「露地裏住まいの身なのですよ」と彼女はこたえましたが、この言葉はわたしの脳裏にこびりついて離れませんでした。
「路地裏の隣付き合いほど結構なものはありませんよ。わたしたちが寂しい時、お隣さんは一緒に寂しがってくれます。けれど、憎しみを掻き立てられたり、甦らせたりすることもありますね」
わたしはあえて彼女の言葉を訂正してやりました。
「憎しみってほどのものではないよ」わたしは彼女に言いました。「誤解だよ」
(「日向で眠れ」より)
「日向で眠れ 豚の戦記」ビオイ=カサーレス 高見英一・荻内勝之訳 集英社 1983年
富翁