〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(93)

2016年04月24日 17時09分32秒 | エッセイ
  夢想
人間が死を怖れるのは、あたかも胎兒が世の中へ生れでるとき、どんな愛の手が待つてゐるか分からないで泣いてゐるようなものだと昔から言はれてゐる。この比較は慥かに科學的考査にはたへないだろう。しかし、うまい思ひつきの空想としてはなかなか美しい。かういふ空想がなんらの宗教的な意味を齎らさない人たち、つまり個人の精神は肉體とともに滅び、個性の永遠の存續はただ永遠の不幸を招くばかりだと信じてゐる人たちにとつてもこの空想は美しい。思ふに、この空想が美しいのは、とにかくそれがごく卑近な言ひ方で、絶對とは母性愛に限りがないごとく無邊際なものだといふことを多くの人に分からせたいという願ひを暗示してゐるからであろう。
……
「骨董」ラフカデイオ・ヘルン作 平井呈一訳 岩波文庫 1940年
                            富翁
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