東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

丸山静雄,『インドシナ物語』,講談社,1981

2009-05-04 21:32:23 | 国家/民族/戦争
ベトナム戦争関係の著作をたくさん出している方だが、はじめて著作を手にとってみる。別に意識的に避けていたわけではない。ベトナム戦争関係で本を書いている人は何百人もいるから、たまたま読んでいないだけである。
朝日新聞の論説委員でもあったから、教条的なものの言いかたをする方ではないか、と思っていたが、わりとニュートラルである。いや、ニュートラルというより、あらゆる方面に興味があって、さまざまな現場を見てきた人物であるようだ。

順を追って説明する。

まず、1909年(明治42年)生まれ。つい最近までご存命であった。

大東亜戦争前に二度召集されている。
岩波新書『インパール作戦従軍記』(1984)にあるように、朝日新聞大阪支社の記者としてインパール作戦取材。これについて詳しいことは別項で。

その後、〈明号作戦〉1945年3月当時はフエに滞在。敗戦時はサイゴン。

戦後すぐのことは不明だが、1950年代後半はニュー・デリー支局員。
バンコク支局開設とともに、一年あまりバンコク滞在。つまり、初代の朝日新聞バンコク特派員といえる。
その後、朝日新聞外報部次長など経て論説委員になった。退社後は大学教授。

それで本書であるが、著者・丸山静雄すでに70歳をこえている。ひじょうにエネルギッシュな方であるようで、ニ段組400ページ近くの厚さに、あらゆることを盛りこんでいる。なお、本書でのインドシナとは、タイやビルマも含めた大陸部東南アジアのこと。

このころ1981年あたりが東南アジア情報の転換期かなあ、というのがざっと見た感想。
まず、歴史・考古学分野については古すぎる。このあと、東南アジア史に関して、どんどん新しいみかたが生まれ、一般読者向けの本が出る。
少数民族関係はひじょうにこまかいことまで書いているが、未整理で雑然としていて、読者には伝わらないだろう。
日本と東南アジアの関係については、戦時中から前線を体験した人であるので詳しいが、今の読者には伝わりにくいかもしれない。
ベトナム戦争とその後の経過、カンボジア問題、難民問題はこの頃進行中で、ひじょうに詳しい。ちなみに、本書刊行当時でも国連の代表はポル・ポト派である。
ベトナムの〈社会主義国家建設〉については、数々の矛盾や問題が生じていたことを書いている。
冷戦や大国間の外交・政治、民族主義と社会主義についても詳しい。

というように、政治と外交問題に重点がおかれている。というより、東南アジアといえば、政治を抜きにして本を書こうなどと考えられなかった時代であろう。

現在読んで、ははあ、と思うのは、環境問題がほとんど書かれていないこと。メコン川開発計画なども、実に楽観的であるなあ。