天上の月影

勅命のほかに領解なし

親鸞聖人と浄土真宗(1)

2018年12月26日 | 勉強日誌
 親鸞聖人はみずから〈いのち〉を仰ぐ教えを浄土真宗と名づけられました。略して真宗といいます。注意しておかねばならないのは、このときの浄土真宗は今日のような教団の名前ではなく、教えの名前であるということです。それを宗名(しゆうみよう)といいます。今回はその宗名がどのような教えを指しているかということをお話したいと思います。
 皆さまがたはこれまで、親鸞聖人の師・法然聖人は浄土宗を開き、弟子の親鸞聖人は浄土真宗を開いたと聞いてこられたと思います。中学や高校の日本史の教科書などにはそのように記載されていますから無理もありません。いわば一般常識といえるでしょう。けれどもそれは間違いとまではいいませんが、正確ではありません。というのは、親鸞聖人は法然聖人の浄土宗の外(ほか)に浄土真宗を開くというような意思はまったくなかったからです。親鸞聖人は生涯、法然聖人を慕い続けられました。自身は法然聖人の弟子であるという姿勢を崩されることはなかったのです。『歎異抄』を開いてみてください。その第二条、『註釈版聖典』の八三二頁です。「おのおの十余箇国のさかひをこえて、身命をかへりみずして、たづねきたらしめたまふ御こころざし、ひとへに往生極楽のみちを問ひきかんがためなり」という言葉で始まっています。親鸞聖人の御生涯については別の機会にお話しますが、これはおそらく親鸞聖人の子息であった善鸞という人が関東で親鸞聖人の教えとは違う教えを説いて、関東の門弟たちに混乱を来たし、お弟子たちが親鸞聖人の真意を尋ねようとして、はるばる関東からやってきたときのことと思われます。おそらく親鸞聖人は八十歳を超えていたのではないでしょうか。その第二条の詳しいことは『歎異抄』を勉強されるときに学んでいただかねばなりませんが、「親鸞におきては、ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべしと、よきひとの仰せをかぶりて信ずるほかに別の子細なきなり」といいきられておられます。「よきひと」とは法然聖人のことです。その教えをいただいているほかに何もないといわれているのです。ここに親鸞聖人の姿勢が読みとれるでしょう。また『親鸞聖人御消息』第十六通、『註釈版聖典』の七七一頁です。

故法然聖人は、「浄土宗の人は愚者になりて往生す」と候ひしことを、たしかにうけたまはり候ひしうへに、ものもおぼえぬあさましきひとびとのまゐりたるを御覧じては、「往生必定すべし」とて、笑ませたまひしをみまゐらせ候ひき。文沙汰して、さかさかしきひとのまゐりたるをば、「往生はいかがあらんずらん」と、たしかにうけたまはりき。いまにいたるまでおもひあはせられ候ふなり。

といわれています。これは最後に「文応元年十一月十三日 善信八十八歳」とありますから、御往生なされる二年前の御消息です。「笑ませたまひしをみまゐらせ候ひき」とあるところから、親鸞聖人は法然聖人が微笑まれたのを直接ご覧になられていますので、特定はできませが、二十九歳から三十五歳までのいわゆる吉水時代、法然聖人の膝下にいたころのことと知られます。法然聖人が「浄土宗の人は愚者になりて往生す」とおっしゃったことを確かにうけたまわったといわれます。そしてそれをつまびらかにするために、エピソードを述べられます。法然聖人が「ものもおぼえぬあさましきひとびと」、ただひたすらお念仏申している人がやって来られたのをご覧になっては「必ず往生するであろう」と微笑まれたのに対し、学者ぶって賢そうに振る舞う人が来られたのをご覧になっては「往生はどうであろうか」でおっしゃったというのです。法然聖人は『和語灯録』巻五「諸人伝説の詞」に「聖道門の修行は、智慧をきはめて生死(しようじ)をはなれ、浄土門の修行は、愚癡に返りて極楽にむまると」(『真宗聖教全書』四・六七七頁)といわれています。「聖道門」「浄土門」といった言葉は後にお話しますが、たいへん有名な言葉です。賢くなるのではない、愚にかえるのです。愚にかえってお念仏申させていただくのです。そうした人をご覧になって法然聖人は微笑まれたわけです。それを「いまにいたるまでおもひあはせられ候ふなり」といわれています。親鸞聖人は八十八歳になっても五十年ほど前のことを今に至るまで思い合わせていらっしゃるのです。そこにも親鸞聖人の姿勢がうかがわれるでしょう。そのほか『親鸞聖人御消息』第六通など、いたるところに法然聖人が「他力には義なきを義とす」とおっしゃったということがいわれています(『註釈版』七四六頁ほか)。こうして親鸞聖人は法然聖人の言葉を生涯にわたって噛みしめ、確かめていらっしゃるのです。その親鸞聖人が法然聖人の浄土宗の外に新しい一宗を開こうという意思などなかったのです。
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