東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

一海知義 校訂,鶴見祐輔 『<決定版>正伝 後藤新平』,藤原書店,2005

2009-05-18 21:50:35 | 20世紀;日本からの人々
アンチョコも書評も読まず、まず第3分冊、台湾時代 を図書館から借りる。

どんな読者を対象としているのだ??
表記は新字・常用字体、現代かなづかい。漢文読み下し調の引用文は現代語訳(釈文)付き。ここまでやらないと、読む人がいないのだろうか。
かくいうわたしも、振り仮名はありがたい。もっとルビを多くしてもよかったと思う。
しかし、難解語句の註釈、こんなもの必要ですかね。それよりも、突然出てくる人名や地名を注記してもらいたかった。うるさい注文ですが。

内容はともかく、造本と版組はグッド。手に持って読めるし、文字のサイズも適切。通読可能である。
原本(底本?)は全4巻で後藤新平伯傳記編纂會, 1937.4-1938.7
勁草書房から再刊(国会図書館のサイトによれば復刻)全4冊, 1965-1967

毎日出版文化賞受賞だが、そんなに興味を持つ人多いのか。まさか、嫌中派が本書をひもとくとは思えないし、ビジネスに応用しようというオッサンが読むとはおもえないし、研究者は以前の版で充分だろうし。
ただ、わたしのような読者がぺらぺらめくるには、ありがたい。
本書は身内の側から後藤伯爵を顕彰するために編まれたものだから、事実としての信頼度は高くないだろうが、発行当時のフィーリングをつかむには最適。ばりばりの当事者側からの視点というのは、意外とアクセスがむずかしい。

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以下、第一章 台湾民政長官 1898~1906 の4までのメモ。

全体として、ひとりの人物・後藤新平に的をしぼっているので、流れをつかみやすい。
当時の政党、議会、軍部など、概論的なものを読んでもすっきりしないが、本書のような書きかたは、人脈もわかるし、登場人物も活き活きしていて、するする読める。

ただ、どうも話がうますぎる、という疑いも濃くのこる。

土匪招降策・台湾事業公債・三大事業と三大専売事業、こんなにうまくいったはずないのだが。
ほんとに、台湾経営が黒字になったのか。この点、本書だけで判断するのは危険と思われる。

とくに驚いたのは、簡単にかかれている土地調査(p302-11、たったの10ページ)
これは、島内の完全測量、土地台帳の整備、地租改正のことなのである。
ヒデヨシから明治政府まで、面積が違うとはいえ、日本で何百年もかかったことですよね。それが、こうも簡単に解決して、反乱も抗議も起こらなかったとは信じられない。

そのほか、幣制の整備、アヘン専売、タバコ専売、など、こんなに簡単にできたのか??

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もうひとつ、重要な点は(少なくとも読んだ限りでは)、日本内地からの農業移民はまったく考えられていないこと。
最初から住民がシナ人であり、彼らが生活し生産し、内地人が統治する、という前提になっていたようだ。

なお、土匪討伐の経緯でも描かれているとおり、この場合の土匪とは、すべて華人である。〈土人〉というのは、華人住民であることに注意。
まだ、オーストロネシア語系の原住民(当時の言いかたで、生蕃)のことはまったく考慮の外。