アルバニトハルネ紀年図書館

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『飢餓一族』全1巻/高河ゆん

2009-05-15 | 読書
 


これはどういうことなの?
日柿なんてぜんぜん好きじゃないのに
誰とつき合ったって平気……なのに
それともとられたら嫌だって思うくらいには……
……好きなの?


引き続き高河ゆん作品です。全1巻で完結。タイトルは過去に出した同人誌と同名ですが、結果として内容とマッチした「センスある題名」となりました。
この単行本が出た1994年時点では最初の高河ゆん公式ファンクラブ「CYC(CLUB Y CLUB)」がなくなっていたと記憶しています(高校時代に会員だった)。手元にあるファンクラブ会誌の一番新しいのが1993年2月の物です。
それでも『アーシアン』完結後しばらくはわりと熱心なファンでした。

三文小説書きを母に持つ文芸部部長の花園聖子(本名)はある朝、奇妙な夢で目が覚める。
アジアのどこかの亜熱帯、農耕をする人々。
得てして地味な高校の文芸部ですが、我が校に限っては部長の聖子のおかげで活動は派手。鋭い批評眼、適切な指導、練りに練った活動計画。この辺の設定は、1980年代に『夜嬢帝国』を築き上げ同人界に君臨していた作者の体験が元になっていると思われます。
そんな実力者たる聖子の前に立ちはだかる唯一の存在、それは生徒会長の日柿全次郎(ひがきぜんじろう)。文芸部だけ予算が多いのは不公平だ、学生らしい活動をしろ、と。
そして日柿は聖子の綾小寺綺羅というペンネームはよくない、本名の方が良い。美しい名前だからと言う。
何故自分は書かないのかと訊かれる聖子は、編集の方が好きだからと答えますが、実は子供の頃のトラウマがありました。自分の書いた文章を「すんげーーおとめちっく 笑えるーー!!」と母に大爆笑された幼い日の思い出。

本当に食べたい物が食べられず、代わりに学食のパンを一日中ひたすら食べ続ける日柿。聖子は夢の中で干し首を見たような気がする。おなかが空いたんです 花園さん 食べてもいいかな。日柿は「おっきな胸だな」「大好き」と聖子の胸を握ります。「触った」なんてものじゃない、「握った」!
「こんなときにいうのもなんですが 僕たちおつき合いしませんか」と言う日柿。「花園さん(の体が)好きなんです」。赤面しながらも拒否する聖子に、じゃあ恥ずかしいめにあわせましょうかと言う日柿。抜き出された聖子の日記帳、「おとめちっく」と笑われた過去がよぎるが、日柿の言葉は「僕はいいと思いますよ 女の子らしくて」。
初めて聞いた賞賛の声、「…つき合ってもいいけど いつもそれいってくれるか?」「はい」。少しくらい怪しい男でもいいやと、付き合い始める二人。
以来、夜になると聖子は電話でおとめちっくなポエムを日柿に聞かせ、それを聞いた日柿が「女の子らしくてかわいい」と答える奇妙なカップルの誕生。
日柿は自分の体が目当てなので、沖縄でも彼が喜ぶように恥ずかしい水着を着る聖子。


日柿と付き合い始めてから聖子は奇妙な体験ばかりするようになります。異次元へと続く扉、首のない死体の幻覚。
自分にとって恋のライバルである、当然のように日柿の隣にいる幼馴染みの外国人女性ジーン。
彼女のことを知ろうとすると、満月の度に怪しい行動をとる日柿の謎にも迫ることになってしまう。自分の文学を理解してくれればいいのであって、別に日柿が好きというわけではない。それでも二股は許せない。聖子はジーンとの決着をつけるために三人で鹿児島県の屋久島へ。そこで知った日柿の正体、首狩り族の王子さま。彼の家の妻には代々首がない。「だから僕の花嫁には首を切っても生きられる人じゃないとなれない」と言う日柿。自分のどこが好きなのかと尋ねる聖子に日柿は胸の形と答える。それは激しく自分の人格とかから離れてる。自分のことを知りもしないのに好きだというのは軽はずみと怒る聖子。続く日柿の台詞は「でも僕は花園さんの詩が好きだ あれって人格なんでしょう?」。「君の作品が好きだ」、その言葉があまりにも気持ちいい。

代々この島を支配する豪族だった日柿の家系、ある年の飢饉で飢えていた村人を、亭主を欺いて蔵まで連れて行った妻。もちろん見つかり、蔵に盗みに入った連中は見せしめのために断首。そして己を責めて首をかき切って自殺した心優しい奥様の悲しい物語。
それを聞いた聖子は、そんな不幸な呪いは打ち破るべきだ、そのためには首を切らない奥さんが現れなくちゃいけないと、お話の最後を作りかえます。

奥さんが死んで領主は気づくの 自分の心が卑しかったこと醜かったこと そしてほんとうはすごく妻を愛してたこと 領主は後悔し嘆き反省するの それで彼は島中をさまよって さまよってさまよってさまよって いちばん奥の屋久杉のとこで なんと!! 首を元どおりにくっつける魔法の薬を発見したのよ!!

…………花園さん
これだからあんたの作品って
バカバカしくてメルヘンで恥ずかしいんだよ
……だから
俺 あんたの作品が大好きだよ
あんたのかっこいい胸の形より
大好きだよ



お薦め度:★★★★☆
「LCミステリー」という掲載誌の内容に合わせた上で、完成度も高いです。

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