それにしても、何故、習近平主席はトランプ大統領を歓待したのでしょう?それは、以下の様な理由があるのかも知れません。
・2025年の世界一を目指して
現在、中国が米国から得る利益は、一年でおよそ3470億米ドル。米中は、互いに密接な関係にあると言えます。しかし、対中貿易赤字に苦しむ米国からすれば、何とか是正したいと思っているに違いありません。
今年4月にフロリダで行われた米中首脳会談でも、貿易黒字を是正する話に対して、習近平氏はトランプ氏に対して改善の約束をした物の、半年経っても何も変わらない為に、トランプ大統領は、非常に不満に思っていると言われています。
トランプ大統領が、今回、訪中に当たって多くの関係者を連れてきたのは、貿易についての話しを詰める為です。当然、習近平氏も準備を整えて会見に臨んだはずです。
8日の午後、国務院総理 汪洋の出席のもと、人民大会堂で、米国の関係部門と90億ドルの契約を交わし、翌9日には、2535億ドルの契約をまとめまたと言われています。
但し、この90億ドル・2535億ドルが、どの様な計算によるものか疑問に思っています。何故なら、この中には、2015年9月24日に、習近平氏がボーイング社を訪れた時の、ボーイング機300機の購入価格、計約380億ドル(約4兆5663億円)や、2017年6月20日に、米自動車大手フォード・モーター(F.N)の幹部が、次世代コンパクトカー「フォーカス」を2019年から中国で生産し、北米に輸出する計画を発表した事等が含まれているからです。
どの様な計算で、何年間で2600億の数字が出て来たのかは分かりません。中国のこの様な、どんぶり勘定の相当盛っているような数字は鵜呑みにすることができません。
しかしながら、習近平氏は90億ドル・2535億ドル、総額約2600億ドルも出していったい何を買ったのでしょう?或いは、何を買おうとしているのでしょう。その目的は何なのでしょう?
今回の契約の中には、当然、米国の牛肉・大豆・トウモロコシ、小麦等々の農産物も含まれていますが、中華圏の報道に依れば、習近平氏は「時間」「技術」「トランプ大統領の歓心」を買ったのだ、と報じています。
時間とは何か、中国は2025年まで米国と衝突をする気は無いようです。買った時間とは、2025年までの8年間の時間です。その他に、エネルギー・市場・技術を買い求めました。
・エネルギーは、アラスカの天然ガスと輸送管。
・「クアルコム(企業)」と共に半導体の「ウェハ」を購入
・ボーイングから300機の飛行機、
ボーイングの場合は、工場の中国誘致が条件に含まれているようです。中国でボーイングを製造することで、その機密事項を手に入れ、その技術を習得し、ゆくゆくは世界市場に打って出る事を目標にしていると思われます。
・中国の自動車の企業がフォード・モーターと契約し、新たな自動車会社を設立するようです。恐らく電気自動車を作るのではないか、と言われています。中国は電気自動車を欲しており、互いの技術は役に立つはず。
・ゴールドマンサックスとも協議しています。
・天然ガス。
アラスカ州知事を連れてきており、今回、アラスカから天然ガスと石油の輸送管を中国に引くという計画に従って、石油と天然ガスの輸送管をどこに通すかについて細かく検討したようです。計画は、アラスカから1200Kmの石油と天然ガスの輸送管を引き、中国大陸の北部から東北へ、そこから大陸全土へ送るという物。
現在、中国が最も必要としているのはクリーンエネルギーです。天然ガスが必要ですが、大陸は天然ガスの産出量がごく僅か。オーストラリアからの輸入に頼っていますが、船での輸送はコストがかかりすぎます。
中国は毎年2700万トンの天然ガスを消費しており、もし、米国から輸送管を引く事が出来れば、液化の必要もありません。コストも低く抑えられます。しかも、シェールガスは販売先を探しておりトランプ大統領の要求にもそう物です。アラスカの民衆も販売先ができますし、輸送管の設置で雇用も生み出せます。
要するに、2600億ドルを使って、トランプの歓心を買い、多くの米国の中枢にある企業と契約を結び、中国に企業を誘致し、技術を学ぶ機会を得ようとしているのです。これは、中国の未来を考えての事です。
・不思議な中国のGDP
ところで、何故、2025年が重要なのかと言えば次の理由に因ります。
台湾の報道によれば、現在、米国のGDPは18.6兆ドル。中国のGDPは12.1兆ドル。2025年には、米国は20.2兆ドル、中国は20.4兆ドルで、米中のGDPは逆転すると言われています。乾隆帝以来、再び中国が世界一の座に返り咲くと言う物です。
少し古い資料ですが、2014年の頃には次の様な事が言われていました。
「2014年12月8日、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。米調査会社HISもこのほど、中国のGDPが2024年に、米国を追い越すとの見通しをまとめた…。」(「Record China」『中国のGDP、2024年に米国を追い抜く=20年に日本の3倍規模に、超円安も拍車―OECD、IMF予測』配信日時:2014年12月9日(火) 5時32分)
また、今年9月にも、
「国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が7月下旬にIMF本部をワシントンから北京に移す可能性に言及、波紋を投げかけたが、この発言を基に、濱本良一国際教養大教授が「中国は名目GDPでも2029年に米国抜き、名実ともに世界一の経済大国になる」との論考を月刊誌『東亜』9月号(霞山会)に寄稿した。
このIMFトップによる衝撃的な発言は、米ワシントンのシンクタンク「グローバル発展センター」で行われた対談で飛び出したもの。「中国や他の新興国市場の成長が今後も続くのなら、それはIMF加盟各国の議決権にも反映されることになる。われわれが十年後にこうした会話をする際には、ワシントンでなく北京がIMF本部になっているかもしれない。IMFの規則では、本部は経済規模が最大のメンバー国に設置する仕組みになっている」と明言した。
濱本教授は論考の中で「ラガルド専務理事の頭の中には10年後の2027年前後に中国の名目GDP(国内総生産)が、米国を追い抜き、世界1位になっている可能性がある。IMFの最高責任者が迫り来る近未来の変化を明確に語り始めたことを意味しよう」と指摘した。
中国のGDPは2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、世界一位になった。続く15、16年も中国は首位の座を維持している…。」(「Record China」『中国、名目GDPでも2029年に米国抜く=名実ともに世界一の経済大国に―濱本国際教養大教授が試算』配信日時:2017年9月15日(金) 5時20分)
また、アメリカ合衆国中央情報局 (CIA) の年次刊行物「The World Factbook」の「GDP (purchasing power parity)」には、2016年の購買力平価(PPP)についてランク付けをしています。上位10位までを掲載すると次の様になります。
RANK COUNTRY GDP (PURCHASING POWER PARITY) DATE OF INFORMATION
1 CHINA $21,290,000,000,000 2016 EST.
2 EUROPEAN UNION $19,970,000,000,000 2016 EST.
3 UNITED STATES $18,570,000,000,000 2016 EST.
4 INDIA $8,662,000,000,000 2016 EST.
5 JAPAN $5,238,000,000,000 2016 EST.
6 GERMANY $3,980,000,000,000 2016 EST.
7 RUSSIA $3,751,000,000,000 2016 EST.
8 BRAZIL $3,141,000,000,000 2016 EST.
9 INDONESIA $3,032,000,000,000 2016 EST.
10 UNITED KINGDOM $2,786,000,000,000 2016 EST.
中国は1位、日本は5位で、日本は中国の四分の一です。
因みに、「The World Factbook」の「GDP - per capita」の項目では、GDPを人口で割った、一人当たりのGDPについて、
RANK COUNTRY GDP - PER CAPITA (PPP) DATE OF INFORMATION
1 LIECHTENSTEIN $139,100 2009 EST.
2 QATAR $127,700 2016 EST.
3 MONACO $115,700 2015 EST.
:
20 UNITED STATES $57,400 2016 EST.
:
42 JAPAN $41,300 2016 EST.
:
106 CHINA $15,400 2016 EST.
上位三位までは、1位リヒテンシュタイン(09年)・2位カタール(2016年)・3位モナコ(2015年)で、その他、20位米国、42位日本、106位中国の順となっています。中国は日本の三分の一です。
「Record China」「The World Factbook」共に、中国の経済は順調であるとしています。ならば、何故、15年にボーイング社と契約した300機の話しが、今頃、再び出て来たのでしょう?計算方法も分からない、何年計画かも分からない2600億ドルという巨大な金額を、何故、大騒ぎで公表しなければならないのでしょう?それ程裕福であるのに、何故、自国内の言論統制を厳しくしているのでしょう。何故、腐敗汚職を厳しく取り締まる必要があるのでしょう?
中国経済は、順調そうに見えても、不明な点が多いと言わざるを得ません。特に、2600億のように大風呂敷を広げ、日本国内の媒体がこぞって礼賛しているときには、却って危ういと思っています。
・「中国製造2025(2025年インダストリー4.0)」
話しが逸れてしまいましたが、「中国製造2025」の話しでした。
中国製造2025とは、2015年に発表された製造業の強化計画で、ドイツのインダストリー4.0を基に、中国の製造業の水準を大幅に向上させる事を目標としています。
計画は3段階に分かれており、第1段階は2025年までに日米のような製造強国に仲間入りする。第2段階は2035年までに世界の製造強国の中級のレベルに達する。第3段階は新中国建国100周年である2049年までに、トップクラスの製造先進国になる、と言う物です。
2013年、ドイツが情報通信技術と製造業の融合というインダストリー4.0を公表して以来、世界各国も、工業強化政策を打ち出しています。中国製造2025は中国版インダストリー4.0です。
中国製造2025は、「製造のスマート化」を重視しており、最先端の情報通信技術と製造技術を利用して、自主的に社会の生産需要に適応し、製造システムの一体化を目指しています。
現在、新たな製造手段と情報通信技術の発展と共に、ウェアラブルデバイス、スマートロジスティクス、スマートホーム、スマート医療、スマートサービスなどの分野で、スマート化が広がっている。さらに、人工知能、ビッグデータ、IoT及びクラウドコンピューティングなどが含まれた、多くの方向へ拡張しています。そして最終的には、別々に管理されていた生産プロセスは、今後全てが繋がるエコシステムに発展し、生産多様性と効率化の実現を目指しています。(「IoTNEWS」『中国版インダストリー4.0 「中国製造2025」とは [海外動向]』2016.11.16 06:00)
要するに、今回、中国政府が2600億ドル(?)を出して米国から購入した物の一部は、この「中国製造2025」の計画にそっている、と言えます。
・危うい金融市場
GDPが世界一になろうとも、、OECD(経済協力開発機構)・IMF(国際通貨基金)など各種国際機関が太鼓判を押そうとも、中国経済は危ういのではないか、と思っています。
理由の一つが、「アリババ」です。
2014年10月、支付宝(アリペイ)の親会社である浙江阿里巴巴(アリババ)電子商務有限公司が、「螞蟻(ばぎ)金融服務集団」を正式に成立させました。「螞蟻」は中国語で「蟻(あり)」「集団」はグループの意です。これは、インターネットの金融商品を取り扱うグループで、スマートホンで「アリペイ」のアプリを開くと、次の様なサービスプレートがついてきます。使用するか否かは、スマホのユーザー次第です。
「螞蟻金融服務集団」
・支付宝(アリペイ)、お財布ケータイのような支払い機能で、支払いをアリババが担保します。
・余額宝、米国のMMFに相当するオンライン・マネー・マーケット・ファンド。銀行よりも高額の利回りの資産運用商品。
・招財宝、投資家は定期預金の利息を保持したまま、いつでも引き出しが可能となる。個人投資家はローン期間が終了する前に引き出しのリクエストをすることができ、このシステムは旧債権者名の元に自動で新たなローン契約を結び、それを新たな投資家と紐付けし、余額宝アカウント内で旧債権者が即座に資金を受け取る仕組み。
プラットフォームに接続した余額宝ユーザは、期待金利、ローン期間、金融商品のタイプを予め設定できる。30日以内にリスト化された条件に見合う金融商品が出たときに、このシステムは自動で注文処理をしてくれる。招財宝のユーザは最低100元(16.25米ドル)から1,000元の資金を投資できる。
・螞蟻聚宝(Ant Fortune)モバイルマネーの公式サイト
・網商銀行(浙江網商銀行)民営銀行の一つ。インターネットを利用して、中小企業に対する融資問題や、農村金融等の問題を解決し、実体経済の発展を促進する。Inclusive financial system。
・螞蟻花唄、仮想クレジットカード。タオパオ・Tモールで買い物をし、商品到着後、翌月払いのオンライン・ショッピング・サービス。
・芝麻信用、支付宝のサービスの一つ。多くのデータから、個人の信用度を数字で算出するサービス。
・螞蟻金融雲、企業の為のITシステムを構築するクラウドコンピューティングサービス。
等々です。
これらの金融商品が、アリペイを使用する人々のスマホには必ず入っています。2015年6月の株バブルが引き金となった株価の大暴落もそうですが、中国の市場が暴走すると共産党幹部でもどうする事もできません。金融市場が不安定になっていて、それで2600億ドルと言いだしたのでなければよいがと、少し思っています。
次回は、「漢字の話、最終話」に戻ります。
・2025年の世界一を目指して
現在、中国が米国から得る利益は、一年でおよそ3470億米ドル。米中は、互いに密接な関係にあると言えます。しかし、対中貿易赤字に苦しむ米国からすれば、何とか是正したいと思っているに違いありません。
今年4月にフロリダで行われた米中首脳会談でも、貿易黒字を是正する話に対して、習近平氏はトランプ氏に対して改善の約束をした物の、半年経っても何も変わらない為に、トランプ大統領は、非常に不満に思っていると言われています。
トランプ大統領が、今回、訪中に当たって多くの関係者を連れてきたのは、貿易についての話しを詰める為です。当然、習近平氏も準備を整えて会見に臨んだはずです。
8日の午後、国務院総理 汪洋の出席のもと、人民大会堂で、米国の関係部門と90億ドルの契約を交わし、翌9日には、2535億ドルの契約をまとめまたと言われています。
但し、この90億ドル・2535億ドルが、どの様な計算によるものか疑問に思っています。何故なら、この中には、2015年9月24日に、習近平氏がボーイング社を訪れた時の、ボーイング機300機の購入価格、計約380億ドル(約4兆5663億円)や、2017年6月20日に、米自動車大手フォード・モーター(F.N)の幹部が、次世代コンパクトカー「フォーカス」を2019年から中国で生産し、北米に輸出する計画を発表した事等が含まれているからです。
どの様な計算で、何年間で2600億の数字が出て来たのかは分かりません。中国のこの様な、どんぶり勘定の相当盛っているような数字は鵜呑みにすることができません。
しかしながら、習近平氏は90億ドル・2535億ドル、総額約2600億ドルも出していったい何を買ったのでしょう?或いは、何を買おうとしているのでしょう。その目的は何なのでしょう?
今回の契約の中には、当然、米国の牛肉・大豆・トウモロコシ、小麦等々の農産物も含まれていますが、中華圏の報道に依れば、習近平氏は「時間」「技術」「トランプ大統領の歓心」を買ったのだ、と報じています。
時間とは何か、中国は2025年まで米国と衝突をする気は無いようです。買った時間とは、2025年までの8年間の時間です。その他に、エネルギー・市場・技術を買い求めました。
・エネルギーは、アラスカの天然ガスと輸送管。
・「クアルコム(企業)」と共に半導体の「ウェハ」を購入
・ボーイングから300機の飛行機、
ボーイングの場合は、工場の中国誘致が条件に含まれているようです。中国でボーイングを製造することで、その機密事項を手に入れ、その技術を習得し、ゆくゆくは世界市場に打って出る事を目標にしていると思われます。
・中国の自動車の企業がフォード・モーターと契約し、新たな自動車会社を設立するようです。恐らく電気自動車を作るのではないか、と言われています。中国は電気自動車を欲しており、互いの技術は役に立つはず。
・ゴールドマンサックスとも協議しています。
・天然ガス。
アラスカ州知事を連れてきており、今回、アラスカから天然ガスと石油の輸送管を中国に引くという計画に従って、石油と天然ガスの輸送管をどこに通すかについて細かく検討したようです。計画は、アラスカから1200Kmの石油と天然ガスの輸送管を引き、中国大陸の北部から東北へ、そこから大陸全土へ送るという物。
現在、中国が最も必要としているのはクリーンエネルギーです。天然ガスが必要ですが、大陸は天然ガスの産出量がごく僅か。オーストラリアからの輸入に頼っていますが、船での輸送はコストがかかりすぎます。
中国は毎年2700万トンの天然ガスを消費しており、もし、米国から輸送管を引く事が出来れば、液化の必要もありません。コストも低く抑えられます。しかも、シェールガスは販売先を探しておりトランプ大統領の要求にもそう物です。アラスカの民衆も販売先ができますし、輸送管の設置で雇用も生み出せます。
要するに、2600億ドルを使って、トランプの歓心を買い、多くの米国の中枢にある企業と契約を結び、中国に企業を誘致し、技術を学ぶ機会を得ようとしているのです。これは、中国の未来を考えての事です。
・不思議な中国のGDP
ところで、何故、2025年が重要なのかと言えば次の理由に因ります。
台湾の報道によれば、現在、米国のGDPは18.6兆ドル。中国のGDPは12.1兆ドル。2025年には、米国は20.2兆ドル、中国は20.4兆ドルで、米中のGDPは逆転すると言われています。乾隆帝以来、再び中国が世界一の座に返り咲くと言う物です。
少し古い資料ですが、2014年の頃には次の様な事が言われていました。
「2014年12月8日、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。米調査会社HISもこのほど、中国のGDPが2024年に、米国を追い越すとの見通しをまとめた…。」(「Record China」『中国のGDP、2024年に米国を追い抜く=20年に日本の3倍規模に、超円安も拍車―OECD、IMF予測』配信日時:2014年12月9日(火) 5時32分)
また、今年9月にも、
「国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が7月下旬にIMF本部をワシントンから北京に移す可能性に言及、波紋を投げかけたが、この発言を基に、濱本良一国際教養大教授が「中国は名目GDPでも2029年に米国抜き、名実ともに世界一の経済大国になる」との論考を月刊誌『東亜』9月号(霞山会)に寄稿した。
このIMFトップによる衝撃的な発言は、米ワシントンのシンクタンク「グローバル発展センター」で行われた対談で飛び出したもの。「中国や他の新興国市場の成長が今後も続くのなら、それはIMF加盟各国の議決権にも反映されることになる。われわれが十年後にこうした会話をする際には、ワシントンでなく北京がIMF本部になっているかもしれない。IMFの規則では、本部は経済規模が最大のメンバー国に設置する仕組みになっている」と明言した。
濱本教授は論考の中で「ラガルド専務理事の頭の中には10年後の2027年前後に中国の名目GDP(国内総生産)が、米国を追い抜き、世界1位になっている可能性がある。IMFの最高責任者が迫り来る近未来の変化を明確に語り始めたことを意味しよう」と指摘した。
中国のGDPは2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、世界一位になった。続く15、16年も中国は首位の座を維持している…。」(「Record China」『中国、名目GDPでも2029年に米国抜く=名実ともに世界一の経済大国に―濱本国際教養大教授が試算』配信日時:2017年9月15日(金) 5時20分)
また、アメリカ合衆国中央情報局 (CIA) の年次刊行物「The World Factbook」の「GDP (purchasing power parity)」には、2016年の購買力平価(PPP)についてランク付けをしています。上位10位までを掲載すると次の様になります。
RANK COUNTRY GDP (PURCHASING POWER PARITY) DATE OF INFORMATION
1 CHINA $21,290,000,000,000 2016 EST.
2 EUROPEAN UNION $19,970,000,000,000 2016 EST.
3 UNITED STATES $18,570,000,000,000 2016 EST.
4 INDIA $8,662,000,000,000 2016 EST.
5 JAPAN $5,238,000,000,000 2016 EST.
6 GERMANY $3,980,000,000,000 2016 EST.
7 RUSSIA $3,751,000,000,000 2016 EST.
8 BRAZIL $3,141,000,000,000 2016 EST.
9 INDONESIA $3,032,000,000,000 2016 EST.
10 UNITED KINGDOM $2,786,000,000,000 2016 EST.
中国は1位、日本は5位で、日本は中国の四分の一です。
因みに、「The World Factbook」の「GDP - per capita」の項目では、GDPを人口で割った、一人当たりのGDPについて、
RANK COUNTRY GDP - PER CAPITA (PPP) DATE OF INFORMATION
1 LIECHTENSTEIN $139,100 2009 EST.
2 QATAR $127,700 2016 EST.
3 MONACO $115,700 2015 EST.
:
20 UNITED STATES $57,400 2016 EST.
:
42 JAPAN $41,300 2016 EST.
:
106 CHINA $15,400 2016 EST.
上位三位までは、1位リヒテンシュタイン(09年)・2位カタール(2016年)・3位モナコ(2015年)で、その他、20位米国、42位日本、106位中国の順となっています。中国は日本の三分の一です。
「Record China」「The World Factbook」共に、中国の経済は順調であるとしています。ならば、何故、15年にボーイング社と契約した300機の話しが、今頃、再び出て来たのでしょう?計算方法も分からない、何年計画かも分からない2600億ドルという巨大な金額を、何故、大騒ぎで公表しなければならないのでしょう?それ程裕福であるのに、何故、自国内の言論統制を厳しくしているのでしょう。何故、腐敗汚職を厳しく取り締まる必要があるのでしょう?
中国経済は、順調そうに見えても、不明な点が多いと言わざるを得ません。特に、2600億のように大風呂敷を広げ、日本国内の媒体がこぞって礼賛しているときには、却って危ういと思っています。
・「中国製造2025(2025年インダストリー4.0)」
話しが逸れてしまいましたが、「中国製造2025」の話しでした。
中国製造2025とは、2015年に発表された製造業の強化計画で、ドイツのインダストリー4.0を基に、中国の製造業の水準を大幅に向上させる事を目標としています。
計画は3段階に分かれており、第1段階は2025年までに日米のような製造強国に仲間入りする。第2段階は2035年までに世界の製造強国の中級のレベルに達する。第3段階は新中国建国100周年である2049年までに、トップクラスの製造先進国になる、と言う物です。
2013年、ドイツが情報通信技術と製造業の融合というインダストリー4.0を公表して以来、世界各国も、工業強化政策を打ち出しています。中国製造2025は中国版インダストリー4.0です。
中国製造2025は、「製造のスマート化」を重視しており、最先端の情報通信技術と製造技術を利用して、自主的に社会の生産需要に適応し、製造システムの一体化を目指しています。
現在、新たな製造手段と情報通信技術の発展と共に、ウェアラブルデバイス、スマートロジスティクス、スマートホーム、スマート医療、スマートサービスなどの分野で、スマート化が広がっている。さらに、人工知能、ビッグデータ、IoT及びクラウドコンピューティングなどが含まれた、多くの方向へ拡張しています。そして最終的には、別々に管理されていた生産プロセスは、今後全てが繋がるエコシステムに発展し、生産多様性と効率化の実現を目指しています。(「IoTNEWS」『中国版インダストリー4.0 「中国製造2025」とは [海外動向]』2016.11.16 06:00)
要するに、今回、中国政府が2600億ドル(?)を出して米国から購入した物の一部は、この「中国製造2025」の計画にそっている、と言えます。
・危うい金融市場
GDPが世界一になろうとも、、OECD(経済協力開発機構)・IMF(国際通貨基金)など各種国際機関が太鼓判を押そうとも、中国経済は危ういのではないか、と思っています。
理由の一つが、「アリババ」です。
2014年10月、支付宝(アリペイ)の親会社である浙江阿里巴巴(アリババ)電子商務有限公司が、「螞蟻(ばぎ)金融服務集団」を正式に成立させました。「螞蟻」は中国語で「蟻(あり)」「集団」はグループの意です。これは、インターネットの金融商品を取り扱うグループで、スマートホンで「アリペイ」のアプリを開くと、次の様なサービスプレートがついてきます。使用するか否かは、スマホのユーザー次第です。
「螞蟻金融服務集団」
・支付宝(アリペイ)、お財布ケータイのような支払い機能で、支払いをアリババが担保します。
・余額宝、米国のMMFに相当するオンライン・マネー・マーケット・ファンド。銀行よりも高額の利回りの資産運用商品。
・招財宝、投資家は定期預金の利息を保持したまま、いつでも引き出しが可能となる。個人投資家はローン期間が終了する前に引き出しのリクエストをすることができ、このシステムは旧債権者名の元に自動で新たなローン契約を結び、それを新たな投資家と紐付けし、余額宝アカウント内で旧債権者が即座に資金を受け取る仕組み。
プラットフォームに接続した余額宝ユーザは、期待金利、ローン期間、金融商品のタイプを予め設定できる。30日以内にリスト化された条件に見合う金融商品が出たときに、このシステムは自動で注文処理をしてくれる。招財宝のユーザは最低100元(16.25米ドル)から1,000元の資金を投資できる。
・螞蟻聚宝(Ant Fortune)モバイルマネーの公式サイト
・網商銀行(浙江網商銀行)民営銀行の一つ。インターネットを利用して、中小企業に対する融資問題や、農村金融等の問題を解決し、実体経済の発展を促進する。Inclusive financial system。
・螞蟻花唄、仮想クレジットカード。タオパオ・Tモールで買い物をし、商品到着後、翌月払いのオンライン・ショッピング・サービス。
・芝麻信用、支付宝のサービスの一つ。多くのデータから、個人の信用度を数字で算出するサービス。
・螞蟻金融雲、企業の為のITシステムを構築するクラウドコンピューティングサービス。
等々です。
これらの金融商品が、アリペイを使用する人々のスマホには必ず入っています。2015年6月の株バブルが引き金となった株価の大暴落もそうですが、中国の市場が暴走すると共産党幹部でもどうする事もできません。金融市場が不安定になっていて、それで2600億ドルと言いだしたのでなければよいがと、少し思っています。
次回は、「漢字の話、最終話」に戻ります。