親本2005.もう文庫になった。
こんな作品は、文庫もすぐ品切れになるから要注意。
ああ、こんなふうだったのか、と納得。
なにを納得したかというと、たとえばスルー海域やマラッカ海峡の海賊、珊瑚礁やマングローブ帯に突然出現しては消えていく港市。
そんな歴史のはざまの海域世界がイメージできた。
小説『ハイドゥナン』で描かれたような辺境の極貧の地、というイメージでは解けない海域世界が描かれる。
アメリカ軍政下の南西諸島。本土と行政分離され輸出入を禁止された状況で、〈ケーキ(景気)時代〉と呼ばれる密貿易時代があった。占領開始から1952年ごろまでの6,7年。
その波乱の世の中で、ナツコとよばれたひとりの女性のものがたり。
住民自身が非合法の裏稼業ととらえ、よそ者にはなかなか口を開かない世間にはいりこみ、気長に取材した労作である。
ナツコという女性が短い一生のあいだに巡ったのは、以下のようなところ。
与那国島・久部良(くぶら)・祖内
奄美諸島・石垣島・岡前
沖縄本島の糸満・本部半島・那覇
フィリピンのマニラ
台湾の蘇澳(スーアオ)・台北
本州の神戸・和歌山市の和歌浦
香港
商品は、東沙諸島で採れる海人草(かいにんそう)、台湾からのコメ・砂糖とペニシリン・ストレプトマイシンなど医薬品、米軍基地から盗んだ衣料品・タバコ、本州からのアワビ・ナマコやミシン・アイロンなどの工業製品、さらに香港経由で大陸への非鉄金属(薬莢)へとかわっていく。
輸入統制の狭間をすりぬけて、密輸商売は巨大な稼ぎとなっていく。
同時に、糸満の門中(もんちゅう)という同族の結びつき、結婚した相手の一族とのトラブル、ナツコのふたりの娘、同業者との関係も描かれる。