あんなこと こんなこと 京からの独り言

「京のほけん屋」が
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桃では無かった、桃の節供?

2010年03月01日 | うんちく・小ネタ

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3月3日は上巳(じょうし)の節供です。
本来は、三月初め(上)の巳の日に祝われたことから上巳の節供と呼ばれ、これが本当の名前なのですが、現在は桃の節供とか雛祭りと呼ばれるのが普通で、上巳の節供と言ってもあまりぴんと来ないかもしれません。

今回は、本当の名前より、みなさんに認知されているであろう「桃の節供」という呼び名についてのこぼれ話です。

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                                                              上巳の節供と思われる行事については中国の詩経鄭風に既に

 「三月上巳に蘭を水上に採って不祥を祓除く」

と書かれています。詩経の成立は紀元前9~7世紀とされているので、3000年近く昔にはそれらしい行事が行われていたことになります。もちろん日本での行事はこんな昔の話ではなくて、奈良・平安の頃中国のこの行事が伝わってきたものです。ここで問題は詩経の内容、「三月上巳に蘭を水上に採る」です。

登場したのは「桃」ではなく「蘭」なのです。
もっともこの蘭は我々の考える蘭ではなくて藤袴(ふじばかま)のことだと考えられています。藤袴と言えば秋の七草の藤袴ですが、藤袴は蘭に似た芳香を放つ植物なので、蘭の仲間と考えられたのかもしれません(花は似てもにつかないものですけれど)。

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芳香を放つ草は悪いもの、禍々しいものを祓う霊力があると考えられていたことから、これはそうした不祥を祓う行事だったのでしょう。
また「水上に採る」とは「水辺で採る」の意味です。水辺というのは水による穢れ祓い(禊ぎ)の際にこうした芳香を放つ草をその近くで調達したということでしょうか。

端午の節句と関係の深い菖蒲もまた、芳香を放つ水辺の植物ですが、これも節供が邪を祓う行事であって、その呪術的な道具として芳香を放つ水辺の植物が使われたことを示しています。

そして、身に付いた不祥は自分の身代わりの人形(古くは草人形、後には紙や布で作ったもの)に移して河に流していました。                                            各地に残る「流し雛」の行事はこうした古い上巳の節供の姿を残したものです。

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古い時代の節供には、この「邪を祓う」という行為が主であったので、関係する植物も邪を祓う水辺で調達出来るものが使われたようです。ですから、上巳の節供の始まりの頃まで遡ると今私たちが普通に「桃の節供」と呼ぶような、桃の花との直接の結びつきはなかったようです。

桃の花と上巳の節供が結びつくようになったのは何時かということはよく解らないのですが、どうやらこうした「邪を祓う行事」の意味が薄らぎ、お雛様が河に流されるような簡易なものから、家に飾られるような雛人形に変わってから以降と考えられます。だとすると室町時代の終わり頃でしょうか。

お雛様を家に飾り、様々な装飾を加える中で、香りによって邪を祓うための呪術的な道具としての「草」から、装飾にも用いられる「花」へと変貌したのでしょうね(芳香を放つという点では通じます)。

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桃の花自体は、前出の詩経の時代から佳い娘になぞらえられる花でしたし、鬼や邪気を祓う霊力のある植物であるとも考えられていたものですから、女児の節供にはぴったりの花として上巳の節供と結びついたのではないでしょうか(鬼退治といえば、桃太郎。これも「桃」による鬼追いの話です)。

我々にとっては上巳の節供と言えば桃の節供のことですが、最初から桃の節供として生まれたわけでは無さそうです。

「伝統行事」と一口に言いますが、こうしてよく見てゆくと、始めから今のような姿で生まれたわけではなくて、それぞれの時代時代に様々なことが付け足され、あるいは忘れられながら姿を変えて今の伝統行事になって来たのですね。

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161 コメント

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Unknown (NOいちご)
2010-03-01 02:14:31
どれだけ回数を深めても、
このブログはその内容の濃さと、
充実したコメントのやり取りが
変わりませんね。
どんなにご苦労されているものかと、
毎回、更新のたびに考えています。
素晴らしいブログとの出会いに、
心から感謝してます。

なぜ「桃の節句」と桃太郎の話
しに関連があると聞きました。
どういう関係なのか教えて下さい。
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NOいちご 様 (京のほけん屋)
2010-03-01 02:50:29
NOいちご 様
コメントに感謝致します。

昔から邪気の象徴は鬼とされており
(だから節分には鬼を祓います)、
邪気を祓う力のある桃には鬼を退治
する力もあると考えられてきました
(節分に桃を使って邪気祓いをする
神事も多数みられます)。
この思想がベースとなり、桃から生ま
れた桃太郎が鬼退治をする民話が
誕生したそうです。

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京のほけん屋様 (公務員の学校教師)
2010-03-01 21:11:07
京のほけん屋様
コメントの返しに、ご努力の様子が、
伝わって参ります。
遅い時間まで励まれるお姿に、
心が痛むほどです。
しかし、ビジネスブログとして、
このブログの位置付けを確たるものに
していこうとされるご苦労は、
すべて本業へ返ってくることでしょう。

心から、ご尊敬申し上げます。
俳句と併せて、雛について少し
お話をさせていただきます。

「天平のをとめぞ立てる雛(ひいな)かな」
(水原秋桜子)。
遠き時代への郷愁やかくばかり。ところが、
川での禊ぎはあまり一般化しなかったようで、
この日に形代(かたしろ)または人形(ひとかた)
で体を撫で、これに穢れを移して川や海へ
流すと言う日本独特の行事が生まれました。
今日は、京都の下賀茂神社でこの行事が
行われるとか。

「雛の眼のいづこを見つつ流される」
(相馬遷子)。
流されて逝く雛人形は、やはり淋しいの
でしょう。現在の雛人形の形は、元禄時代
にほぼ完成したと言われています。
この時代は庶民の経済力が著しく増加
した時代で、経済的に余裕の出来た
庶民が競って豪華な雛飾りを作るように
なり、雛壇に多くの人形を飾る者も
現れ現在に至っています。
ですが、
「草の戸も住替る代ぞひなの家」
(松尾芭蕉)。
時の流れは留まることなく、それも
遠い昔となります。
おそらく、
「古雛(ひいな)をみなの道ぞいつくしき」
(橋本多佳子)。
こんな風情だったのでしょう。
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京のほけん屋様 (Sugie)
2010-03-01 21:17:22
京のほけん屋様
おさらいの様になりますが、
桃の節句の歴史について
教えて下さい。

お雛さんは、子供の頃、
大きな7段飾りでしたが、
自分達の成長とともに、
飾り付けをしなくなりました。
大変なんですよね。
飾ろうと思うものの、箱から
出して広げると、2時間は
かかってしまいます。
少し、歴史などを学んで、
気持ちを切り替えないと~。
返信する
京のほけん屋様 (追えど日本橋)
2010-03-01 21:42:23
京のほけん屋様

桃の節句の祝い方やお祝いの
返し等が判りにくいですね。
家族だけでなく、親戚も招きたい
のですが、招いてどんな風に
もてなすのが良いのか。
男家族だった私には判らず、
家内も、外国暮らしが長い家庭
だったので、ずっと、人を招待せずに
すごしてました。

タイトルの飴の写真が素敵です。
今こそ食べたいなとはあまり思わないものの、
子供の頃は、この飴の絵柄で、
妹と取り合いになったものでした。

ほのぼのとする写真や、
きれいだなぁと感心する写真。
歴史的な写真など、いつも
目を奪われています。
記事も素晴らしいし、本業の保険屋さんの方も、
きっと素敵なビジネスをされているのでしょうね。
このブログから想像できます。
返信する
京のほけん屋様 (へ草ゴン)
2010-03-01 21:51:30
京のほけん屋様
お雛さんは、七夕のように地方によっては
一ヶ月遅れでする場合等もありませんか?
それと、白酒や菱柄のお餅などは、
どういう意味があるのでしょうか?
昔からの事だけに、何か深い意味が、
隠されていそうな・・気がするのですが。

記事の内容は少し私には難しいのですが、
でも、写真やそのテーマだけでいえば、
この桃の節句はほのぼのとした、
柔らかいお話ですね。
こういう記事が、歴史や宇宙等の記事の間に
入ってくるのですから、
京のほけん屋さんのまとめかたってすごいと
思います。
飽きさせない、離れさせないブログの編集力
ですね!
返信する
京のほけん屋様 (白金台のおぼっちゃま)
2010-03-01 21:58:43
京のほけん屋様

「上巳」って、中国歴と関係してませんか?
他には、どんな節句があるのでしょうか。

京のほけん屋さんのこの知識の源は、
どこにあるのでしょう。
日頃から読まれている本も、様々な
ジャンルのものなんでしょうね。
しかも、それらを熟読し、しっかり記憶
されているようですし、もはや天才
と呼ぶしかないですね。
これからも、素晴らしいお知恵を、
私たちに分けて下さい。
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Unknown (萩の秋吉)
2010-03-01 22:47:38
5月5日は男の子の節句。
祝日ですよね。
雛祭りが祝日でない理由って、
何か意味があるのでしょうか。
子供の頃から気になっていた
ことなんです。

男女同権じゃないのか!!
なんて、よく、この節句の休日
について話をしてました。
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Unknown (住吉二郎)
2010-03-01 23:18:10
特色ある雛祭りについて教えて
下さい。
どんな特徴のある祭りが、
全国にあるのか、歴史や謂れなども
含めた節句だけに、興味がわきます。

京のほけん屋さんの知識の凄さは、
いつも驚かされますね。
こういう人と、保険の相談をすれば、
満足しそうだなぁ。
いろんなケースの相談にも乗って
もらえそう。

遅くまでの返信に感謝します。
無理しないで下さいね。

返信する
ひなあられって、どうして (FUJII)
2010-03-01 23:28:27
ひなあられって、どうして
節句の必需品何でしょうか。
小さい時は美味しいなぁと思いましたが、
いまになっては、甘くもなく、固くも柔らか
くもなくで、何となくモノ足りません。
こういうものにも大きな意味が
あるのでしょうか?

京のほけん屋さん、
明け方までの返信、
本当に有難うございます。
そのご努力には、深く深く、
頭を下げたい思いです。
尊敬してます!!
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