断章、特に経済的なテーマ

暇つぶしに、徒然思うこと。
あと、書き癖をつけようということで。
とりあえず、日銀で公表されている資料を題材に。

日銀の公表する「日中当座貸越残高」の件(字数制限のため「上」)

2018-10-28 20:46:37 | MMT & SFC

かつて、S. フルワイラーは、日中物の当座貸越データを

どの国の中央銀行も公表していない、という事実を嘆いていた。

これは、中央銀行が悪い、ということではなくて、実際、日中物の当座貸越のデータなど

一体どうすれば集められるのか、どうすれば意味のある形で

公表できるのか、そうしたことの難しさを指摘したものであった。

当時のフルワイラーの指摘では、アメリカ連銀は何とかして

これを公表できないものかどうか、模索中とのことであったが、

その困難は技術的なものだった。当座貸越が行われている度にデータを蓄積する、としたら

膨大な量のデータになってしまう。そもそもどうすればどんなデータを

集積することができるのか。。。。

 

時代は変わった。コンピューターの記憶容量の増加たるや

今では2000年当時とは比較にならないそうだ。どうすれば意味のあるデータを公表できるのか、

という課題は残されているものの、ともかく

データの収集自体は、一部可能になってきた模様である。

 

日銀は、毎月「決済動向」なるレポートを公表している。この中には

「日中当座貸越残高」なる資料が含まれている。ただし、注記によると

これは毎営業日、10分ごとに測定された残高の

その日の最高額の、月中の平均値だとのことである(「10分ごとに測定した」だよ?)。

 

「当座貸越」とは、これまでもしばしば言及してきたが

要するに、預金残高がゼロになってしまったときに

名義人振出の小切手やら名義人名宛の手形が銀行に持ち込まれたり

あるいは送金依頼があった場合、銀行が、所定の枠内(通常は

担保として預けている固定預金――日銀の場合は日銀に預けている国債)で自動的に融資することで

決済を実行することである。

この融資残高は当座預金の「マイナス」で示される。「日中」というのは

借りたその営業日のうちに返済することを意味しているが、

当座貸越の場合、例えば残高が「-10」であれば、このマイナスが消えるまで

振込まれた(あるいは預け入れられた)預金は、自動的に返済に充てられ

マイナス残高が減少(絶対値で)することになる。

民間金融機関は夜間の間は法定準備制度によって求められている準備預金を

原則として保有している。そして翌営業日になり

営業を始めた段階で他の銀行に貸出した準備預金の返却がある場合は

それを受け取り、返却する準備預金がある銀行は返済し、

その上で、再びその日の営業を行いながら

その営業活動に必要な準備預金を金融市場(インターバンク市場)で

調達する。だがこの準備預金の残高が

各金融機関が所要準備その他の理由で保有していた残高を超える場合は

時点ネット決済であれば、互いの債権債務を相殺して

準備預金による決済が必要な金額が確定するまで

金融機関同士の融資によって決済を先送りすることになり

なんとか市場に残存する準備預金で互いの決済ができるように

努力するわけだが、即時グロス決済になってしまうとそれが全くできなくなってしまう。

だからそうなった場合には、不足準備預金を日銀から調達しなければ

ならない。(時点ネット決済でも結局不足する準備預金は

日銀から調達しなければならない。)

従って、日中当座貸越がどの程度実行されているかを知ることは

営業自国終了時点における準備預金残高と違って、

実際に特定のマネーストックの下で、決済のためにどれだけの

準備預金が必要とされたかを知るうえでは

それなりに重要な資料ではないか、と思う。実際、

マネーストックとベースマネーを結び付けている理論というものは

この日中物の中央銀行融資を考慮しないものについては

すべてほぼ無意味ではないか(単に、一日の決済が終わった後

法律によって義務付けられている準備保有額を守られているか

否かを示す程度の意味しかない)、などと考えている。そこで

日銀の公表資料にあたったわけだが。。。。

 

けどまあ、これでは実際の日中当座貸越の動向を探ることは難しい。

上記のとおり、この資料はあくまでも

毎営業日の最高残高の月中平均値である。仮に月のうち

上旬は平均10、後半は平均100だと、月中の平均は55と出てしまうわけだ。

従って、55という値を示されていても

毎日、大体そのくらいの額の当座貸越残高があるのか、

それとも月末の特定の日に集中的に多くの当座貸越が実行されており

その他の日はほとんど実行されていない、ということもあり得るわけだ。

さらに、仮に大体毎営業日にこれだけの当座貸越が実行されているとして、

それが毎日朝から営業終了時刻まで大体同じような水準で推移しているのか

それとも、1日のうち、小さな金額が貸し出されては返済されて

全く安定していないのか、、、、等々そうしたことは全く分からない。

ただまあ、公表されているもののうち、手元に保管しているものからデータをエクセルに入力し、

日銀の「時系列データ」から引っ張り出した同時期のマネタリーベース平均残高/準備預金

と並べてみた。なお、「決済動向」の当座貸越のデータは兆円単位なので、

準備預金のほうもそれに合わせて兆円表示である。

  当座貸越残高 マネタリーベース平均残高/うち 準備預金 合計 いずれも兆円
2006/3 16.2 13.1 29.3  
2006/4  18.2 11.8 30.0  
2006/5  20.9 10.8 31.7  
2006/6  21.8 8.3 30.1  
2006/7  20.9 8.1 29.0  
2006/8  20.2 8.5 28.7  
2006/9  22.3 7.4 29.7  
2006/10 21.5 8.8 30.3  
2006/11 20.5 8.5 29.0  
2006/12 21 8.0 29.0  
2007/1 22.4 7.9 30.3  
2007/2  22 10.6 32.6  
2007/3  22.4 8.4 30.8  
2007/4  24.8 8.0 32.8  
2007/5  23.4 8.2 31.6  
2007/6  22.6 8.2 30.8  
2007/7  21.6 7.8 29.4  
2007/8  21.4 6.1 27.5  
2007/9  21.7 7.1 28.8  
2007/10 21.1 7.8 28.9  
2007/11 21.7 7.3 29.0  
2007/12 20.7 7.4 28.1  
2008/1 21 7.4 28.4  
2008/2  21.2 7.6 28.8  
2008/3  22.7 7.0 29.7  
2008/4 24 7.8 31.8  
2008/5 21.1 7.2 28.3  
2008/6 21.2 7.4 28.6  
2008/7 22 8.0 30.0  
2008/8 20.8 8.2 29.0  
2008/9 20.7 7.8 28.5  
2008/10 21.6 8.6 30.2  
2008/11 23.4 9.9 33.3  
2008/12 25.4 11.5 36.9  
2009/1 27 11.8 38.8  
2009/2 27.2 12.9 40.1  
2009/3 28.9 12.1 41.0  
2009/4 31.4 12.0 43.4  
2009/5 30.5 11.1 41.6  
2009/6 31 11.6 42.6  
2009/7 31.7 10.8 42.5  
2009/8 32.1 11.6 43.7  
2009/9 31.9 10.8 42.7  
2009/10 33 12.7 45.7  
2009/11 32.7 13.7 46.4  
2009/12 34.6 13.3 47.9  
2010/1 32.9 13.1 46.0  
2010/2 32.6 14.8 47.4  
2010/3 33.5 14.3 47.8  
2010/4 39.4 13.9 53.3  
2010/5 38.6 15.4 54.0  
2010/6 37.3 15.1 52.4  
2010/7 37.2 14.6 51.8  
2010/8 38.4 15.9 54.3  
2010/9 38.9 15.7 54.6  
2010/10 40.5 16.7 57.2  
2010/11 39.7 16.4 56.1  
2010/12 38.1 15.9 54.0  
2011/1 39.8 24.4 64.2  
2011/2 41.2 31.1 72.3  
2011/3 34.4 26.1 60.5  
2011/4 30.5 24.7 55.2  
2011/5 35.2 26.0 61.2  
2011/6 35.5 27.1 62.6  
2011/7 38.1 27.2 65.3  
2011/8 38.3 28.2 66.5  
2011/9 30.1 29.9 60.0  
2011/10 23.4 27.2 50.6  
2011/11 24.1 29.0 53.1  
2011/12 27.9 24.2 52.1  
2012/1 29.4 24.0 53.4  
2012/2 28.2 31.2 59.4  
2012/3 29.4 27.5 56.9  
2012/4 29.2 31.5 60.7  
2012/5 29.4 34.6 64.0  
2012/6 27.2 32.7 59.9  
2012/7 29.2 35.4 64.6  
2012/8 27.4 39.4 66.8  
2012/9 27.3 35.3 62.6  
2012/10 28.7 39.8 68.5  
2012/11 28.4 40.1 68.5  
2012/12 26 38.6 64.6  
2013/1 29.5 42.0 71.5  
2013/2 29.2 55.3 84.5  
2013/3 29 59.6 88.6  
2013/4 27.6 69.0 96.6  
2013/5 22.4 73.4 95.8  
2013/6 20.4 74.5 94.9  
2013/7 31.8 83.9 115.7  
2013/8 31.9 88.3 120.2  
2013/9 33.1 90.9 124.0  
2013/10 33.1 92.2 125.3  
2013/11 30.6 98.4 129.0  
2013/12 29.4 100.5 129.9  
2014/1 38.7 106.8 145.5  
2014/2 28.3 119.5 147.8  
2014/3 28.3 120.8 149.1  
2014/4 28.6 129.7 158.3  
2014/5 28.5 138.9 167.4  
2014/6 28.1 138.1 166.2  
2014/7 29.5 142.1 171.6  
2014/8 29.8 151.2 181.0  
2014/9 29.6 153.5 183.1  
2014/10 31.8 157.2 189.0  
2014/11 31.7 164.0 195.7  
2014/12 29.8 165.4 195.2  
2015/1 32.4 172.4 204.8  
2015/2 30.9 188.4 219.3  
2015/3 26.7 190.7 217.4  
2015/4 25.7 199.6 225.3  
2015/5 25.1 206.1 231.2  
2015/6 22.8 206.6 229.4  
2015/7 23.3 215.2 238.5  
2015/8 23.5 220.4 243.9  
2015/9 22.9 224.5 247.4  
2015/10 13.1 224.4 237.5  
2015/11 8.2 233.4 241.6  
2015/12 8.4 232.1 240.5  
2016/1 9.5 237.9 247.4  
2016/2 7.4 252.4 259.8  
2016/3 5 253.9 258.9  
2016/4 4.6 264.3 268.9  
2016/5 7.1 272.1 279.2  
2016/6 6.7 270.6 277.3  
2016/7 7 276.3 283.3  
2016/8 6.9 281.4 288.3  
2016/9 7.2 284.6 291.8  
2016/10 6.8 289.3 296.1  
2016/11 6.1 296.5 302.6  
2016/12 7.3 294.2 301.5  
2017/1 6 298.1 304.1  
2017/2 6.3 314.5 320.8  
2017/3 7.5 315.1 322.6  
2017/4 8.2 318.4 326.6  
2017/5 6.9 320.0 326.9  
2017/6 7.4 321.1 328.5  
2017/7 6.4 325.1 331.5  
2017/8 4.5 325.5 330.0  
2017/9 5.5 323.1 328.6  
2017/10 4.7 323.3 328.0  
2017/11 4.9 325.6 330.5  
2017/12 6.8 321.0 327.8  
2018/1 6.5 322.8 329.3  
2018/2 6 336.0 342.0  
2018/3 6.3 337.3 343.6  

 



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