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読書メーター #11 — 地を這う魚、ほか

2018-11-04 19:54:14 | 読書
電車では立ってますね。まず座らない。私の短足が露呈するからってこともありますが、やはり労働してないですから、まったく疲れてないので。空いていても座らず、老人や妊婦、会社員や学生などが乗ってきたとき、心おきなく座っていただきたい。

働いて給料をもらう。給料より相当多くの価値を会社にもたらさなければ雇われ続けることはできない。雇われ続け、給料で自分だけでなく家族を養い、家賃や住宅ローンを払い、子どもを大学まで行かせるだなんて、私には想像もつかない大事業。大半の国民がマジメに働いていることはおそれ多い—




スマートデイズ/スルガ銀行によるかぼちゃの馬車の事件をきっかけに、不動産投資にまつわる情報をツイッターなどで漁るようになったが、類似の危険な商法がたくさんあることに驚かされる。それだけみな「大家になりたい=不労所得を得る資本家になりたい」わけで、かえってカモにされて収益性の乏しい物件をつかまされ、赤字を本業の給料から補填する、銀行の奴隷になってしまう者も。

今回の一冊である『資本の世界史』によれば、英国で産業革命が起ったのは、他国に比べ労働者の賃金が高く、なお生産性を高めるためイノベーション=機械工業や蒸気・電気の導入=が促され、生産と消費が活発となり、賃金と物価の好循環が軌道に乗る。利益が出るので、貴族たちは運河や鉄道の建設に争って出資した。運輸やエネルギーのインフラは国家と一体化し、20世紀は国民国家と貿易と戦争の時代となる。

明治政府はこの流れにキャッチアップし、わが国は世界のブランド国家となった。資源がないから、国民を潤沢に使い回せることが条件である。戦争と、一億総中流。政府が国民を丸抱えし、弱者・貧困は自己責任。朝ドラ・甲子園・万博・オリンピック・ノーベル賞・靖国神社…お金と対人関係のみに生きる現実主義の日本人は、明治期に打ち立てられた国民国家の幻想にいまもすがる。われわれは民主主義に命を吹き込むことができず、絵に描いた餅で終らせてしまった—



資本の世界史 (atプラス叢書12)
猪股 和夫
太田出版

ウルリケ・ヘルマン/資本の世界史(太田出版at+叢書2015、原著2013)
本書にいわく、労働者の賃金が世界一高かった英国で産業革命=イノベーションと生産性向上・社会の発展=が起ったことは必然であり、資本主義と国家はインフラ投資や社会福祉などの点で相思相愛であるという。大企業は市場を寡占して国家と一体化する。フリードマンが説くような自由な市場原理は幻想に過ぎず、一方で『負債論』のグレーバーも借金をテコに成長する近代の資本主義を理解していないと批判。多岐にわたる記述は平易で、目ウロコな点が多々あるが、成長が限界に達し、貯蓄過剰で定期的に金融危機が起る現状への提言にまでは至らない


あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠
久保尚子
インターシフト

キャシー・オニール/あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠(インターシフト2018、原著2016)
大学の格付け、就職やクレジットスコア、予防的犯罪捜査、ターゲティング広告など、膨大なデータ収集と統計学的な活用を企業に委ねると、効率と儲けが優先され、間違いは見逃され(当人には死活問題)、人種偏見と貧富の差が拡大。「ディズニーランド値上げでマナーの悪い人種に出くわすリスクは減るが免許センターや高速道路SAではそうもいかない」と誰かがツイート。グーグルやフェイスブックが無料にこだわるのは善意ではなく、データ収集を基に国家権力さえひれ伏させるようにしたいのでは。著者はこれらを数学破壊兵器と呼んで警鐘を鳴らす


生きづらい明治社会―不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)
松沢 裕作
岩波書店

松沢 裕作/生きづらい明治社会―不安と競争の時代(岩波ジュニア新書2018)
王政復古と廃藩置県というクーデターを成功させたが、まだ信用がなく金欠常態化の薩長政権が中央集権と軍国化を進める中で「通俗道徳=勤勉・倹約・親孝行」を流布させ、貧乏なのは努力が足りないからという理屈で国民を資源として競わせ、植民地政策・敗戦・復興および高度成長という結果に。この時期の刷り込みが恐ろしいのは、明治~昭和前期に頻発した都市暴動や労働争議すら、通俗道徳に対する逆張り・刹那的なものでしかなく、いまも「国家が親方」は健在で「人質から帰国した安田純平さんを襲う自己責任論」のような自縄自縛が続いていること


闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕
星水 裕
CCCメディアハウス

ジェイミー・バートレット/闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏世界の内幕(CCCメディアハウス2015、原著2014)
先日どこかの若者がドラゴンボールを「やや面白くない」と批判する記事を投稿したところたちまちバッシングの嵐。どう読むか・感じるかなど個人の自由だと思うが、つくづく日本人は自由が嫌い。秩序に守られた羊でいたい。本書に登場するのは真逆の、束縛を何より嫌う米国などの自由至上主義者。扱うのは極右思想・インセル・暗号通貨・武器・麻薬・児童ポルノ等々。ネットを介して国境を超えてリスクをばら撒き、本人たちも収拾できない。政府のプレゼンスは後退し、民主主義は弱体化し、かえって個人の自由を損なう結果を招く


このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景
滝沢 秀一
白夜書房

滝沢秀一/このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景(白夜書房2018)
他で目にした、ビッグデータなるものは現状の鏡に過ぎず、商用しようとすると既にある格差を助長・固定化してしまうということがゴミにも当てはまる。本書の帯で「金持ちになるヒントあります」と謳っているようなことで、正直あまり愉快ではない。しかしゴミは人の隠したい部分も露わにし、不法投棄はすぐにバレるという。人の嫌がる仕事に就いた者たちの人間模様、雪や暑さや臭気との戦い、世界一ゴミが多い日本の社会への問題提起など後半は尻上がりに面白くなる。「買うとき捨てることも計算に入れておく」はぜひ実践したい


検証バブル 犯意なき過ち (日経ビジネス人文庫)
日本経済新聞社,日経=,日本経済新聞=
日本経済新聞社

日本経済新聞・編/検証バブル 犯意なき過ち(日経ビジネス人文庫2001)
丑嶋社長がマサルへ「金はテメェの金と思って貸せ」。無理だよな。円高とその後の金融緩和を受け、預金量トップを競った住友銀「儲かりそうな土地登記簿をかき集めろ」。富士銀「全預金者を債務者にしろ」。株のバブルが先に弾けたが、より深刻なのは不動産で、不良債権は80兆円にも達した。銀行・住専の乱脈融資、証券会社が企業の財テク失敗を隠蔽・先送りするための「飛ばし」、ガバナンス不全で弥縫策に終始する歴代政権と大蔵省。無責任の体系は、失われた20年とも30年とも呼ばれるデフレスパイラルを招き、なお安倍と黒田は同じ過ちを…


日本昭和トンデモ児童書大全 (タツミムック)
中柳 豪文
辰巳出版

中柳豪文/日本昭和トンデモ児童書大全(タツミムック2018)
ケバケバしい装丁、おどろおどろしい文言。扱われる題材はミイラ・ネッシー・アトランティス大陸・UFOなどなど根拠ゼロの大言壮語が多く、なるほど、ウルトラマンや戦隊もの、ムー誌や漫画雑誌などとも呼応し、バブル崩壊後の「他人に左右されない夢や理想がなく、お金と対人関係がすべて。欲と嫉妬に駆られ、小泉や橋下に煽られつつ足の引っ張り合いに終始し、失われた30年を招いた、いわゆる普通の日本人」を大量生産する底流となったのでは。原色の多用や言葉づかいも、多数が垢BANされたYouTubeの極右・差別主義chと酷似する


一生、元気でいたいから 生命力を足すレシピ
麻木 久仁子
文響社

麻木久仁子/一生、元気でいたいから 生命力を足すレシピ(文響社2018)
麻木「わたしはもう、娘も成人して、お母さん次いきなよって言ってくれてるし、何の障害もないよ!」。亮「国民にアピールし出した」。淳「しかめっ面してますが」。重盛さと美「熟女のほてりと焦り、見るに耐えない…」。満場爆笑。2015年のロンハーより。本書で、この時点の彼女は既に脳梗塞と、それで早期発見された乳がんを克服していたと知り、尊敬の念を新たにしている。フルカラーで漢方のいわれに基づき季節の食材優先のレシピを紹介。衰える体を慈しみ、メンテナンスを楽しみ、後半生を満喫したい。重盛さんもいずれ理解するでしょう


地を這う魚 ひでおの青春日記 (角川文庫 あ 9-3)
吾妻 ひでお
角川書店(角川グループパブリッシング)

吾妻ひでお/地を這う魚 ひでおの青春日記(角川文庫2011、原著2009)
繰り返し読み返すナニワ金融道の、教頭先生が商品先物に手を出して転落するエピソード。破産状態、家も叩き出されてビジネスホテルで「酒でも飲まんとやってられんなー」という、その感覚に近いと思う、本書で吾妻さんがアシ先の作家・編集者・漫画家志望の友人・酒場やアパートの隣人などを動物の姿で描いたり、空中に変な生きものやSFオブジェが漂っているのは。上京し、夢と欲望、友情と競争の渦巻く、切実すぎる対人関係に身を投じた青春時代を偲ぶ、吾妻さんの透徹したまなざし。宝石のようなポエジーであり、漫画が若かった時代の貴重な証言


麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)
阿佐田 哲也
KADOKAWA / 角川書店

阿佐田哲也/麻雀放浪記(1)青春編(角川文庫1979、原連載1969~72)
北関東連続誘拐殺人事件の本や、ルーシー・ブラックマンさん事件の本で、わが国の警察がいかに腐敗して無能であるかを知った。コインチェック事件も漫画村の件も、無能がバレるから警察は積極的に動きたくないようだが、裏を返せば国民が豊かで善良で犯罪率が低いから、相対的にそうなってしまう面も。本書はそれとは逆に、敗戦直後、失う物がない、信用もない世の中で若者が賭博に生きる道を見いだす、汚れているが爽快感のある物語。カイジの100倍箴言に満ちているが、それは社会が成長を止めた証しでもあろう。にっぽんの青春時代を偲ぶよすが
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