俳句には切れ字というものがある。句読のない俳句において、切れ目を示す字であって、よむときには、そのあとに軽く息を入れるポーズが来る。修辞的な空間である。その空間は大きな残像と残響の生まれる空間であり、切れ字に詠嘆の感じを与えるものである。切れ字は間投の助詞の一種であるが、いわゆる切れ字がみられず、名詞止めがその代用をしている場合にも、同じような詠嘆の意味を生ずるのは、この空間の働きと見るべきである。これらの余韻は一句の詩趣の中心をなすものであるから、空間の抒情は俳句において大きな意味をもっていると言わなければならない。
「修辞的残像」外山滋比古著 みすず書房
富翁
「修辞的残像」外山滋比古著 みすず書房
富翁