あたりでお終いです。音質よい。 この曲の一つ前の"TALAK TILU"という曲、ライブ・ショーでもよく演じられている。Mela Barbie - Talak Tiluなど、いっぱいあるが、画質がひどいので、好きな方はかってにサーチしてくだされ。

 Nining Meida - Es Lilin 1960年代からある曲と同名異曲かと思ったら、同じ曲だ(わたしの耳が悪い?)。必ずしも、昔から超スローテンポで歌われていたわけではない。たいへんな有名曲で多くの録音あり、ジャワ風のものもあり。マレーシアのSiti Nurhaliza - Es Lilin などおすすめ。

 やっぱりこの人に登場してもらいましょう。

Detty Kurnia - Tilil Komninasi (Super Sunda'84) 日本からオヤジレコード様。いつもお世話になります。カセットからのいい音。

Detty Kurnia - Banondari 1995 上のアルバムがゴッタ煮傑作であるのに対し、こっちはスンダ風を強調した感じ。必ずしも、昔のものが〈伝統的〉ではない。

 発声法、メロディー、通奏低音ではなく通奏高音とでも呼べるようなガムラン、バックの掛声、気持ちいい!  それでは、この感じ・このフィーリングはどれくらい遡れるのか?

MANSYUR S & NANIN SUDIAR - Rangda Jeung Duda 1974 数千の音源をアップロードしている方、同じカセットから(別のデュエット含め)、4曲聴けます。

 ありゃりゃ、「その3 インド化」で紹介したMansyur S ではないか。この人もこんな曲をやっているのだ。トボけたヴォーカルで、おまけにラテン味も混ざっている。時代をさかのぼっていくと、こんなものが見つかってしまう。ダンドゥットの名称がようやく固定した時期である。つまり、ダンドゥットの人脈もポップ・スンダ(このカセットにはsunda murayuと書いてある)の人脈もずっと以前から混じっていて分離できないのだ。

 以上でダンドゥット(dangdut)の主要な成分である、インド・ラテン・ヘビメタ・テクノ・スンダ、そして手薄であったがジャワ風については一応述べた。あと残っているのはレゲエ風リズム、アラブ、そしてポルトガルの影響であるが、その前にKoplo (ライブ・バンド&歌手兼ダンサー)、そして、Qasidah(イスラムの宗教音楽)について書く。おもしろいぞ!乞、ご期待!


ダンドゥットの謎にせまる その5 チープ系

2014-11-25 18:04:35 | 音楽 / ミュージック

ずっと前の記事で、リンク先が消えたり、内容が古くなっています。

ダンドゥットの記事なら以下のブログへどうぞ(怪しいサイトではございません)

 https://hap-pya-ku-bikini.hatenablog.com/

 

 今回は、シンセ打込みの安っぽいバックサウンドについて。チープ系というのはわたしが勝手に命名したもので一般的な呼び方ではありません。

sanimusicindonesia

 最初このsani music indonesia からのビデオを見たとき、てっきり、個人が無断でアップロードしていると思った。ハンドルネームがパチもん臭いし、やたらとストリーム広告がはいる。(youtubeのストリーム広告の仕組は、いまだによくわからないが、なにか設定があるのだろうか?)

 しかし、ちゃんと住所も電話番号も載せている。やはり、これらの音源(つまり、ビデオ撮影ばかりでなく、)CDを作った会社なのだ。プロモ・ビデオのほか、自社の歌手が出演したテレビからの録画もアップロードしている。閲覧数をみると、かなりの数で100万を超えているものさえある。少なくともテレビに出演するほどはヒットしている。しかし、自社製品なら発売年など基本的データを書いてくれないもんだろうか?

Lynda Moymoy - Bang Jali

HESTY DAMARA - BASAH BASAH 

 リズム・セクションは打込み、その他もチープなシンセだけのバック、というよりカラオケ。どこかで聞いたことがあるような短いメロディー。軽い歌い方。この種のものが、ある程度の支持を得てずっと続いているようだ。悩ましいのは、けっこう面白いものがあることだ。馬鹿にできない。しかし、やはりチープすぎて、トホホなものもある。(ヒットもする)

Ria Amelia - SMS 2006

 最初、これカラオケだと思った。1.35過ぎまでヴォーカルが出てこない。ベートーベンが墓の下で悶えるようなメロディーです。ポンチャック(googleビデオ検索結果)か! いや、ほんとにポンチャックからパクった可能性もある。

 インドネシアの歌で、このチープ系に似ていると言っては失礼かもしれないが、campursari というジャンルがある。ガムランをバックにした、ダンドゥットのリズムとは違う感触のものである。このような音への好みが上記のチープ系にも反映している可能性がある。

Sangga Buana plus Cak Diqin - Rindu Kekasih (campursari jawa と呼ばれるジャンルのplaylist 全71曲もあるので、てきとうに聞いてください。)

 あと、チープ系の元祖かどうか解明できないのが、1990年代のdisco dangdut というのがある。インターネットで調べにくい代物である。なぜならdisco dangdut でサーチしても、最近のもの、remix物やhouse物が引っかかってなかなか出てこない。それで、わたしに判る範囲で書くと、1990年代、打込みとインド/パキスタン風リズムを折衷したものが現れたらしい。

Linda Carella & Corry Cornel (Cipt. Jeffry Bulle) - Bunga Bunga

Corry Cornel & Jeffry Bule- KUPU-KUPU 1990s?

 これなど、おもしろい。しかし、

Rita Sugiarto - Kupu Kupu ? 上とは同名異曲。スローな熱唱タイプ。ストリング(or シンセ)、チェンバロ(風シンセ?)、サックスもはいったゴージャスな編曲である。

Rita Sugiarto - Kupu Kupu  しかし、それをディスコ風にアレンジしてしまうのである。本人が。この現象はちょっと理解できない。ディスコ・打込み調にするなら、それにふさわしい曲を選べばいいと思うのだが。

 実はわたしは、チープな打込み&シンセのアレンジがいつごろ現れたのかもわからないが、オーケストラをバックにしたゴージャス系のアレンジもいつ頃からかわからない。てきとうな想像をめぐらすと、これら二種類のアレンジはほぼ同時に現れたのではなかろうか。

 以上、雑な内容でした。次回、スンダ(Sunda, Pop Sunda, Lagu Sunda) について書くために、上の disco dangdut, champursari, champursari Jawa などがあるということを一応断っておきたかったのです。つまり、Pop Sunda といっても、上のようなものと区別できないものがあるという言い訳であります。

 champursariについては、独立した項目で論じたいところだが、次から次と判らない混乱するものが出てきてまとめられない。先を急ぐので失礼。