ご覧になられた方も多いのではないかと思いますが、6月23日、テレビ東京で『仰天パニックシアター!!』という番組が放送されました。
ドバイでランボルギーニが燃えていたり、防弾ガラス越しに中華包丁を振り上げて金銭を要求する間抜けな銀行強盗や、野生のホッキョクグマの泳ぐ映像等々、面白い内容でした。出演者も好きな人物ばかりでしたが、中国人の人名表記がいけません。
番組終盤で河南省の特集をしており、何を思ったのか、漢字にいちいち中国語音のルビを振って字幕で流すのですが、全てがデタラメの類でした。
漢字は漢字文化圏では、その国の発音で読まれます。中国では、日本人の名前も中国語音で読まれますので、日本でも、漢字の名前は日本語音で読むべきです。それが正しい使われ方だからです。中国語は日本人にとって外国語です。学習したことが無ければ分かりません。ですから、漢字に中国語のルビを振っても、その正誤を殆どの日本人が判断できません。テレビがインチキ・デタラメを流しても、大多数の視聴者に分からないのは問題です。
以下は、番組に登場した漢字とその発音の表記です。
崔 愛芝 ツェイ アイヂー
楊 光合 ヤン・グンハー
干 知民 ユー・ヂーミン
李 永知 リー・ヨンジー
王 永楽 ワン ヨンラ(ワン・ヨンラ)
王 高遠 ワン ガオユェン
先ず気になるのが「・」の付いている人と、いない人がいる所です。私が中学校や高校で勉強した時には、「李白」や「杜甫」の読み仮名に「リ・ハク」「ト・ホ」などとはやりませんでしたので、基本的に「・」は必要ないと思っています。何の影響なのかは分かりませんが、気分で「・」を付けなかったり付けたりしているようにしか見えません。統一されていないのです。ここからも、相当いい加減なルビである事が分かります。
では、一人ずつ見ていきましょう。
・崔 愛芝 ツェイ アイヂー
観光タクシー斡旋業をしているという女性ですが、この名前の中国語の拼音(ピンイン、ローマ字の発音表記)は、
崔 愛芝 cui aizhi
崔cui は「ツゥイ」か「ツィ」の発音です。「ツェイ」は間違いです。
・楊 光合 ヤン・グンハー
楊 光合 yang guanghe
光guang は「グヮン」の発音で「グン」と言うのは全くの誤りです。
「崔」の音も「光」の音も違います。
・干 知民 ユー・ヂーミン
漢字には、似た文字があります。例えば「瓜」と「爪」、「牛」と「午」等が代表です。「瓜(うり)につめあり、爪(つめ)につめなし」とか、「牛に角あり、午(うま)に角なし」などと言って覚えたりします。
次の文字は非常によく似ていますが、好い覚え方は無いのかな、と思っています。
「干(かん)」と「于(う)」です。
三画目をはねるか否かの違いですが、実はこの文字は部首も違いますし、当然、意味も違います。「干(かん)」は「干(かん)」の部首です。この字は、武器を表した象形文字で、時代が下がると盾(たて)の意味になりました。それで「干戈(かんか、盾と矛)」と言う熟語は、武器の総称の意だったり、戦争の意だったりします。また、形声文字の音符としても使われるので「旱」「奸」「肝」等はすべて「かん」の音です。
「于(う)」は「二(に)」の部首になります。「二」は、文字の整理の上から部首に立てられたと言われています。「于」は漢文を学習すると感嘆詞や助辞として、「ここに」とか「これ」等の読み方で出てきます。また、人名にも使われていて、歴史上では漢の丞相の于定国(うていこく)が有名ですし、現代の中国でも「于(う)」という姓は珍しくはありません。
当然、中国語でも「干」と「于」の音は違います。
干 はgan (ガン)
于 はyu (ユー)
もう、お解りですね。「干 知民 ユー・ヂーミン」は漢字が違っているのです。恐らく「于 知民」と書きたかったのでしょう。中国人なら間違えるはずはありませんし、中国語や漢文を学んだ者なら違いは分かります。しかし、字幕を作る人物が、どちらも知らなければ区別するのは難しいでしょう。
・李 永知 リー・ヨンジー
李 永知 li yongzhi
リー・ヨンジーという発音は、中国語の拼音に近い音ではあります。しかし、その表記が問題です。
干 知民 ユー・ヂーミン
李 永知 リー・ヨンジー
知zhi という発音に対して、「ヂー」と「ジー」と二つの表記が使われています。同じ発音なのに、何故、仮名の表記が違うのか謎です。
・王 永楽 ワン ヨンラ(ワン・ヨンラ)
鉄股功14代目の継承者で、恐らくは高名な武道家なのでしょが、残念な事に番組では完全にイロモノとして扱われていました。まあ、それは制作側の自由なのですが、
一回目の字幕では「ワン ヨンラ」、二回目は「ワン・ヨンラ」で、しかも、番組のナレーションは「ワン ヲンラ」と発音していました。台本が違っていたのかもしれません。
問題はこれだけではありません、
王 永楽 wang yongleを「ワン ヨンラ」と字幕に出しているのですが、普通、発音する時には「楽(le)」は「ラー」「ラァ」とのばし気味に発音します。
だいたい、芝zhiを「ヂー」・合heを「ハー」・干・于を間違ったとは言えyuを「ユー」・知zhiを「ヂー」「ジー」・李liを「リー」とのばして表記してきたのに、何故、楽leが「ラ」なのか疑問です。
・王 高遠 ワン ガオユェン
王 高遠 wang gaoyuan
この人名は二度ほど字幕が流れましたが、にどとも姓名の間の「・」はありませんでした。それは正しいとは思うのですが、表記として統一されてはいません。
・まとめ
要するに、字幕として登場した名前全てに問題がありました。ここまで間違いの多い番組も珍しいと思います。
崔 愛芝 さいあいし
楊 光合 ようこうごう
于 知民 うちみん
李 永知 りえいち
王 永楽 おうえいらく
王 高遠 おうこうえん
と表記すれば、違っていても放送で流れる前に何処かの段階で誰かが気付くはずですし、視聴者は知らない漢字があってもテレビで学ぶことができます。ナレーターも脚本家も字幕を作る人物も、間違いは少なくなるはずです。
字幕の表記が統一できない。干と于の区別がつかない。中国語の発音に詳しいわけでもなさそう。
木曜日の夜に「鉄股功」の練習風景や、山羊の睾丸料理を取り上げるバラエティ番組です。視聴する側も楽しさ重視で、そこまで正確な事を求めているわけでもないのです。しかし、ならば、普通に日本語のルビを振れば好いのに、と思います。できもしないのに中国語音のルビを執拗に振ろうとするのは、どういう神経なのでしょう。日本のテレビ番組なのに不思議ですね。
次回は、「漢字の話(キラキラネームの秘密)」に戻ります。
ドバイでランボルギーニが燃えていたり、防弾ガラス越しに中華包丁を振り上げて金銭を要求する間抜けな銀行強盗や、野生のホッキョクグマの泳ぐ映像等々、面白い内容でした。出演者も好きな人物ばかりでしたが、中国人の人名表記がいけません。
番組終盤で河南省の特集をしており、何を思ったのか、漢字にいちいち中国語音のルビを振って字幕で流すのですが、全てがデタラメの類でした。
漢字は漢字文化圏では、その国の発音で読まれます。中国では、日本人の名前も中国語音で読まれますので、日本でも、漢字の名前は日本語音で読むべきです。それが正しい使われ方だからです。中国語は日本人にとって外国語です。学習したことが無ければ分かりません。ですから、漢字に中国語のルビを振っても、その正誤を殆どの日本人が判断できません。テレビがインチキ・デタラメを流しても、大多数の視聴者に分からないのは問題です。
以下は、番組に登場した漢字とその発音の表記です。
崔 愛芝 ツェイ アイヂー
楊 光合 ヤン・グンハー
干 知民 ユー・ヂーミン
李 永知 リー・ヨンジー
王 永楽 ワン ヨンラ(ワン・ヨンラ)
王 高遠 ワン ガオユェン
先ず気になるのが「・」の付いている人と、いない人がいる所です。私が中学校や高校で勉強した時には、「李白」や「杜甫」の読み仮名に「リ・ハク」「ト・ホ」などとはやりませんでしたので、基本的に「・」は必要ないと思っています。何の影響なのかは分かりませんが、気分で「・」を付けなかったり付けたりしているようにしか見えません。統一されていないのです。ここからも、相当いい加減なルビである事が分かります。
では、一人ずつ見ていきましょう。
・崔 愛芝 ツェイ アイヂー
観光タクシー斡旋業をしているという女性ですが、この名前の中国語の拼音(ピンイン、ローマ字の発音表記)は、
崔 愛芝 cui aizhi
崔cui は「ツゥイ」か「ツィ」の発音です。「ツェイ」は間違いです。
・楊 光合 ヤン・グンハー
楊 光合 yang guanghe
光guang は「グヮン」の発音で「グン」と言うのは全くの誤りです。
「崔」の音も「光」の音も違います。
・干 知民 ユー・ヂーミン
漢字には、似た文字があります。例えば「瓜」と「爪」、「牛」と「午」等が代表です。「瓜(うり)につめあり、爪(つめ)につめなし」とか、「牛に角あり、午(うま)に角なし」などと言って覚えたりします。
次の文字は非常によく似ていますが、好い覚え方は無いのかな、と思っています。
「干(かん)」と「于(う)」です。
三画目をはねるか否かの違いですが、実はこの文字は部首も違いますし、当然、意味も違います。「干(かん)」は「干(かん)」の部首です。この字は、武器を表した象形文字で、時代が下がると盾(たて)の意味になりました。それで「干戈(かんか、盾と矛)」と言う熟語は、武器の総称の意だったり、戦争の意だったりします。また、形声文字の音符としても使われるので「旱」「奸」「肝」等はすべて「かん」の音です。
「于(う)」は「二(に)」の部首になります。「二」は、文字の整理の上から部首に立てられたと言われています。「于」は漢文を学習すると感嘆詞や助辞として、「ここに」とか「これ」等の読み方で出てきます。また、人名にも使われていて、歴史上では漢の丞相の于定国(うていこく)が有名ですし、現代の中国でも「于(う)」という姓は珍しくはありません。
当然、中国語でも「干」と「于」の音は違います。
干 はgan (ガン)
于 はyu (ユー)
もう、お解りですね。「干 知民 ユー・ヂーミン」は漢字が違っているのです。恐らく「于 知民」と書きたかったのでしょう。中国人なら間違えるはずはありませんし、中国語や漢文を学んだ者なら違いは分かります。しかし、字幕を作る人物が、どちらも知らなければ区別するのは難しいでしょう。
・李 永知 リー・ヨンジー
李 永知 li yongzhi
リー・ヨンジーという発音は、中国語の拼音に近い音ではあります。しかし、その表記が問題です。
干 知民 ユー・ヂーミン
李 永知 リー・ヨンジー
知zhi という発音に対して、「ヂー」と「ジー」と二つの表記が使われています。同じ発音なのに、何故、仮名の表記が違うのか謎です。
・王 永楽 ワン ヨンラ(ワン・ヨンラ)
鉄股功14代目の継承者で、恐らくは高名な武道家なのでしょが、残念な事に番組では完全にイロモノとして扱われていました。まあ、それは制作側の自由なのですが、
一回目の字幕では「ワン ヨンラ」、二回目は「ワン・ヨンラ」で、しかも、番組のナレーションは「ワン ヲンラ」と発音していました。台本が違っていたのかもしれません。
問題はこれだけではありません、
王 永楽 wang yongleを「ワン ヨンラ」と字幕に出しているのですが、普通、発音する時には「楽(le)」は「ラー」「ラァ」とのばし気味に発音します。
だいたい、芝zhiを「ヂー」・合heを「ハー」・干・于を間違ったとは言えyuを「ユー」・知zhiを「ヂー」「ジー」・李liを「リー」とのばして表記してきたのに、何故、楽leが「ラ」なのか疑問です。
・王 高遠 ワン ガオユェン
王 高遠 wang gaoyuan
この人名は二度ほど字幕が流れましたが、にどとも姓名の間の「・」はありませんでした。それは正しいとは思うのですが、表記として統一されてはいません。
・まとめ
要するに、字幕として登場した名前全てに問題がありました。ここまで間違いの多い番組も珍しいと思います。
崔 愛芝 さいあいし
楊 光合 ようこうごう
于 知民 うちみん
李 永知 りえいち
王 永楽 おうえいらく
王 高遠 おうこうえん
と表記すれば、違っていても放送で流れる前に何処かの段階で誰かが気付くはずですし、視聴者は知らない漢字があってもテレビで学ぶことができます。ナレーターも脚本家も字幕を作る人物も、間違いは少なくなるはずです。
字幕の表記が統一できない。干と于の区別がつかない。中国語の発音に詳しいわけでもなさそう。
木曜日の夜に「鉄股功」の練習風景や、山羊の睾丸料理を取り上げるバラエティ番組です。視聴する側も楽しさ重視で、そこまで正確な事を求めているわけでもないのです。しかし、ならば、普通に日本語のルビを振れば好いのに、と思います。できもしないのに中国語音のルビを執拗に振ろうとするのは、どういう神経なのでしょう。日本のテレビ番組なのに不思議ですね。
次回は、「漢字の話(キラキラネームの秘密)」に戻ります。