Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

東京国際映画祭での中台あつれき

2010-10-26 15:17:02 | 時事
23日開幕式が開かれた第23回東京国際映画祭。直前に、中国側の江平監督(中国代表団団長)が「台湾」の名称ではなく「中国台湾」か、最低でも「中華台北」を使え、と主催者に迫り、台湾出席者が出席を取りやめ、中国側も遺憾の意を示して欠席したという。(写真は東京国際映画祭の主催者側が江平団長に謝罪したとの図。中国雅虎=yahoo=にあった)

これまで東京国際映画祭では「台湾」の名称でトラブルはなかったというが、今回は尖閣問題もあり、やや配慮を欠いていたのではないか。尖閣問題が影響したのか、香港からの報道では当初出席予定だった章子怡は急遽、出席を取りやめたという。昨年は梁朝偉や金城武、林志玲ら「レッドクリフ」の出演者であふれていたのに。このときは中国、台湾、香港の出演者が一緒に出ていたんだなあ。

たしかに江平監督のゴリ押しは横暴だが、彼らも、もし「『台湾』のままでの開会を許した」として帰国したら、現在問題を大きくしてデモで憂さを晴らしたいと手ぐすねを引いている中国国内のネット反日勢力のいい標的になっていたかもしれない。
映画人も最近特に政治問題に敏感で、昨年7月、新疆ウイグル自治区でのデモのあとラビア・カーディル議長の映画を上映しようとしたメルボルン国際映画祭に出席予定だった中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督らがボイコットしたこともあった。最近では映画「精武風雲・陳真」の香港でのプレミア上映会の舞台に突然、乱入した藤原紀香に対して、主演のアクションスター・甄子丹が「釣魚島は中国の領土だ」と言い放ったとも伝えられている。これらは中国の映画検閲や上映許認可が映画人に有形無形の圧力を与えていると考えるべきだろう。
このような状況を考えれば、原理原則を言えば、バレーボールの国際試合などで見られるように「中華台北(チャイニーズタイペイ)」を使い、青天白日満地紅旗(中華民国旗)ではなく台湾の五輪旗を使うなど、「2つの中国」「1つの中国、1つの台湾」と指摘されないような配慮が必要だった。東京国際映画祭の主催者側はその辺の政治的配慮にオンチだったと言わざるを得ない。これまで通りの「台湾」を使ってしまったことで、台湾側出席者に期待を持たせすぎてしまったのは罪だ。台湾側の出席者もその辺は配慮して、名刺などには「中国,台湾」と印刷していたそうだ。
台湾メディアの報道を見ると、問題が大きくならないよう沈静化を図っているようだ。台湾有力紙の多くが大陸出身者の子孫である「外省人」に牛耳られていることもあり、台湾独立派とは一線を画しているところが多いからだ。もちろん独立派の媒体もある。

台湾総統府は24日、「台湾人民の感情を傷つけ、中台両岸の平和的発展に不利であり、大陸当局は見過ごすことはできない。直ちに圧力を停止すべきだ」との声明を発表した。
聯合報によると、呉敦義・行政院長(首相)は「中国代表団の江平団長が重大や誤りを犯したことは明らかであり、中国代表団が我々(台湾側)に強硬に『中国台湾』の名称を用いることを強いるのは絶対に適当でない」とし、「もし、中国側は『世界には1つの中国、すなわち中華人民共和国しかない』との数年前の硬直化した主張に戻るのなら、理性を欠き、中台両岸が近年進めてきた平和発展の大方針に背くものだ」と語った。


聯合報はまた、直ちに大陸側の反応も掲載した。国務院台湾弁公室(事務室)の孫亜夫・副主任が25日、「中台両岸の交流は人の心の赴くところで、大勢の望むところだ。開けた門はもう閉めることはできない。我々は不必要な消耗は避けるべきで、中華民族全体の利益が守られるように希望する。大陸は当然、台湾が国際的な組織、活動、会議へ参加することを希望しているが、2つの中国、1つの中国1つの台湾の状況を作り出さないような前提で、中台両岸の交渉を進めるのが合理的だと考えている」と話した。東京国際映画祭での事件については「完全に状況を把握しておらず、この問題について単独で意見を述べるのは困難だ」と直接的な言及は避けた。今後の中台関係に悪影響を及ぼさないように配慮したと見られる。

台湾では「江平事件」として、中国当局の意を汲んだものではなく、江平監督個人の発言という突発事件だった、との解釈に立っている。「台湾の映画が中国大陸で上映できなくなるぞ」と江監督が脅した、と伝えられることについても「一個人の発言で中台の経済協議が覆ることはありえない」と一笑に付している。
ただ、江平監督個人については、「歓迎されざる人物」として今後永久に台湾入境が認められなくなる可能性が高そうだ。

中台関係の前提条件について追加説明すると、「1つの中国」の原則については、「九二共識」(92コンセンサス、92合意)という考え方に基づいている。すなわち「双方とも、1つの中国の原則は堅持しつつ、その解釈は各自で異なることを認める」(一中各表)という考え方だ。ただ、これは台湾側が主張している解釈で、「1つの中国とは、大陸側は中華人民共和国、台湾側では中華民国とそれぞれ解釈することを妨げない」とする考え方だ。これに対して中国側では「双方とも1つの中国を堅持する」(一中原則)とするだけで、玉虫色の解釈のなかで、中台は交流を進めている。
1992年に香港で中国側(海峡両岸関係協会)と台湾側(海峡交流基金会)の民間交流団体が協議したときに口頭で得られた合意とされる。台湾側では当時の辜振甫海峡交流基金会理事長、李登輝総統、その後の陳水扁総統らとも「合意などなかった」と否定していたが、2005年の連戦・国民党主席と胡錦濤・共産党総書記との国共トップ会談の席上、合意事項として「九二共識」の文言が明記された。現在の馬英九総統もこれを引き継ぎ、中国との交流のベースにしている。