風塵社的業務日誌

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宇宙の底辺でセカチューを読む

2009年08月24日 | 出版
それなりに業務上の理由があり、セカチューを読んでみることにした。といって、マジメには買いたくない。帰宅途中にブックオフに立ち寄り、750円で買ってきたわけである。書店さん、どうもすみません。ちなみに、セカチューの映画もドラマも関心がなくて、まったく見ていない。
早速読み始めると、さすがに練りこまれた文体で非常に読みやすい。構成も、ヒロイン死後の主人公の虚脱と葛藤と、ヒロインと主人公との恋愛ドラマが交互に折り重なるように進むよう展開されていて、ヒロインが空港で倒れるクライマックスで、ちょうどその悲劇性が頂点を迎えるように工夫されている。一昔前ならば、弁証法に基づいたモンタージュ的手法とでも表現されたのだろう。
約10万字ほどの分量だと思うが、すぐに読み終えることができ、よく売れただけの内容なのだと実感した。売れることはとても素晴らしいことなので、それだけで賞賛に値する。

しかし、と、小生のキャラからしても、やはり文句を書かなければならないのだろう。
しかし、読んでいてそれほど面白い内容でもない。だいたい、人物設定が気に入らない。スポーツと音楽が好きで、お勉強もできる美男美女のカップルの恋愛話?それだけで、セカチューには小生の居場所がないと感じてしまう。登場する人物は、全員、屈託のない明るさをふりまき、幸福感が漂っている。そういう世界は早く原発でも爆発して、全員、白血病で死にやがれ!と、へそ曲がりのためか感じてしまう。
小生がこの小説の読者でないことは大前提的に明快なので、これ以上悪口を述べてもしょうがないのであるが、読んでいるうちに、登場人物に虫唾が走り、作品世界と著者への憎悪を感じてしまうのは止めようがない。しかし、こういう甘さが女性読者の支持を得るのだろうな。嗚呼、甘ったるい青春ラブロマンスなんて、手にしなければよかった。だいたいお前らはだなあ、病室でチューチューやっているから、白血病患者がヘンなバイ菌を拾っちゃったんじゃないの?
途中、こういう一節があった。「なんだかサラ金で首が回らなくなった、中小企業の社長みたいな気分だった」。よくある定型的な表現ではある。ところがこちとら、その首が回らない側の人間である。そもそも高校生のガキに想像も及ばない世界なので、ガキの感想としては、かなり現実性が乏しいはずだ。
しかし、小生がムッとするのは、そういった作品内容的な部分ではなく、著者がその気分をどうせ知らずに書いているだろう、ということが透けて見えてしまう点にある。つまり我々の資金繰り上の苦労は、サラ金程度で首が回らなくなることには、ない。少しでも、会社の経営にたずさわれば自明の話だ。オイッ、片山!一回苦労してみろ!それがイヤなら、弊社に印税を貸してみろ、ボケッ!
首が回らない奴というのは、わが愛妻が「保険金だけ残して早く死なないかな」と3日に1度は思うものである(ヘンなことを書くと、アクシデント発生時にまたお巡りさんがやって来るので、この表現は10日に1度と改めておく)。そういう世界の中心には、チューチューばかりやっているガキは存在しないのだ。そういう世界に、ぼくはいる。生き残りばかりを考えているぼくがいる。でも本当に、いるのだろうか。いないとしたら、会社は不渡りだろう(本書5P)。

結局、たいして面白くもなかったということ以上に書くこともないので、終わり。


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