風塵社的業務日誌

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ブタ箱物語(1)

2017年01月23日 | ブタ箱物語
夏が始まろうとする、とある木曜の蒸し暑い晩。気がついたら洋式の便座に座り、用便をしていた。ドアの向こうからは、若い男の声が聞こえてくる。「あれ? ここはどこだろう?」と眼が覚めた。会社で一人チビチビ酒を飲んでいた。そして、ふと時計を見たらずいぶん遅い時間になっていたので、あわてて帰ろうとしたところまでは思い出せる。しかし、そこから先の記憶はぶっ飛んでいる。
「大丈夫ですかあ?」とかなんとか、外の男は騒いでいる。用便の最中にうるせえ奴だなあ。見ればウォシュレットだ。「あれえ、近くのコンビニのトイレにでも入っているのかなあ」と瞬間思いながら、ウォシュレットでお尻を洗ってからドアを開けると、そこに立っていたのは若い警察官だった。なんで?
外の風景を眺めると、真っ暗ではあるけれど、自宅の近くの交番にいるようだ。パイプいすに座らされて、事情聴取が始まる。「あなた、さっきあそこの選挙ポスターを破ったでしょ?」と、その若い警官が記入する用紙を手にしながら質問してくる。なんだ、そりゃ。まったく記憶がないぞ。これはどうしたものかいな。
酔っ払ってしまって、例によってブラックアウトを起こしていたのだろう。せっかく家の近くまで帰り着きながら、つまんないことで交番に引きずり込まれたものだ。警察官が被疑事実や住所、氏名、年齢、職業などをしつこく聞いてくるが適当に受け流しつつ、どうしたものかと思案する。といって途は二つしかない。大した罪でもないようだから、警官の質問に素直に答えてさっさと釈放されることを願うか、それとも黙秘を貫くか、それだけである。他の選択肢があれば、ご教授願いたい。壁にかかっている時計をチラッと見れば、すでに23:00を回っている。とっとと家に帰って水でも浴びて眠りたいなあとは思うものの、ここは左翼の原則にのっとり黙秘路線を選択することにした。
したがって、若い警察官の質問には「お答えしません」とか「黙秘します」という対応をとることになる。しかし、背負っていたリュックの中身を点検されることまでは拒否できない(法律的にどうかは不明)。そうした小生の態度が不遜なものと、正義感あふれる彼の目には映ったのだろう。段々と口調がいらついて荒っぽくなるから、単純な奴だなあと小生は可笑しくなってしまう。
若い彼がてこずっている様子を見かねてか、どこかから年配の警察官が現れた。さして広くもない交番のどこにこいつはいたのかなあと思っていると、若い方が年配になにやら報告している。すると、「しょうがないねえ。まあ本署で調べてもらいましょうか」と言い始めた。そりゃまた面倒くさいなあとは内心思うものの、黙秘路線を選択した以上は仕方がない。交番内であちこちへの連絡が始まった。
一通りの連絡がすんだのだろう、「じゃあ、こちらに来てください」と誘導されたのが、交番のわきに止められていたパトカー。それまで姿を見せていなかったもう一人が運転席に座り、小生は後部座席の中央に押し込められ、両脇を若いのと年配のと二人の警察官に挟まれ、いざ、M署へGO!
夜の東京の街のドライブって、小生にとっては非日常なのでワクワク感がけっこうある。かなり以前のことであるが、妻が昔お世話になったシカゴ在住の女性が訪日された。それで東京案内を小生がすることになったので、夜(といっても19:00とか20:00くらい)、新橋あたりでタクシーを拾い、銀座経由で東京駅に向かってもらった。すると銀座のネオンに彼女は喜んじゃって、「Oh! Wonderful!」とはしゃいでいたのを思い出す。東京の夜景はシカゴどころではないのだ。
どういうルートだったのか定かではないけれど、パトカーはサイレンを鳴らさず静かに住宅街を通り抜け、すべるようにM署の裏口へと入っていく。運転が上手だ。降ろされてから、小生ら一行は階段を上がって二階へと通らされる。警察署の二階なるところに、以前あることがあって、小生も一度行ったことがある。そこは、たくさんの机が並んでいる広いフロアで、端の方に取調室になっている小部屋がいくつかあった(広いとかたくさんとかの数値化はできない)。
通されたM署の二階も同じような造りであった。おそらくは全国の警察署も似たような構造になっているのだろう。そこで待機していた取り調べ班に小生を引き渡し、護送チームは帰っていく。どうでもいいような話にくだらないまでに律儀な連中だなあというのが、小生の正直な感想だ。それとも、一人でも多く本署に連行するのは、彼らの点数になるのだろうか(警察の内部事情に疎いので、くわしい方はご教示を)。
ちなみに、この段階まで「逮捕する」と言われた記憶はないし、手錠をはめられているわけでもない。酔っ払っていたといえばそれまでだけど、実はおのれの置かれている状況がどういうものなのか、いまいち理解していなかったのだ。

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