M&A花盛りの外食業界》ゼンショーのロッテリア買収で生まれた「ゼッテリア」、吉野家は京樽を売却…米カーライルの100%子会社化で日本KFCはどう変わるか様記事抜粋<「ケンタッキーフライドチキン」を運営する日本KFCホールディングスが米投資ファンドカーライルの完全子会社となることが決まった。ケンタッキーを愛するファンのなかからは、「味が変わってしまうのでは」と不安がる声が聞こえてくる
近年、外食業界では企業の買収や合併(M&A)の事例が多いが、どんな背景があり、消費者や従業員にはどんな影響があるのか。そして、日本KFCの買収により、ケンタッキーフライドチキンの「変わらぬおいしさ」は変わってしまうのか──。フリーライターの池田道大氏がレポートする。 * * * 外食産業における買収事例は、カーライルと日本KFCに限らない。今年に入ってからも、牛丼チェーン・吉野家を展開する吉野家ホールディングスがラーメン店向け商材製造の宝産業を、ステーキレストランチェーンを運営するブロンコビリーがとんかつ専門店運営のレ・ヴァンを、複数の外食事業会社を傘下に持つコロワイドが日本銘菓総本舗を買収している。 コロナ禍による業績落ち込みに加えて、物価上昇や人手不足などの影響で苦境が続く外食産業でM&Aが多発するのは、企業の生き残り戦略の表れでもある。『外食入門』(日本食糧新聞社)の著者で、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さんが言う
「以前は単一業態を多く展開する単一業過多店舗展開が主流でしたが、近年は多様化する消費者のニーズに応えるための多業種多店舗展開が広がり、M&Aによるポートフォリオ化が進んでいます。『すき家』『なか卯』『ココス』『はま寿司』『華屋与兵衛』など幅広い業種を展開するゼンショーホールディングスがその好例です」(千葉さん)
外食業界で「規模の経済」が発揮しづらい理由
一般にM&Aによって事業規模が大きくなると、単位当たりのコストが低くなる「規模の経済」が発生して、競争上有利になるとされる。だが、日本経済新聞編集委員の田中陽さんは、「外食産業では規模の経済がなかなか発揮できない」と語る。 「以前、吉野家が京樽を子会社化したことがありました。ところが同じお米でも、牛丼のつゆだくがおいしく食べられるお米と、すし酢に合うお米は全く違う。仕入れ先を同じにして仕入れコストを下げようとの目論見がうまくいかず、結局、別々で仕入れることになりました」{回転ずし大手のスシローグローバルホールディングス(GHD)は、吉野家ホールディングス(HD)から持ち帰り専門のすし店などを展開する京樽(東京・中央)を買収すると発表した。2021/02/26}
外食産業のM&Aによって、従来のファンの賛否が分かれることもある。千葉さんが指摘するのは「ゼッテリア」。ロッテリアを買収したゼンショーが2023年9月にオープンした新業態である。 「かつてエビバーガーやリブサンドポークといったヒットを飛ばしたロッテリアは、外食産業の様々な業態を買収していたゼンショーが初めて手に入れた念願のファストフードですが、ゼッテリアという新業態をスタートさせた。斬新な試みを評価する声がある一方で、『せっかくのブランドがもったいない』『伝統を壊さないで』という声がロッテリアファンから漏れ伝わりました」(千葉さん)
店舗の雰囲気や味、ブランドイメージが一変するケースも
M&Aが及ぼす影響はコストやマーケットシェアなどの数字面に限らない。たとえ母体企業が変わったとしても飲食店を切り盛りするのは「生身の人間」だけに、経営者の交代が現場の士気を下げることもある。 「新しく来る人間がブランドに対する愛情を持っていないと、現場の人間と温度差が出て士気にかかわることがあります。実際、とある一大グループに買収されたもつ焼き店は従業員が江戸っ子のようにチャキチャキして元気があったけど、買収された直後に店を訪れると空気がどよーんとしていて従業員が一様に覇気のない表情になっていました」(千葉さん)
都内の40代女性もこんな経験を語る。 「近所にあった某ファストフード店はオシャレでハンドメード感あふれる店の雰囲気が好きでよく食べに行っていました。でもある時から急に店の雰囲気が変わってチープな感じになり、メニューも変わって味が落ちた気がしました。後で調べてみたら、ちょうど買収されたタイミング。かつての魅力が失われたことで、足が向かなくなりました」
モスバーガーやロイヤルホストのような「創業の精神」を貫けるか
外食産業のM&Aの命運を分けるのは「創業の精神」でもあると田中さんは言う。 「モスバーガーは創業者の1人である櫻田厚さんの“感謝される仕事をしよう”との精神を受け継ぎ、ロイヤルホストを擁するロイヤルグループも“食を通じて国民生活の向上に寄与する”という創業時の思いを貫いて、群雄割拠のファミレス業界で輝いています。 決して高給とは言えない外食産業で働く人の中には、創業者の経営理念が好きで働く人が一定数います。M&Aでそうした創業の理念や創業者の思いの部分が薄くなると、ブランドはいずれ立ち行かなくなるのではないでしょうか」
日本KFC買収の成否を左右する「フランチャイズオーナー」の動向
カーライルによる日本KFC買収で田中さんが危惧するのも「ケンタッキーを愛するオーナーたち」の反応だ。 「日本KFCのフランチャイズオーナーたちはみんなケンタッキーが大好きで、ケンタッキーの理念に共鳴してオーナーを続けています。なのでカーライルが無理な出店攻勢をしたり、伝統の味を変えるようなことをしたら、“もうついていけない”と離脱するオーナーが続出しても不思議ではありません。カーライルはいくつもの外食企業の再生を手掛けており、フランチャイズビジネスの難しさも熟知しているはずです。ケンタッキーが内部崩壊しないような舵取りが求められます」 もちろん、買収によってカーライルが持つ企業価値向上のノウハウが発揮され、日本KFCが飛躍的な成長を遂げるかもしれない。しかしその過程で創業者であるカーネル・サンダース氏と日本KFCが守ってきた“変わらぬおいしさ”が変わってしまったら──そう心配する熱心なファンに、日本KFC広報はこう呼びかける。 《KFCに受け継がれるいつまでも変わらぬおいしさを守り届け続けるため、この先も、創業者カーネル・サンダースの想いである「おいしさへのこだわり」を受け継ぎながら、更なる成長を目指し、お客様に信頼され、愛されるブランドを目指して参ります》
カーライル傘下による日本KFCの公開買付け(TOB)の成立で、カーライルは9月下旬までに日本KFCの株式100%を所有する予定となった。はたしてケンタッキーの味は変わってしまうのか。答えが出る日は、そう遠くない
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