小学生のある日のこと、通学用の黄色い傘が壊れ、
母に新品をおねだりしたことがありました。
傍らで聞いていた父に「もったいない」と怒られ、商店街の片隅で
乳母車1台を店舗に営業する傘の修理屋に連れて行かれたのです。
そうなんです。壊れた傘は修理して使う時代だったのです。
他に、包丁の研ぎ屋、キセル修理のラオ屋(羅宇屋)など、
職人的アフターサービスが昭和の循環型社会を支えていました。
そして消費社会の昨今、ある研究機関が消費者モニター4000人を対象に、
「アフターサービス満足度が高い企業」というアンケート調査を実施しました。
修理や問い合わせへの対応力、好感度が対象となったのです。
テレビは東芝、エアコンはパナソニック、カメラはニコンの評価が高かったのですが、
上位企業の共通点として「正確さ」「スピード対応」「低料金」という王道以外に、
「窓口との会話が楽しい」という意外な付加価値が報告されていました。
カメラの修理担当者とレンズ談義に花が咲き、故障のトラブルが
丸く収まったという話など、けっこう多いらしいのです。
これって昭和じゃないですか。
人と関わることが煩わしいというデジタル世代も、
意外とコミュニケーションに飢えているのかもしれません。
とすると、食品業界もアフターサービスの一環として対面で、
クレームや相談を受け付ける必要があるのかも。
野菜ソムリエや魚博士がスーパーに常駐して、レシピや栄養相談に応じれば
原産地表示やアレルゲン談義で盛り上がり、クレームが穏便解決!・・・
というメリットもあったりして。
いまでも、時々あの傘の修理屋のことを思い出します。
乳母車を前にして静かに客を待つ姿は見事に背景に溶け込んでおり、
雑踏に紛れる孤高の占い師のようでもありました。
傘の修理でメシが食えるのかなどと無粋な詮索をする人などいない、
旧き良き時代だったのです。