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『ノーカントリー』 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

2008-09-26 22:57:36 | 映画(映画館)
@高田馬場・早稲田松竹
ノーカントリー/No Country for Old Men、ジョエル&イーサン・コーエン監督(2007年アメリカ)
すべての始まりは1980年代アメリカの、メキシコ国境に近いテキサス州の砂漠にて……観客を震え上がらせる、恐ろしくも魅力的なキャラクターの登場!
逃げる男ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)ハンター、モスは、偶然死体に囲まれたトラックを発見する。その荷台には大量のヘロインと現金200万ドル。彼は人生を大きく変えることを知りながらも、その金に手を出す。
追う男1アントン・シガー(ハビエル・バルデム)消えた金を取り戻すために雇われた、異様な風貌の殺し屋シガーは、ルールにやたら執着し、生真面目で冷酷。邪魔者をためらいなく殺しながらモスの後を追う。
追う男2エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)事件発覚後、保安官ベルはモスの身柄を保護するため、そして殺し屋シガーを捕らえるために二人の行方を追い始める。
逃亡劇――そして三者を待ち受ける運命。それぞれの過信がすべてを狂わせ、転がりだす運命は誰にも止められない…。
追う者と追われる者、はたまた法と正義を信じる者。アメリカ西部を舞台にした三者三様の追跡・逃亡劇は、人間の無力さと愚かさをおかしいほど冷徹に描き出し、コーエン兄弟の作風のひとつの到達点となっている。アカデミー賞でも作品賞、監督賞、助演男優賞(ハビエル・バルデム)、脚色賞と主要4部門の栄冠に輝いた。



ゼア・ウィル・ビー・ブラッド/There Will Be Blood、ポール・トーマス・アンダーソン監督(2007年アメリカ)
石油――それは、欲望という名の<黒き血>…。アメリカン・ドリームの闇をえぐる、野心的で壮大な大河ドラマ。
現代アメリカを代表する映画監督ポール・トーマス・アンダーソンがこのたび描くのは、20世紀初頭のカリフォルニアを舞台に、しがない鉱山労働者(ダニエル・デイ=ルイス)が石油採掘によって富と権力を手に入れていく姿。
しかし、これは正統なアメリカン・ドリームの物語ではない。むしろ、人をアメリカン・ドリームへ向かわせる衝動ともいえる闇の力…“欲望”を、冷徹と呼べるほどの克明さで赤裸々に描ききった魂の叙事詩である。
大地から噴き出す石油は、まるで欲望という名の血のように主人公の魂を毒してゆく。彼の危険なまでの自立精神は、強欲、誘惑、腐敗、欺瞞といったあらゆる悪徳を糧にして、人との共存さえ不可能なモンスターへと化す。血塗られた破滅の予感を密かに漂わせながら…。
アカデミー賞の主要部門では『ノーカントリー』におよばなかったものの、ダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞を獲得。また、レイディオヘッドのギター担当ジョニー・グリーンウッドが意外性に満ちたアプローチで音楽を手がけ、全編の基調となる荘重さをかもし出す。



「わたしは客観的に見ることができる。あなたとは違うんです」
ノーカントリーの登場人物が殺し屋アントン・シガーを評して「彼は金や麻薬のためには動かない。自分だけの行動規範がある。君とは違う」と。
『海を飛ぶ夢』でも“尊厳死”の意志を貫いたハビエル・バルデムにぴったりの役ではなかろうか。持ち歩くには大きすぎる、肺気腫患者が使うような酸素ボンベを改造した異様な武器を好む。コインの表裏を当てさせた結果によって殺すかどうか決め、相手がその異常さをののしると「コインのような運命を生きてきた」とのみ語る。
そのストイックさ、緻密な仕事ぶりを、もっと生産的なことで活かせばよいのに。しかしながら、情け容赦なく血で血を洗うような世界で「死の運搬人」として生き抜いてきたその姿には、ある種の奇妙な魅力があることも否定できない。究極の自己責任。レーガン=サッチャー=中曽根による新自由主義ののさばり始めた1980年代初頭が舞台なのもなにかの符合でしょか。
いっぽう、ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの主人公であるダニエル・プレインヴューもまた危険と隣り合わせの鉱山労働者として生き抜いてきた前半生に、その傲岸不遜な人生哲学は培われた。田中角栄・鈴木宗男といった、たたき上げの政治家一代記を見るようでもある。彼は言う「すべての人間には悪い部分があり、わたしはそれが見えるんだ。他人には決して成功させたくない」
そんな彼が特に嫌い抜いて、長期にわたる因縁をもつれさせることになるのが、彼が石油採掘のため土地買い占めを狙うリトル・ボストンの村で人望を集める若い牧師イーライ・サンデー(ポール・ダノ)。「パンとぶどう酒」って、キリストの肉体を食べることによって、ヤクザが火葬場で骨を食べて「わしの体に入っとれやあ」とか言うみたいな、神の子として義兄弟の契りを交わす意味があるのね。初めて知ったわ。
それは宗教的な意味というよりも、村落の共同体において誰かが抜け駆けしたり悪事をはたらいたりすることを防ぐための生活の知恵でもある。人間を信用できず、だましだまされるのも自己責任と考えるプレインヴューと反りの合わないゆえんである。そのような、社会を形成する人間・歴史を形成する人間のなかで圧倒的に屹立して個人の自己責任のもとしたたかに生き抜く人間像を描き出す2本立てではなかったでしょうか。いやロードショー時にはなんとなく気が進まなかったのね。ゼア・ウィル・ビー~は158分と長いこともあって。
でも、おそらく新文芸坐か早稲田松竹のどちらかで、この組み合わせの2本立てをやるような気はしてた。よかったよ。映画館で見られて。極めて正確なデッサンで描かれた名画のような、人間描写の正確さが気持ちよい正統な映画。
ほら、アメリカの金融業が英国とか日本に身売りせざるをえない状況じゃないですか。正統な映画は製作費の調達がむずかしくなってきてる。バットマンみたいな子ども向けの設定のもとで大人向けの映画を展開するみたいなおかしなことに。あとはゲームみたいなアクション映画とかホラー映画とかな。
英国はどうか知らんけど、日本の銀行みたいなろくでもないやつらに、映画や音楽のことについて口をはさんでほしくないナ いや銀行って公務員の悪いところと民間の悪いところを両方兼ね備えてるからさあ。


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4 コメント

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こんばんは! (aquamulsa)
2008-09-27 00:27:56
『ノーカントリー』は残念ながらまだ観てないんですけど、
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は観ましたー!
ヘヴィー級でしたね。
ウチではなぜか『スカーフェイス』の記事と一緒に取り上げさせていただいたんですよ。(笑)
欲望にとりつかれた男の物語として……。
P.T.アンダーソンて、いつもはもっと優しいんですけど、ダニエル・プレンビューには容赦なかったですね。
ウチのお母ちゃんが、「金、金、金っていう世の中になってしまって、ホントによくない」ってこないだしみじみ言ってました。
でも、お金がないとゴハン食べれないし、マークのレコードも買えないし~!
バランスが難しいですね。

こんばんわ! (冬のマーケット)
2008-09-27 01:25:02
アンダーソン監督作品は『パンチドランク・ラブ』しか見てないんです。それもレンタルで。お奨めの『ブギー・ナイツ』と『マグノリア』も見なきゃ。

それにしても重厚でしたぁぁ…エンドロールで流れるブラームスのヴァイオリン協奏曲が、現場労働者からたたき上げで社長や政治家になる人物が姿を消しつつある時代への挽歌のように聞こえました。
ブラームスの意外なかっこよさを発見したのもうれしい副産物でした…
ありがとうございました! (aquamulsa)
2008-09-27 10:34:32
冬のマーケットさん、トラックバックありがとうございました!
重厚でしたね~。
あそこまで重厚な映画は久々でした。
でも、「お前のミルクセーキを飲んでやる!」は、すごいウケちゃいました。

私の場合は、やっぱアンダーソン監督は『ブギーナイツ』が一番好きです。
まだ若い監督なので、これからも楽しみです!
ようこそです~ (冬のマーケット)
2008-09-27 20:38:35
われわれより若いんですね!その若さであの作風!すえおそろしや…

『ブギーナイツ』のチラシを入手しました。155分!これも長いですね。でも面白そう。胸おどります…

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