風塵社的業務日誌

日本で下から258番目に大きな出版社の日常業務案内(風塵社非公認ブログ)

イワシのヌカ漬け

2020年03月31日 | 出版
日曜日。前夜から降り続いていた雨が雪に変わる。寒い。コロナに感染されないためではなく、ただ単に濡れたくないから外に出る意欲などわかない。そういう日に限って、日曜のお楽しみである囲碁の放送がない。しかも金欠でイライラしており、くだらない報道番組を見ていると腹が立ってくる。しょうがない。まずは朝食を作ることにしよう。実は前日、イワシの丸干しが安かったので妻に買ってもらっていた。8匹入って300円ほどである。これはお得だなあと思いつつ、そのうち2匹をヌカ漬けにしていたのだった。アニメ『食戟のソーマ』にサンマのヌカ漬けというのが出てきたので、魚をヌカに漬けたらどうなるのだろうかと興味津々であったのである。
そして、ヌカに漬けていないものと漬けたものとをそれぞれ2匹ずつ焼いてみて、妻とご試食会。漬けてなくても充分に美味しいものの、漬けたものはその洗練度が格段とあがっていてビックリ。青魚の臭みは取れているし、なにより、内臓の苦味が香ばしくなっている。小生はイワシの丸干しなんて頭からかぶりつくタイプであるけれど、箸でさばいて食している妻に言わせると「漬けてないのに比べると、身が面白いように骨からはがれる」げな。これまでの人生のなかで魚のヌカ漬けを食したのはおそらく初めてではないかと思うのだけれども、なにごともやってみるものだと実感する。残りの4匹もさっそくヌカに漬けることにしたのはいうまでもない。
これは、イワシに限らずほかの魚の切り身でも試してみたいものだ。しかも、スーパーとかでいかにも安そうに加工されている魚をヌカに漬けたらどうなるのだろうかと想像すると、楽しみが増えてしまった。金欠鬱であるがゆえに、楽しむことを忘れてしまったら発狂しか道は残っていないのである。実は最近、ヌカ漬けがちょっとしたマイブームとなっている。定番のニンジンやら大根やらはもちろんのこと、軽く茹でたゴボウやブロッコリーの茎も、ヌカ漬けにすると素材の味がさらに強烈になるような感じでなかなか美味しい。そのため、「野菜料理(レギュム)の魔術師」と密かに自称している(元ネタは『ソーマ』)。
朝食を片付けてから、これは面白い体験をしたと、ゆで卵のヌカ漬けとミソ漬けを作ってみることにした。ミソ漬けはヌカの対照実験のためである。ちなみに漬物容器など使っているわけがない。パックのヌカ床を、ズボラな小生が使うに決まっている。それでもしかし、この金欠地獄を抜け出したら、漬物容器を買ってきて会社でもヌカ漬けを作りたいなあと考えてしまう。ところがひとつだけ問題がある。わが家のキッチンでは流しの排水口に100均で買ってきたネットをかぶせてあるものの、毎日ヌカ漬けを作るようになってから、その詰まりのペースが速くなっているような気がしているのだ。したがって社内でもヌカ漬けを始めたら、同じことが予想される。ズボラな小生が、メンテナンスにどこまでこまめになれるかが勝負かなと想像してしまうのだ。
信州弁に、ずく、または、ずくなし、という語がある。一般的には、ずくなしの方が使用頻度が高いことだろう。そしてずくなしとは、面倒くさがり屋、ものぐさな人、ぐうたらという感じの意味である。小生など典型的なずくなしなので、細かい作業をチマチマやること自体を面倒に感じてしまう。そのゆえに、おのれがどこまでメンテナンスを続けられるのかということには自信がないものの、そのまた一方で、特に料理においてはひと手間が求められることが多い。例えば隠し包丁を入れるとかだ。こちとら、そのずくなしであるがため、そのひと手間をかけないでもすむヌカ漬けにはまっているという面もある。そう考えると、人生とは矛盾の連続でしかない、という感慨に打たれてしまう。
どうでもいい感慨であった。日曜日の話にもどる。昼食の片づけを終えてから「夕食はソイミートのマーボー豆腐と豆腐ステーキと豆腐ハンバーグと、どれがいい?」と妻にたずねると、「いまご飯食べたばかりじゃない」と文句を付けつつ「じゃあ豆腐ハンバーグ」と一番厄介なやつを選択しやがる。ある長期受刑者が満期出所しシャバでの生活を始めることになった。その生活がしばらくしたある日、「毎日の生活でなにがお困りですか?」と小生がたずねると、「毎日三食作ること」との答え。「なかにいたら、強制的に三食食べなきゃいけないでしょ。でもシャバだと、それを自分でなんとかしなければいけなくなるけれど、それにいまだ慣れない」。朝食を作り、昼食を作り、晩飯の献立を考え始めつつ、その方の言い分が実感としてよみがえってくる。
ようやく雪なのか、雨なのかが上がったので、豆腐ハンバーグを作るのに必要な食材を買いに出る。しかし結論的には、小生がイメージしていたようなものを作ることはできなかった。お好み焼きのようなものになってしまったのだ。そこで反省してみるに、豆腐ハンバーグなるものを、そもそも小生は食べたことがあったのだろうか。豆腐ハンバーグにはこれまで数回挑戦してきたものの、どれもこれも似たような結果に陥っている。どこかのお店で、これこそが豆腐ハンバーグというものを味わうしかないのかもしれない。そして翌朝、ヌカ漬けにしたゆで卵を味わってみる。まだ漬かり方が浅いものの、なかなかいけそうだ。塩気の強いミソ漬けより、かなり優雅な味わいである。これまた新たな発見をすることができた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿