断想さまざま

研究者(哲学)の日々の断想

自転車が壊れた話(3)

2017-03-22 11:21:45 | エッセイ
 しばらく休んでから帰宅することにした。疲れていたし痛みもひどかったので、できれば病院に泊まっていきたかったが、医師のほうでは大したケガではないと判断したのだろう。タクシーを使うほどの距離ではなかったので、歩いて帰った。人気のない川沿いの道を歩きながら、月明かりがきれいだったのを覚えている。事故が起こったのは夜の8時ころで、すでに夜中近くになっていた。自宅近くのコンビニに寄ったら、店員が血まみれの私の姿に目を丸くし、それから慌てたように目をそらした。
 翌朝、寝ていると電話のベルが鳴った。時計を見ると六時である。ぼんやりした頭で受話器を取ると、警察からの呼び出しだった。「あのさあ」みたいなぞんざいなタメ口で、今から現場検証をしたいから事故現場へ来いという。今すぐかと訊くと、今すぐだという。おそらくは夜勤明けで、帰宅前に仕事を済ませてしまいたかったのだろう。あまりの非常識ぶりに腹が立ったが、ケガの状態がひどいことを伝え、現場検証は後にしてもらうことにして電話を切った。
 この事故はクロスバイクの前輪が外れたのが原因だったが、これは自転車そのものの問題というよりは、私がきちんと整備していなかったために起こったものである。この手の自転車は、乗る前にきちんとチェックしなければいけない。事故はそれを怠ったために起こった。不幸中の幸いだったのは、車輪が外れたのが高速走行中でなかったことだろう。全力で疾走している最中だったら、とてもこんなケガでは済まなかったに違いない。しかし低速走行中にもかかわらずひどい転び方をしてしまったのは、事故のさいに何が起こったのか分からず、とっさに防御態勢を取ることができなかったからである。実際私は、過去に山道で派手なスリップ事故を起こしたこともあるのだが、そのときもここまでひどいケガはしなかった。スリップしてから体が投げ出されるまでにタイムラグがあったから、その間に防御の態勢を取ることができたのである。