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ちょっとプラスチックのこと【高分子ポリマー材の重合と架橋のこと】

2021-09-20 | 技術系情報
ちょっとプラスチックのこと【高分子ポリマー材の重合と架橋のこと】
 高分子ポリマーなんで云うと難しく感じるが、様はプラスチックと呼ばれる素材のことである。このプラスチックは人工樹脂ともと呼ばれるが、人類が初の開発量産したプラスチックはセルロイドだと云われている。

 このセルロイドだが、現在はあまり使用されなくなったが、かつては映画用とかカメラのフィルムなどの透明樹脂として、人形などの造形物の素材として、多用された時代があった。日本でも大日本セルロイド(現ダイセル)という企業から、分離継承したのが富士フィルムという企業だ。

 ちょっと以前となるが未だ裁判も開始されていない、京都アニメーション放火事件があったが、犯人がガソリンをぶちまけ爆発的な燃焼が一気に広がり多数の被害者を生み出したのだが、ガソリンの可燃性の他に、セル画と云われるのに使用する透明な樹脂板はセルロイド製で、極めて燃えやすい素材であることも加味して考慮する必用があるだろうと想像される。

 ところで、このセルロイドだが、その基材はニトロセルロース(硝化綿:NCと表記される場合がある)と可塑剤としての樟脳が使われる高分子ポリマーだという。このニトロセルロースとは、かつては自動車の塗装にもよく使われたラッカー(正確にはNCラッカーもしくは硝化綿ラッカー)が知られている。

 また、大日本セルロイド社、つまり現在のダイセルという化学会社だが、いわゆる火工品(火薬)の製造メーカーでもあり、このニトロセルロースは現在でも火工品の主要素材の一つである。

 何時もながら前置きが長くなったが、今回の本論たる重合と架橋について、話しを進めたい。
 ここでは、乾燥硬化後は薄いプラスチック皮膜となり、非対称物を保護したり、様々な色艶で美観を形成する塗料を例にして、非重合型塗料と重合型塗料の違いを説明してみたい。

 塗料というのは、通常専用缶などに密閉された容器に液状として分離管理されている半製品というべきものだが、この塗料の成分を3分類に判ると、樹脂、顔料、溶剤に分けられる。この内、溶剤とは樹脂を溶かし、顔料(染料色)を樹脂中に分散させ液状とするためのものであり、缶から出して対象物に塗ったり、缶の蓋をしないで長期間放置すると、溶剤は空気中に放散してしまって、樹脂中に分散した顔料が固定された個体として残るが、これがすなわち完成品としての塗膜ということになる。

 ところが、この乾燥硬化した塗膜に、新たな溶剤(代表的なものとしてラッカーシンナー)を滴下すると、たちまち塗膜は溶け出してしまう。こういう塗料は、非重合型の塗料とここでは定義したい。

 一方、新車ラインで、主に金属面を塗装してある熱硬化型(焼き付け型とも称す)塗料や、新車の樹脂部分だとか、街の板金塗装工場で使用される2液混合型の塗料(多くはウレタン塗料と呼ぶ)などは、乾燥硬化した塗膜にシンナーなどの溶剤を滴下しても直ちに犯されることはない。ただし、長時間シンナーなどの溶剤に浸漬しておくと膨潤という現象を起こし、ちょっとした応力でも剥離したりしてしまう。

 この様な加熱もしくは2液の化学反応による硬化反応をする化学現象を重合と呼ぶ。また、重合型で重合反応することを架橋反応とも呼ぶ。この非重合型と重合および架橋反応後のプラスチック分子の概念図を添付図に対比して示す。

 つまり、重合型では架橋と呼ばれる構造で、非重合型の分子間が絡まっているが自由に動ける状態から、分子間に架橋という橋が架かった構造となり、シンナーなど溶剤に容易には溶けない強固な構造となる。このことは、大気中の紫外線だとか、経年における耐環境暴露性能の向上にも寄与する。

 ここで、我がことで恥ずかしいことだが、この5月の始めに転んで反射的に手を付いたのだが、あまりに応力負担が大きかったのだろう、左手手首を骨折してしまったことを述べたい。この骨折というのは、複雑骨折だとか粉砕骨折みたいな大きな骨折では、手術が必要になり、場合に応じて、金属ボルトや金属治具による補強までを行う必用があるが、単純骨折とか、ほぼヒビ程度のものでは、ギブス固定を一定期間続けることで、骨の細胞の再生作用で骨がくっつくまで動かない様にする処置を行う。この固定処置を行わないと、とても絶えきれない痛みが何時までも続くし、マトモに骨はくっつかず治らない。


 我が人生で、骨折した経験は、小指の関節近くの骨折に続き2度目のことなのだが、今回は幸いにも利き手でない左手手首だったので、何とか車を運転することも、食事や書き物、現在行っている様なPCの文字入力にも多少不自由ながら、何とか対応できて幸いだったが、誠に不自由を感じていることは確かだ。

 この骨折のギブス固定は、昔は石膏などを利用していたらしいと聞くが、現在のギブスは専用のパック袋からギブス様のマット(たぶんエポキシ系樹脂にガーゼ繊維を含浸させたもの)で、医療品としてはそうは呼ばないだろうが、カーボンファイバー積層樹脂で呼称されている「プリプレグ」とまったく同じ状態だ。そして、カーボンのプリプレグは、オートクレーブで過熱加温を一定時間させて硬化させるが、この医療用ギブスは、パック袋から取り出した柔らかいマットを巻き付け、その後に水ウエスで湿潤させることで、科学反応を起こし硬化が行われる。硬化反応中は、科学反応である程度昇温していることが体感できる。ここで、私の息子みたいな年齢のドクターの前で、「重合反応が進んでいる」と独り言を漏らすと、件のドクターは驚いた様に、「貴方は何をなさっていたんですか?」と聞いて来たものだ。いかなドクターと云えども、ケミカル分野の知識は、私も門外漢だが、おそらくそれ以下なんだろうが、固まる原理としての「重合」という言葉は習っていたのだろう。

 最後に、熱、2液、水などの重合反応以前の状態として、メーカーで製造してから、使用可能な期間のことを記して見たい。先の医療用ギブスマットは、おそらく真空パックされているので、数年とか相当な期間可能と想像されるが、カーボンファイバーのプリプレグの場合、-4℃以下の条件で1年以上可能とされているが、これが20℃程度となると数ヶ月程度と圧倒的に短くなる点に留意が必要だろう。

 そして、このことはプリプレグに関わらず、従来FRPと云えば、樹脂はポリエステルだったものが、最近はより樹脂性能の良いエポキシ樹脂に変わって来ている。これは成分は異なるが、プリプレグに使われるエポキシ樹脂の一種であることは違いない。それが、プリプレグの様に過熱温度で重合反応が始まるか、2液を混合させて科学反応として重合が始まるかの違いであり、2液の場合でも長期間の未使用では、硬化が進み粘度が高まり混合が困難とか、そもそも封入缶から流動して取り出せないという実例を聞くこともある。

 これは、私の住む地の隣接市にある、ロータス系のレストアだとか事故車リペアを行っている工場主から聞く話しだが、昔のエランやヨーロッパのFRPはポリエステル樹脂だったが、現在のエリーゼやエキシージだとかは、エポキシ樹脂に変わっている。これの補修用に18L入りエポキシ樹脂(主材、副材それぞれ)を仕入れて、1年後に使用しようとフタを開けたが、硬化して使い物にならないとぼやいていた。1台の対象車で18L(混合して36L)もの量を使う訳もないので、今後はもっと少ない量で仕入れなければイカンと云う話しだ。これも、可能であれば、保管用冷蔵庫に冷蔵保管することで、大幅に使用期間を延ばせる可能性はありそうだ。


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