
孤独とのたたかい
『盤上の夜』宮内悠介 東京創元社 2012年 1600円
『サラの柔らかな香車』のような、盤上のゲーム(囲碁、将棋、チェッカー、マージャン、チャトランガなど)にまつわる6つの物語集。すべて前半はそれぞれのゲームのトップに立った者たちの数奇な物語を展開し、後半は現在の様子をインタビューアーが関係者などから証言を集めるスタイルがとられている。どの話も、その世界観や語られる言葉が印象的だ。そのゲームにも宇宙が広がっている。
最初と最後の物語は囲碁にまつわるもので、ある国で四肢を切られ(世間にはその事実は公表していない)軟禁状態にあったところから抜け出すのに囲碁を覚え、そのおかげで名が知れ渡り、たまたまその国に来ていた棋士の手を借りて、無事帰国できたという由宇とその助けた棋士、相田の話だ。由宇は体の代わりに盤で痛みなどを感じるという。彼女は「この世界を抽象で塗り替えたい」という。
由宇は囲碁を「九割の意志と、一割の天命」と言うが、マージャンは「運の世界」と言う。また「狂気を、いかにして狂気で上回るか」という世界なせいか、彼らは凡人ではない。マージャンの話に登場する、宗教法人の代表の女性は統合失調症を患い、一緒に卓を囲んだ当時9歳の少年はアスペルガー症候群だ。ただ、少年はマージャンをすることで救われている。
またチェッカーは「底なしの井戸を覗きこむようなもの」とされる。チェッカーはチェスと比べ、子どもの遊びと称されるようだが、このチェッカーの名人ティンズリーが闘う相手は、コンピューターを越えて、「神と戦って」いたのである。
またチャトランガでは、ブッダの息子のラーフラが登場し、「新しい宇宙観で、世界を塗り替え」ていく。大国の属国である小国の生きる知恵が、チェスや将棋の原型ともされている。
本書で語られる将棋の世界は、生きることにそのまま直結している。ある兄弟と一緒に育った年の近い女の子の3人は、将棋を知り、「性と暴力が支配する」平屋から「この世ならぬ声に満ち満ちた神話の世界へ」羽ばたいていった。だが、将棋の世界に残った1人は孤独と闘うこととなる。
孤独、というのはどの勝負の世界にもついて回る。それは常人には想像もつかないほどのもののようだ。
★★★+








