東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

冨田昌宏,『紙幣の博物誌』,ちくま新書,1996

2008-11-12 20:15:08 | 基礎知識とバックグラウンド
信じてもれないだろうが、つい1か月ほど前まで、USAドルの新札が1996年以来発行されているという事実をしらなかった……!
さらに、香港では三種類の通貨が発行され流通しているということを知らなかった……!

というわけで本書、経済学でいう貨幣ではなく、具体的なお札・紙幣に関する雑学的な本である。

著者は外務省で各国領事館勤務を勤めた方、本書は紙幣に関するあらゆる話題をもりこんだ雑学本。
あらゆる話題、というのは、紙幣の材質、印刷、デザイン、肖像、使用される言語、額面、通貨の単位などなど。

こうしてみると、日本の紙幣はダントツに精巧で重厚なデザインである。
USAドルのスカスカのデザインは例外的であるが、他の世界の紙幣と比べて異様に精巧。香港のオモチャのような札を見た目には美術品のような重厚な感じがする。

日本の紙幣に印刷される肖像は現在、福沢諭吉・樋口一葉・野口英世(それに2000円札は紫式部だったな)というニュートラルな文化人・学者であるが、これも世界中からみると異例である。

世界の大部分では、独立の英雄、元首、伝説上の人物が多いのである。(まあ、以前の聖徳太子というのも伝説上の人物みたいなもんでしょうが、GHQにより許可された、紙幣に印刷できる人物だったんだそうだ。)
ただ、明治以来、元首(天皇)を紙幣に印刷しない、というのも変わった方針であったのだ。現役の元首を札に印刷している国はたくさんある。(死亡したら、紙幣デザインを替えるのであろうか?)

また、紙幣に使用される言語。
インドの紙幣が13個の言語を使用している、という逸話は有名だが、複数言語を使用した紙幣はけっして例外的ではない。
シンガポールも香港も複数の言語を使用している。(マレーシアがマレーシア語のみ!)
漢字を使用する紙幣は、いまや日本・中華人民共和国・中華民国、それに香港とシンガポールのみになった、そうだ。

以上、雑学的な知識いっぱいで楽しいが、ある地域の紙幣についての網羅的あるいは専門的な情報はない。
旧ソ連の各地域の紙幣にいかなりのページが費やされている以外は断片的な記述。
「東南アジアの紙幣」「東アジアの紙幣」というような本が欲しい。

それにしても、切手やコインを収集するマニアは多いのに、紙幣を収集するマニアはいないのか?
紙幣を集めたら、それは趣味ではなく、単なる〈貯金〉になってしまうから?
しかし、本書を読むと、各国の威信をかけて印刷した紙幣は美術品のような価値があるように思える。さらに、本書に書かれているように、インフレで紙幣価値が暴落したら、ほぼタダで入手できる場合があり、そういう紙幣ほど後々希少価値が生まれると思うのだが。(カンボジアの紙幣なんか、お土産として売られているし、日本の軍票もお土産だ。)

そんなわけで、外国に旅行したら、そこの紙幣をじっくり味わいましょう。