風塵社的業務日誌

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金沢へ(1)

2018年10月23日 | 出版
某日曜日、妻にたたき起こされようやく起き出す。たまにはゆっくり寝かせてくれという気分だ。しかし外を見上げると快晴で、天高くという言葉が似合いそうな秋の空である。朝飯用に冷蔵庫から納豆を2パック引っ張り出し、器に移してから作り始める。それを見ていた妻が「あんたきのう、あしたの朝は納豆オムレツ作りたいって私が言ったら、ああ、いいねえって言ったじゃない!」とブチ切れ始めやがる。そんなこと、言ったっけ?だいたい、夫というものは妻の話を聞かないようにできているのだ。
9:00過ぎ、納豆をご飯にかけて、気まずい朝食が始まる。その気まずさに妻の方が耐えられなくなったのか、「きょうは天気もいいし、どこかに出かけたい」「どこかってどこだよ」「わかんないけど、行ったことのないところ」「フーン。都会系?それとも自然系?」「そうねえ、自然の方がいいかなあ」「自然って、山?海?」「山かなあ」「近場なら、秩父とか長瀞とか」「そのへんは行ったことあるじゃない」「じゃあ、その奥とか?」「金沢に行ってみたい」
金沢かあ。北陸新幹線で片道2時間半と聞いているが、ちょっと遠いよなあ。そこまで遠出する気にはなれない。2時間半もかけて遠くに行くのならば、小生は地元の安曇野にでも行きたいところだ。そこで、「じゃあ、金沢八景に行こう」と述べる。「そこってなにがあるの?」「知らん。八景島シーパラダイス」「名前は有名だけど、そこってどうなの?イルカのショーとかやっているところだよね」「知らないよ。行ったことないもん」「でも、本当の金沢までこれからっていうのは無謀だから、本当に金沢八景に行ってみようか。どうやって行くの?」「そんなもん、品川か横浜まで出て京急に乗ればすぐだよ。三崎に行く途中で降りればいいんだ」「なんだ、わりと簡単ねえ」
ということで朝食も終わり、小生が洗いものをしている間、妻は金沢区の観光名所をスマホで調べてみたようだ。「称名寺というお寺があって、その裏山が散策コースになっているみたいだから、そこに行ってみようよ。駅からそんなに遠くないみたいだし」と言い出した。「いいんじゃない。そこに行くことにしよう」ということで、洗濯やら掃除やらをすませて家を出れば、すでに10:00を大きく回っている。歩いて池袋にたどり着いたら、11:00過ぎ。11:26発の副都心線がもっともスムーズに横浜まで行きそうなのでそれを待っていたら、事故があって遅延げな。しかも、ようやく電車がホームに入ってきたら、ラッシュ時並みに混雑していやがる。そこで、電車に乗りたいのは小生らだけではないのである。しゃあないと現実を受け止めることにしよう。
バッグに入れていた詰碁の本に熱中していると、渋谷あたりでようやくシートに腰をおろすことができた。わが敬愛する趙治勲先生によると、囲碁の上達法の第一歩は、自分の棋力よりも少し易しいかなくらいの詰碁をとにかく大量に速く解くことであるということだそうだ。素人の場合、一つの問題を考えることに血道をかけるより、量をこなせということなのだろう。そのことによって、形が自然とオツムに入ってくるのかもしれない。
また一方で、考えるときは立って考えろという人間工学的な、しょうもない心理実験を基礎データとしたわかったようなものの言い方もある。ここで、「考えるときは立って考えろ」という命題をいちがいに否定しているわけではないが、本当にそうなのかという疑念は抱いている。そして、認知心理学などに基づく人間工学的なメソッドをどのように理解したらいいのかという、そもそも論を小生はわかっていない。したがって、このケースではこうしなさいという人間工学的な方向性になんとなく眉唾してしまうのである。
ところがそこで、シートに腰をおろしたとたん、急に睡魔に襲われてしまった。まさに、考えるときは立って考えろということなのだろうか。それともただの寝不足なのか。特に電車の場合、あの横揺れは睡魔を呼び起こす独特のリズムを生み出す。もしくは、池袋から渋谷まで詰碁を解いていたら、こちらのオツムが疲れちゃったのかということなのか。そのいずれが原因であるのか、もしくは複合的結果なのかなんて考察はどうでもいいではないか。要するに、地下鉄に乗っていて、前の人がどいたので代わりにそのシートに座ったら眠くなった。それだけの話だ。
そのままウツラウツラしていたら横浜着。乗り換えのためそこで降り、京急のホームへと向かう。東急から京急へと乗り換えるときのルートがなんとなく昔とちがうような気がするけれど、そんなことはどうでもよろしい。横浜駅も大掛かりな工事をしていたのだ。そして京急に乗り込み、金沢八景へと向かうことにする。つまりそこで、小生の脳内は「八景」に行くものと勝手に思い込んでいた。電車は上大岡を通り過ぎ、次の金沢文庫に着いた。そこで妻が「ここで降りないの?」と怪訝な顔で小生にたずねる。「金沢八景に行くんじゃないの?」と答えると、「ちがうわよ。称名寺の公園って金沢文庫駅が最寄なのよ!」なんて話していたら、プシュウとドアは閉まり、電車は京急独特のピロロロロ~ンみたいな音を立てて動いてしまった。こうして、小生にしてみれば念願の(?)金沢八景駅に降りることとなったのだ。

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