風塵社的業務日誌

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顔を隠したがる女子(04)

2020年01月22日 | 出版
更新するのに時間が経ってしまった。おかげで、なにをどのように考えていたのかを忘れてしまったので、話を整理する。最近のマンガには仮面をかぶる(素顔を隠す)女子キャラが増えてきたと気がついた。その文化現象はどこから生じたのかと疑問を抱いたのが発端であった。だれもいない世界では仮面をかぶる必要などない(ただし、物理的な必要性があれば話は別。宇宙空間で酸素吸入していなければ死んでしまうといった)。したがって、他者のまなざしをさえぎるために仮面をかぶるわけである。そうすると、なぜ他者のまなざしをさえぎらなければならないのかと疑問は進み、このSNS社会において、キャラとパーソナリティの狭間にある自我が生きづらさを覚えているのではないのだろうかと仮説を立ててみた。また、マスク依存症もその仮面の一種なのだろうと思うとも記した。これまで記したことはそんなところだろうか。
さて、そこでマンガの世界にもどれば、そこに登場する仮面をかぶる女子は決して暗くは描かれていない。素顔をさらして「恥ずかしーい!」と叫ぶさまは、どこかパンチラマンガを思わせる。そこではスカートめくりをされた女子が、顔を赤らめながらスカートを抑えている状況が明るく、エッチに描かれていた。とすると、素顔をさらした女子とは、パンツをさらしてしまった女子と同類ということなのだろうか。相違する面もあれば、通底する面もあるのだろう。
なんといっても顔は顔であり、パンツはパンツである。そして、おパンツは隠すものという文化規範のなかでわれわれは生活している。しかし、女性は顔を隠すものであるという文化規範は、イスラム教の一部などをのぞいては、特に日本においては滅多にないことだろう。したがって、隠す必要もない顔をなぜ隠すのかという疑問が生じたわけだ。
一方、通底するのは、女性の恥ずかしがる仕草を、男子が喜ぶところにある。スカートめくりをする男の子は、本当は、女子のおパンツが見たいわけではない。その子がキャーキャー恥ずかしがっているさまを喜んでいるだけなのだ。それは、精通前の男の子のリビドーの発露なのかもしれない。したがって、その男子が成人してしまえば、視覚的刺激を求めて女性が見せたくないところを見たくなる、ということなのだろう。こう考えれば、素顔をさらして恥ずかしがる女子キャラが登場して、それをうれしがる男子の気持ちもなんとなくわかる。そしておそらくは、制作サイドもそのへんを計算して登場させていることだろう。
ところが、である。先日、某誌編集長のKさんがご来社されたおりこのブログの話になり、「仮面をかぶる女子といえば、ぼくは『けっこう仮面』しか思いつきませんよ」とおっしゃるではないか。オオッ、さすがはKさん、あの名作マンガのことを小生はすっかり忘れていた。永井豪大先生にはお詫びしないといけない。マスクをかぶって顔を隠してはいるが、その下はすべてはスッポンポンというグラマーな女子高生(?)が主人公である。よくもまあ、そういうオッパイボヨヨ~ンという描写のマンガが少年誌(『ジャンプ』だっけ?)に連載されていたなあと、いま振り返れば隔世の感がしてしまう。小生もあのスパルタ学園に入学したいと、心の底から夢想したものであった。
ガキのころの夢想はともかく、『けっこう仮面』の天才的なところは、上記した隠すべきものの文化規範を完全に転倒させたところにある。ストーリー構成は勧善懲悪となっているが、そんなのはとってつけただけの話であり、女子のお股とオッパイにしか関心のない年頃の男子にしてみれば、スッポンポンのヒロインのハイキックを受けたくなるに決まっている。そして、スパルタ学園の女子生徒全員が、実はけっこう仮面であったというオチだったのかな、忘れちゃったけど。
そこで話を本題にもどせば、そういう突き抜けた明るさなりリビドーの表現が失われていったところに、現在における「時代閉塞の状況」があるように思えてくる。キーワードは突き抜けるということになるのだろうか。しかし、この社会で突き抜けられる人なんてほんの一握りとなることだろう。ほとんどは突き抜けられない。小生も突き抜くなんて語とは無縁の存在だ。そうするとどうなるか。ある定型化された枠内に留まり、突き抜けた存在を排除していくしかない。
そこで、次に述べる機序を小生はいまだに充分理解しているわけではないのだけれど、その排除から閉塞感なり孤立感が生じていく(ここの説明がうまくできない)。そこから、他者に受け入れられない自分という自画像が生じ、それが転じて、他者のまなざしを恐れるあり方になったのではなかろうかと、仮説的に提示してみることにする。以上が、顔を隠したがる女子の登場する社会的下地の、一応の説明である。
ご批判ご意見は歓迎しますが、ネット上で論争するつもりはないので、小生の蒙を啓くご教示をいただいても型どおりな応対になってしまうことはお許しください。

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