せめて
凍えて しまわぬように
凍えて しまわぬように
第5巻はハッキリ言ってとても辛いです。『フルバ』の作者の作品だから、雑誌で連載を読んでいて続きが気になるから、そういう理由で買い続けていますが、どうして楽しむために買った漫画でこんなにも深い絶望を突き付けられなくちゃならないんだ!
かといって楽しめないわけではなくて、むしろ面白いんですけどね。
約束していた花火大会に熱が出て行けそうにないと、サクヤに嘘をつく千広。せーちゃんと二人で夜店を見て回るサクの前に、聖といずれ結婚するのだと言う男が現れます。せーちゃんと二人きりになりたいその男は「いくら欲しいの?」とサクに金をチラつかせる。「…金ならやるって言ってんだよ」。紗己のところへ戻っていてくれと言われるサク。自分達に任せてくれと言う紗己はサクに千広の住所を教えます。
せーちゃんの前で気絶している、婚約者である男。一言も口をきかない聖。そんなお嬢を本条家の使用人達は持て余します。彼女が本音を吐けるのは、自分が拾ってきた紗己(さき)の前でだけ。
紗己がせーちゃんに拾われた経緯の描かれている番外編が「花とゆめ」3号に特別編として掲載されました。第6巻に採録されるのかな?
紗己に教えられた住所を訪れたサクは、殺風景で必要最低限の物しか置いていない千広の部屋に通されます。母はいないのかと恐る恐る尋ねるサクに、千広は冷めた顔で「さぁ でも多分 どこかの男とどこかで暮らしてると思う」と答えます。あの人は男がいれば平気な人だからと。自分が産まれてからも男をとっかえひっかえ、男が来るたび雨の日でも夜中でも追い出されたと、他人事のように淡々と。もう何も望まなくなった千広は椎名のようなすがる気持ち、親とか家とかを望む気持ち、泣く気持ちが分からない。そう言う千広にサクは「この星は千広くん」と夜店でアルファルドの形にしてもらった飴をお土産だと言って渡します。
初めて自分のことを他人に喋った千広は「…やっぱりこわいな 椎名は…」と寂しく笑う。
(手をつなぐのは 嫌いだ)
サクに会うのが嫌で、熱が出たという嘘をついた千広は、次のホカンの活動には必ず行くと約束します。この世界は本当はもう少しだけ優しいものなのかもしれない。そう思い始める千広の脳裏に、自殺したかつての恋人、桜の「ファンタジーだよ そんな世界は 幻想だよ…」という言葉がよぎる。
ホカンの活動日、千広の過去を調べ上げたせーちゃんはサクに、葵くんには東京に相手がいるのと真実を伝える。そこへ約束通り現れた千広、「サクは 身代わりなんでしょう?」と言われ、凍る空気。
中学生時代、千広の通う学校で問題児だった2年2組の天宮桜(あまみやさくら)。始まりは、何もかもに絶望していただけの千広が、陰湿なイジメに遭っていた桜の筆箱を拾ってあげたこと。
この世界に馴染めず、淘汰されるのもごめんだから勉強し人間とも付き合いそれなりに笑い遊び、「生きているフリ」をしていただけの千広のことを桜は「"向こう側"の人間なのに 優しいね……」と言います。上辺だけ周囲に馴染んでいるフリをしていた千広、上手に馴染んだフリができずにむき出しのままでいた桜。お互いを「独り ぼっち?」と惹かれあっていった。
二人きりの教室の窓から見える、星空のような街明かり。あれは全部お家の明かりだろうか。"おはよう"とか"おかえり"とか"いただきます"と家族でご飯を食べたりするお家。
「ファンタジーだよ …そんな世界は 幻想だよ… みんなみんな 虚像(ゆめ)だよ…」。
何故自分は生きているのかと狂ったように笑う、殴られた傷だらけの桜の顔。自分を忘れないでくれと言った千広に、桜は死ぬ時はこの桜の木の下がいいと言う。チヒロと初めて口をきいた場所だから。同じ高校に行こうと言ったら、「チヒロ あたま いいのに サクラに あわせるの だめ」と君は言った。やがて二人は違う高校に進学し、ある日また夫と言い争い、娘に手をあげた桜の母親から彼女が失踪したと電話がかかってくる。あの桜の下で死にたいという彼女の言葉を思い出して中学校に駆けつける千広。
サクラはあの桜の木で首を吊っていた。
意識不明の娘が担ぎ込まれた病院で言い争う桜の両親。平気で踏みにじり、自分達だけは守られる大人に逆上して椅子を持ち上げて殴りかかる千広。自分の言葉は何一つ、桜に届いていなかった。
停学となり留年した千広は叔父に、自分のいる田舎で高校生活の最後の一年をやり直してみないかと言われる。姉のことを許してやって欲しいと言う叔父に「どうでも …いいですよ」と答える千広。千広は決してくだらない大人達を許してはいないんです。どうしようもないと、もう何も期待できずに、ただ失望しているだけなんだと思います。桜が見限ったくだらない世界で自殺した恋人が目を覚ますのを待っている千広。桜が戻る日を待ちながら病室に通い、ずっと待ってると思った次には身勝手だと彼女を責め、次には罵った自分を責め殺して、また大好きだと乞う、その繰り返し。消えたいのに消える覚悟もなくてごめんと、ビルの屋上から飛び降りられない。
せーちゃんに罵られた自分を捜しに来てくれたサクは「"ここ"に居て 良かったよ…」とただ笑ってくれる。
…新しい 場所 環境で
サクラ
小さな星と出会ったよ
嫌な奴で 心を開こうとしない俺に 馬鹿みたいにつきまとって
よく笑って よくしゃべって
でも泣き虫で
決して彼女の為だけに言ったわけじゃない言葉に
ありがとうと言ってくれた
君に
一番伝えたいと想う気持ちは
多分一生伝えられない
サクラ
小さな星と出会ったよ
嫌な奴で 心を開こうとしない俺に 馬鹿みたいにつきまとって
よく笑って よくしゃべって
でも泣き虫で
決して彼女の為だけに言ったわけじゃない言葉に
ありがとうと言ってくれた
君に
一番伝えたいと想う気持ちは
多分一生伝えられない
第1巻で知り合ったばかりのチヒロが、星が好きだと言うサクに自分の好きなものは桜と答えていた、それが花の桜ではなく目を覚まさない昔の恋人だったという伏線が明らかになった第5巻です。
謎ばかり積み上げていき徐々に明らかになる手法は『フルーツバスケット』と同じですが、現時点ではとてもじゃないけどハッピーエンドの予感がしない。もちろんハッピーエンドが遙か先に用意されているのでしょうが、そこまでの過程が辛い。
お薦め度:★★★☆☆
完結してからまとめて読んだ方が楽しめそうです。
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