大木昌の雑記帳

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進む日本人の「草食化」-夫婦間のセックスレスについて-

2013-02-27 14:10:21 | 社会
進む日本人の「草食化」-夫婦間のセックスレスについて-


このブログの2012年9月21日と26日の2回にわたって,“「草食系男子」から「絶食系男子」へ”,
と題して青少年(高校生と大学生)の性行動について考えました。

そこでは,青少年の性行動を長期にわたって調査している日本性教育協会の調査結果を基に説明しました。以下に,その主な統計を再掲載します。

高校生・大学生のセックス体験率の変化(1974-2005-2011年)

     1974年 2005年  2011年
高校生
  男子 10.2%  27%   15%
  女子 5.5%   30%   24%

大学生
  男子 23%   61%   54%
  女子 11%   61%   47%

これらの数値から,高校生でも大学生でも,1974年から2005年にかけては,男子より女子の方がセックス体験率の増加がずっと大きかった事が分かります。

しかし,この増加率の伸びは,2005年以降は逆に減少傾向に転じました。

それでも,大学生の半数近くはセックスの体験者ですから,1970年代と比べると,はるかに高い数字ではあります。ただし,その中身をみると,
男子の場合,少し変化があるようです。

2006年に「草食系男子」という言葉がマスコミに登場しました。

「草食系男子」とは,“恋愛やセックスに「縁」がないわけではないが,「肉」欲に淡々とした,据え膳食わない男性”,と定義されました。

草食男子は一般に女性に対して優しさや,気遣いをもっていて,そこそこモテるので,軽い感じでセックスしたり,元カノと,
それほどこだわらずにセックスをすることも不思議ではないのです。

ただ,その場合でも必ずしも強い性欲から発するというより,挨拶のような軽い感じのセックスのようです。

興味深いのは,2011年当時,18才から34才の未婚男性の52%は交際相手がいなかったこと,うち74%は恋愛に関心がなかったり,
恋愛にお金を使うのは馬鹿げている,むしろ家でパソコンやテレビでくつろいでいた方がよいと考えていることなどです。

このような人の多くは自分は草食系男子であると考えています。つまり,最近流行の表現をすれば「オトメン」ということになります。

以上は,青少年の性行動に関する調査結果と状況ですが,結婚後のカップルにどのような現象がおきているのでしょうか。(注)

日本性科学学会が1994年にセックスレスについて「特殊な事情が認められないにもかかわらずカップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクト(ペッティング,オーラルセックス,裸での同衾など)が1ヶ月以上なく,その後も長期にわたることが予想される場合」,と定義しました。

日本家族計画協会が2012年9月に行った「男女の生活と意識に関する調査」によれば,この定義によるセックス離れは確実に進んでいるようです。

日本人一般でセックスに「関心がない」と「嫌悪している」の合計は,男性の18%,女性は半数近い46%でした。

この傾向は年齢が若くなるほど強くなり,16~19才の男性の30%,女性の60%が消極派でした。この世代全体の47%がセックスに無関心だったり,
嫌悪感を抱いたりしているという結果がでました。

次に,2012年における婚姻関係にある男女でのセックスレスの状況をみると,全体では41%で,2002年の31.9%, 2006年の34.6%,
2008年の36.5%,2010年の40.8%と,年を追うごとに高まっていることが分かります。

1ヶ月間のセックス回数でみると「5回以上」はわずか8%にすぎませんでした。

特に働き盛りの35才から39才の夫婦では47%,40才以上となると50%近くがセックスレスでした。

その理由のトップ3は,「仕事で疲れている」(男性28%,女性19%),「出産後なんとなく」(男性18%,女性21%),
「面倒くさい」(男性12%,女性24%)でした。いずれも,倦怠感ただよう夫婦関係を想像させます。

上の調査とは別に,日本家族計画協会が日本のコンドームメーカーの依頼で,2012年11~12月に,20~69才の男女6961人を対象に,
インターネットを通じて実施した調査によれば,既婚者の男性の82%,女性の67%が過去1年間にマスターベーションをした経験があると答えています。

ところが,週1回以上でみると,男性の65%,女性36%がマスターベーションを行っていました。婚姻カップルのセックスレス化が進む一方で,
マスターベーションにより性的満足を得る切ない男女の姿が浮かびます。

さらに女性にセックスの満足感を尋ねたところ,42%は「たまに,まったく感じない」と答え,「かんじているふりをした」は65%と多く,
既婚,未婚,年齢による差はありませんでした。

その理由は「相手に悪い」(54%),「早く終わらせたい」(29%)などで,女性の冷めた心情が伝わってきます。

しかし,それでは満足するための工夫をしているかといえば,「何もしていない」男性は49%,女性では54%と半数を超えていました。
この傾向は,セックスレスの人に顕著で,68%が何もしていない,と答えています。

上記二つの調査に係わった,家族計画センター所長の北村邦夫氏は「日本人にセックスが必要なのか,真剣に考える次期にきている」と述べています。

北村氏の患者さんの中には,結婚を機にセックスレスになった夫婦も多いそうです。「未婚期間が長くなり,性的満足感は結婚前に充足している。
結婚すると男女の緊張関係がなくなる上,仕事が忙しく,面倒くさいと思う人が多い」と分析しています。

以上のような現象の背景にはさまざまな要因が考えられます。未婚期間に性的満足を充足しているため,結婚すると男女の緊張関係がなくなる,
という北村氏の指摘は的を射ていると思われます。

最近では,いわゆる「できちゃった婚」が増えていることからも分かるように,結婚前に性関係をもつことは,かなり一般的になっていると考えられます。

このため,結婚後には夫婦間のセックスに新鮮な感覚を失ってしまうことは十分考えられます。

さらに,若者に顕著にみられるように,「草食化」どころか,「草すらはまない」傾向や,脱セックス化が長期的な傾向として進行しており,
そのような若者が結婚後も,セックスレスになっているのだと考えられます。

海外の事情と比べると,日本人夫婦のセックス事情は世界の最低水準にあるようです。

これには,やはり日本特有の事情があるに違いありません。日本人の,とりわけ男性の「結婚観」にも原因の一端があると思います。

つまり,日本人の男性にとって結婚とは,男と女の結びつきというより,子孫を残すため,身の回りの世話をしてくれる母親的役割を果たしてくれる女性が欲しいから,という便宜的な理由が主な動機になっているのではないでしょうか。

これは,嫁は「家」を継ぐべき子どもを生む存在,という古くからの封建的結婚観を反映していると共に,
男性が母親依存から抜けられない精神状況をも反映していると思われます。

夫婦間のセックスが貧弱化している反面,いわゆる性風俗産業は,その形態も数も,世界でも冠たるものがあります。

これは,矛盾しているように見えて,実は未だに根強く残る封建的な結婚観と表裏一体の状況を示しています。

封建的な結婚観の以外にも,残業が多く,上関係が厳しい日本社会独特の職場環境からくるストレスや,食生活のありかたなど,
多様な要因が夫婦間の性生活に関係していることは疑いありません。

しかし,現段階では,多数の要因がどのように関連して今日の日本における夫婦間のセックスレスを生み出しているかの全体像をを描くことはできません。

ただ一つ言えることは,セックスが子どもを作るためだけでも,快楽のためだけでもなく,夫婦間の大切なコミュニケーションの手段でもある,ということです。


(注)
以下の記述は,『毎日新聞』(2013年2月13日,朝刊)
平成22年度厚生労働科学研究班、「第5回男女の生活と意識に関する調査」
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226502324050 (2013年2月27日参照)に基づいています。
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