2年前の事になるが
ある小冊子に掲載された原稿のコピーが出てきた。
それは母への詫び状だった。
「 許してはなりません!」
母が天国に旅立って、幾年が過ぎたのだろう。
後、三年で私は、母の逝った八十歳になる。
私が忙しく仕事をしていた五十代の頃、
母に「アルツハイマー」が発症した。
まだ、「マダラボケ」程度の時、見舞う私に母は哀願するように言った。
「ヤスコちゃん! お父さんと行った江ノ島・鎌倉へ死ぬ前に行きたいの!
連れて行って頂戴!」と・・・
その当時、体が二つも三つも欲しいほど、忙しい仕事を自営でしていた。
従業員を二十名以上、抱えていたので、仕事を休んで母を旅に連れて行く
時間的な余裕はなかった。
それは厳しい現実であった。
「そうね!
そのうちにね!」
そんな言葉一つで聞き流し、母を旅に連れて行くことはなかった。
母はそんな不実な娘と知ってか、知らずか、その後病院で一人寂しく
逝ってしまった。
まだ一欠片の、人生で一番幸せだった父との記憶が残っていたものを・・・
仕事にかまけて、
新婚旅行の思い出の地を巡ることさえしてやらなかった。
「お母さん! こんな不実な娘を絶対に許してはなりません!」
倍賞千恵子 かあさんの歌