「PBR」は実は役に立たない...? 個人資産800億円超の「伝説の投資家」が「PBRには大きく誤解されていることがある」と指摘する「意外な盲点」(現代ビジネス様抜粋記事)
その投資家とは、2005年日本の長者番付で一介のサラリーマンにも関わらず1位にランキングされた、当時「タワー投資顧問 運用部長」という肩書きだった渡辺達郎氏その人である。その後20年で実に個人資産800億円超、投資顧問会社でヘッジファンドを運用し、通算9300%という驚異のパフォーマンス上げた実績は「異次元」というほかない。 その書の一節に、「実は役に立たない『PBR』」という記述がある。しかし昨年、東証による各企業に対する「低PBRの改善要請」が行われ、その効果もあってか日本株式市場は活況を維持してきたという大方の見方もあった。清原氏はなぜこのような指摘をしているのか? 本記事ではその節について本書の一部を抜粋してご紹介する。
実は役に立たない「PBR」
私はPERの問題点を補う指標としてネットキャッシュ比率を使っています。その説明の前に、valuationのなかでPERの次に皆さんがよく使うPBR(株価 / 一株当たり純資産)について説明させてください。一株当たり純資産が100円で株価が200円ならPBRが2倍で評価されている、と言います。 ---------- PBR=株価 / 一株当たり純資産=時価総額 / 純資産 ---------- 2023年には東証がブチ切れて「PBRが1倍を割れている会社の数が多すぎる! この不甲斐なさはなんだ! しゃんとせんか!」と檄を飛ばして、ちょっとしたPBR相場になりましたねえ。
純資産=解散価値ではない
純資産は自己資本、株主資本とも呼ばれます。基本的に、それ自体で定義されることはなく「資産-負債」で定義されます。 純資産は解散価値とも言われ、「会社をたたむとこれだけのお金が残る」という印象を与えます。しかし、これは大きな間違いです。はっきり申し上げますが、純資産は解散価値ではありません。 そもそも上場会社で解散する会社などほとんどありません。また、現実的に解散しようと思うとそれに伴い膨大な費用もかかるでしょう。だから「会社を解散したら」という仮定をおいて議論するのは意味がないのです。 純資産を「解散価値」だと思っていると以下のような間違った結論を導いてしまうかもしれません。 これまで利益が出ていてPER10倍で株価が評価されていた。しかし、赤字になってPERで評価できなくなった。そこでPBRを見ると0.5倍だった。解散価値よりずーーっと安い。株価は倍になる可能性がある。 この議論の最大の問題は、この会社が持っている固定資産、例えば工場や機械設備を簿価で買ってくれる会社なり人がいると仮定しているところです。果たして、赤字を垂れ流す工場や機械設備が簿価で売れるのでしょうか? また、利益が出ていて配当を払っている場合は、株式はPERや配当利回りで評価されPBRはあまり意味を持ちません。つまり、会社が赤字になるとPBRのほうを見だすのです。 しかし、赤字になると普通は会社の持っている固定資産の価値も下がり、減損すればPBRの値も上がってしまいます。資産100億円の80%が固定資産だと、50%減損すると40億円の特別損失が出ます。もし借入50億円、純資産50億円だったとすると40億円の減損によって純資産は10億円に減少してしまいます。時価総額が25億円だったとするとPBRが0.5倍で「割安だ」と思っていた株が、減損したとたんにPBR2.5倍になって全然割安じゃなかった、ということになるわけです。 つまり、会社が黒字でも赤字でもPBRは評価基準としてあまり役に立たないことになります。
注目すべきネットキャッシュ比率
従って、見るべきは会社が赤字になろうがなるまいが同じ値段で売れる資産がどれほどあるかということです。それに会社が持っている現金を足して全負債を差っ引いた数字がキーなのです。それがネットキャッシュです。私はネットキャッシュとネットキャッシュ比率をこう定義しています。 ---------- ネットキャッシュ=流動資産+投資有価証券×70%-負債 ---------- ---------- ネットキャッシュ比率=ネットキャッシュ / 時価総額 =(流動資産+投資有価証券×70%-負債)/ 時価総額 ---------- ここではネットキャッシュの定義として流動資産の価値を100%とカウントし、固定資産の価値を投資有価証券以外はゼロと置いています。もちろん、流動資産が全部簿価で売れるわけではないでしょう。だから、本当は流動資産から在庫は差っ引いて計算すべきかもしれません。あるいは在庫は簿価の70%で評価するとか。 ネットキャッシュがマイナスの会社というのは、借金が「とりあえず短期間で現金化できる会社の資産」を上回っている会社だということです。これを「ネットデット(純負債)」のある会社と言い換えることもできます。ネットキャッシュがマイナス20億円の会社はネットデットが20億円の会社です。 私は、最初の大雑把なスクリーニングでは流動資産をそのまま使っています。投資有価証券に70%を掛けているのは一般的にコストが簿価を大幅に下回っていることが多く、現金化すると税金を払わないといけないからです。いちいち有報(有価証券報告書)でコストを調べるのも面倒なのでコストを保守的にゼロとして売った時の税金分30%を引いているのです(大雑把な計算なので税率30%としています)。これで時価総額20億円以上の条件でスクリーニングし、ネットキャッシュ比率で見て数値の高い順に並べます。
「ただ」で会社が買える?
個人投資家の方で自分にはそういうスクリーニングはできないという人は、とりあえず低PER、低PBR銘柄の中からいけそうな銘柄を選び、ホームページで決算短信を見てネットキャッシュ比率を確認してもいいかもしれません。PBRは低くても「この会社は固定資産ばかりで現金にまったく余裕ないわ」などとチェックするだけでもいいでしょう。 我々は、このスクリーニングを数ヵ月に一回やって割安銘柄の候補を探していました。最後にやったのはファンド終了の1年ぐらい前でしたかね。 その時はネットキャッシュ比率1以上の銘柄が320社もありました。ネットキャッシュ比率が1というのは「会社がただで買えるほど割安」ということです。数字が大きいほど割安ということになります。 ネットキャッシュ比率が1なら、お金を借りて時価でその会社の株を全部買うと、借りたお金は会社にある現金や換金可能な流動資産を売って返済できます。つまり、ただで会社が買えるのです。 さらにネットキャッシュ比率が1を超えている株式は「ただで会社をもらった上に現金までもらえる」ということですから、さらに非常識なvaluationです。常識ではありえないことが日本の株式市場では起きています。今は少し数が減っているかもしれませんが、非常識に割安な株式はまだいっぱいあると思います。
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