La Terrasse

カフェ文化、パブリックライフ研究家 飯田美樹のブログ。著書に『カフェから時代は創られる』

アメリカの金融市場が好調なからくりとは?

2021-01-22 16:40:22 | 英文記事読解
 
毎日3000人もの方が亡くなり、毎週80万人もの人が失業手当ての申請をしているアメリカ。一方で株価は過去最高を更新するという、不可思議な事態が起こっています。株価というのは実際の経済状況を反映するものではないのでしょうか? こうした解離は一体なぜ起こっているのでしょうか。
 
この不思議なからくりは、コロナであまり打撃を受けなかった、もともと裕福だった人たちの元に大量の支援金が入り、彼らの貯蓄が増加し、支出が低下したことよる貯蓄の増加から起こっています。収入の観点でみると、仕事自体の数はコロナで6%低下したにもかかわらず、給与全体の合計は0.5%しか低下していないという不思議なことが起こっています。問題は、どのような仕事が失われたかということなのです。コロナ危機によって、富めるものはますます富み、貧しいものはますます苦しくなるという格差社会がより進行しているといわれています。実際に仕事を失った人の多くは低賃金のサービス業などでした。そもそも稼いでいる金額が少ない人が何人か職を失っても、コロナによって売り上げを伸ばした一人の管理職が多額のボーナスを手にすると、数字上はトントンになってしまうのです。
 
また、アメリカ政府が行ったCARES Actというコロナ対策支援策も非常に有効でした。失業手当ては週600ドル支払われ、これまで対象外だったフリーランスや契約社員にも支払われました。それだけでなく、一人当たり1200ドルの緊急支援も、実際にはコロナで打撃を受けていない人たちの収入を上げることに貢献しました。こうした結果、アメリカ人全体の収入は、2019年の同期にくらべて8%上がったのです。
 
支出の点でも変化がありました。重要なのはサービス業での支出の低下です。レストランや飛行機、コンサートやスポーツ観戦に使っていたお金は、在宅勤務用の上質な椅子や新しい自転車など、耐久消費財や、家飲み用のバーボンなどに使われるようになったものの、サービスに使っていたほどの金額を超えることはありません。こうして彼らの貯蓄は一気に増えたのです。これまで7%程度だった貯蓄率は33.7%まで上がり、過去最高を更新しました。つまり、何百万人ものアメリカ人が経済的困難に直面していた一方で、アメリカ全体での貯蓄率は驚くほど上がったというわけです。
 
そのお金をどうしたらいいのでしょうか?ただ貯金する人もいれば、投資にまわす人もいました。株式市場が盛り返してきた今こそチャンスだと思って買いに走る人たちも。また、低金利政策と在宅勤務によって郊外が見直されたことから、住宅の販売が急増し、住宅価格も上昇しました。つまり、コロナによって大打撃を受けなかった人たちの貯蓄の上昇が、多くの金融資産の上昇を促したといえるのです。
 
では2021年はどうなるのか?それは誰にもわかりません。ワクチンによって経済が活性化すれば、貯蓄率はもとに戻るかもしれません。ひとつ言えることは、2020年がそうであったように、予測するのは難しいということです。
 
※1月16日にWorld News Caféで読解した記事を要約しました。
" Why markets boomed in a year of human misery" New York Times 1月1日の記事

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