〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(152)

2016年08月04日 17時25分27秒 | 
魔法
 知悉している者は少ないだろう。もう誰も読まなくなった書物のなかで、愚かな夢の何世紀かが過ぎて、五百人の爺ばかりが、朝日の丘に集まっていた。
 白髪、義歯、半盲、失禁、もう死ぬことのほか、何も残っていない連中だ。五百人の爺たちは、しかし元気だった。様々の女陰から、この世に出てきて、爺になるまでの年月を生きた悦びに満ちて、誰も彼も笑っていた。
 ばんざい、ばんざい。何故か、彼らは、下半身、丸はだかで、手に手に小旗を持って打ち振っていた。そして、大声で笑っていた。五百人の爺たちの大合唱となって、黒い竜巻のように、それは天に昇っていた。
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「鏡と街」粕谷栄市著 思潮社 1992年
                富翁
コメント (1)
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