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読書メーター #9 — 母がしんどい、ほか

2018-07-29 20:21:53 | 読書
田村淳の地上波ではダメ!絶対!という、元はBSスカパーの番組らしいが、ネットフリックスでも多くの回が見られるようになっており、少しずつ消化。ホームレスや性風俗のウラ事情など、ロンドンハーツよりさらにウシジマライクなジャーナリズム目線を取り入れており楽しめる。前半コーナーでは不倫中の女性を招いて淳がインタビューし、あけすけに語られるその内容は本当にウシジマくんっぽい。

男の側に妻子がある場合、逆の場合、またW不倫の場合などいろいろだが、爆笑を誘う部分が少なくないんですね。淳の引き出し方が上手いというのもあるでしょうが、もし男に語らせるとしたら、もっとギスギスしてしまって笑えないのではないか。凄かったでしょう、矢口真里やベッキーの件で、当事者ならともかく、世間のバッシングの執拗さ。

どうも女というのは男と同じ権利を持っておらず、ブラマヨ吉田のような「男の浮気は遊びだが女の浮気は本気・裏切り」という見方が男だけでなく女にも浸透しており、とりもなおさずそれは妻に浮気されると夫にとって子どもが自分の子か確かめようがない、多くの場合は夫が家計を支えているのに、というような不安や疑念にも根差しているらしい。

すなわち男に不倫を語らせれば、それは経済的に当然の権利であるとか、相手の女が父親の分らない子を産んだり病気をうつされたりすることには無頓着であるとか、身勝手でギスギスしてとうてい笑えない結果を招くであろうと—



自民党の女の議員が、LGBTは子どもを生まないから生産性がない、税金を投入して守る必要はないというような発言をして批判を浴びている。男の議員による「産む機械」というのもあった。相模原市の障害者施設の事件では、犯人はそこで過去勤務しており、障害者は生きていても無意味だとの考えを募らせ、犯行に及んだ。障害者を始末するような官職を与えてほしいと政府に手紙も送ったそうだ。

戦後の高度成長モデルでは、女のみが「産み育てる性」として家庭に縛り付けられる。すると、男も妻子を人質に取られたような格好になって、会社に縛り付けられる。経済的呪縛や支配と服従の価値観が、誰もが自由に生きることを妨げ、自己肯定感の低い世の中を作ってしまう。男は家庭をかえりみず、逆に女は子どもへ夢を託し、といえば聞こえは良いが、溺愛であったり、過度な干渉や教育熱心であったり、また虐待であったりと、いわゆる毒親にもなりかねない。

今回の一冊である『母がしんどい』では、田房さんが母親の束縛から脱するのは長く険しい道のり。モラハラ彼氏との同棲、別の男性と結婚に至るも、母親の癇癪が伝染したように夫へDVをはたらくようになってしまう。救いがあるとすれば、この母は束縛するだけでなく、教育熱心で田房さんにピアノやバレエを習わせたり、私立中を受験させたりしたので、そうした文化活動や勉強や友人を通じて、親だけが絶対ではない、どうにか生き延びて大人になれるような社会規範を自らのうちに取り込むことができたこと。

支配と束縛の関係性を和らげ、教育費を無料にして、子どもは社会が育てるという価値観を育んでゆくべきでしょう—



母がしんどい
田房 永子
KADOKAWA/中経出版

田房永子/母がしんどい/中経出版2012
著者のトークイベントに行ってみた。客席は私以外ほぼ女性のみ。いい曲でしょってことで星野源の「地獄でなぜ悪い」がかかる。悪い曲ではないが、平凡。対人は巧みそう。普通のJ-popはもっとひどい。詞も曲もベタベタ情緒的。本書に描かれる母親も感情的で押しつけがましく、子どもを縛る。子にとって親の存在は巨大だ。著者がその呪縛を脱し、結婚相手と穏やかな暮らしを営めるようになるまでの歩みに声援を送りながら読み終えた。自分で自分を100%認められるか、簡単なようで、わが国ではとても難しい


さばおり劇場 (1) (ワイドKC)
いがらし みきお
講談社

いがらしみきお/さばおり劇場・1/講談社ワイドKC1984
再読。全2巻。1984年にいったん休筆するに至る直前、形式そのものを破壊するかのような過激さで突っ走ったいがらしみきおさんのギャグ漫画世界=トーホグ出身・女性蔑視(非モテ)・オナニー(自虐)・プロレスやジャズや笑芸人や=の極北に位置する4ページ完結漫画集。一つ一つのアイデアがそのまま小宇宙であるかのような爆発ぶりだが、決して難解・高踏に走らない。あらためて感服。ぼのぼの以降は長い余生というべきか


だめだこりゃ (新潮文庫)
いかりや 長介
新潮社

いかりや長介/だめだこりゃ/新潮文庫2003、原著2001
いかりや長介さんが権力者という構図のもと、加藤茶さんの「どーもスンズレーしました」「ちょっとだけよ」、荒井注さんの「ジス・イズ・ア・ペン」、志村けんさんの東村山音頭やカラスの勝手でしょ、みな全員集合の公開生放送で、客席の期待感が全国の視聴者に伝わり、怪物番組へと。後年俳優へ転じてからは逆に駆け出しとして人間臭さを売りに。前段も、個性的な父親、戦争体験、米軍基地やジャズ喫茶での修行、小野ヤスシらの脱退、ビートルズの前座など興味深いエピソード満載。年を取るほどかっこよかった粋人の貴重な回顧録


歌集 滑走路
萩原 慎一郎
KADOKAWA

萩原慎一郎/歌集 滑走路/KADOKAWA2017
有吉弘行さんのラジオで知った。この歌集に触発された投稿コーナーができたくらいなので、期待したが、有吉さんが「どこで切ったらいいか分らない」という、まず歌としての完成度や普遍性の問題。ご本人が亡くなっており、あまり言うと私の人格が疑われるのは承知だが、言葉を本に残すということは厳しい道である。あまりにナイーブで、自意識が幼い。残念というほかない


ルポ 労働格差とポピュリズム――大阪で起きていること (岩波ブックレット)
藤田 和恵
岩波書店

藤田和恵/ルポ労働格差とポピュリズム—大阪で起きていること/岩波ブックレット2012
本書の取材によれば非正規が正規に、とくに公務員に向けるまなざしはもはや嫉妬ややっかみでなく、憎悪。この背景に、労働者が分断され、正規は成果主義と長時間労働、非正規は低賃金の使い捨てで、いずれにせよ若者が希望を持てない世の中にしてしまった、既存労組もその責任を免れない。橋下徹はテレビで有名になり始めた頃から一貫して攻撃的なナルシストであり、世の中の憎悪や絶望をエサに増長、「争点を単純化して世論を分断し、不誠実・不道徳にふるまい、国民の生活を危機にさらすほど喝采を受け支持が高まる」安倍政権の露払い役をまっとう


財政破綻後 危機のシナリオ分析
小林 慶一郎
日本経済新聞出版社

小林慶一郎ほか/財政破綻後 危機のシナリオ分析/日本経済新聞出版社2018
少子高齢化により医療・介護費が激増し、いまでさえGDPの2倍を超す政府債務がさらに嵩んでいずれ破綻は不可避(2035年には100%の確率)。本書はおおむね財政再建派の為政者目線で書かれ、破綻に際し、また破綻後、どのような状況がもたらされ、政官と国民はどのように対処すべきかを解説。増税・年金カットや医療費負担増などの緊縮政策と、将来世代にツケ回しをしないための既得権解体。いずれも強い抵抗が予想され、売国に走る自民党とマイナンバーひとつ運用できない霞ヶ関のもとでは実行不可能、どんな乱世が待ち受けるか…


大東建託の内幕 〝アパート経営商法〟の闇を追う
三宅 勝久
同時代社

三宅勝久/大東建託の内幕 〝アパート経営商法〟の闇を追う/同時代社2018
闇金ウシジマくん・大東ケンタくん編。軍隊調の研修、過大なノルマ、長時間労働、過労自殺、架空契約などの不正、詐欺、手抜き建築、殺人未遂…。いくつか悪徳企業を扱った本を読みましたが断トツのむごたらしさ。TBSサンモニのスポンサーであり、芸能人を使った宣伝攻勢などでマスコミも沈黙。多田創業家は既に外資へ売り、株価・時価総額は高止まりしているが、かぼちゃの馬車の件を機に銀行融資が冷え込み、不動産価格の下落サイクルが始まれば、金融危機に至る可能性も考えられ、マスコミはそうなってから叩くのだろう。本書の意義は大きい


不動産投資の赤字を脱却するスゴイ方法
三井和之
サンライズパブリッシング

三井和之/不動産投資の赤字を脱却するスゴイ方法/サンライズパブリッシング2018
巻末に「あなたの想いを本にします」とかの広告。お金を払えば書籍市場に流通させてくれる。こうした初心者向け投資指南本があふれるわけだ。本書はおもに失敗した物件を任意売却させ、新たな投資家に下取りさせる仲介を担う社長の手になる。銀行主導による競売と任意売却はどう違うのか、こまごました実務を手取り足取り。この問題=かぼちゃの馬車やレオパレス・大東建託などの詐欺的商法に、アホノミクスに苦しむ銀行が加担して大炎上しそうなこと=を野次馬として楽しむ私にとって、自社の宣伝本とはいえわりと良心的に感じられた次第


新聞少年が一代で4903世帯の大家になった秘密の話
大川 護郎
ぱる出版

大川護郎/新聞少年が一代で4903世帯の大家になった秘密の話/ぱる出版2018
「管理会社に性善説は通用します。ひどい会社になれば隠蔽する可能性もあります」。通用しませんの間違いですね。校正より、とにかく出版点数を稼ぎたい版元なのだろう。過熱する不動産投資においても、とにかく融資を引いて物件を増やしたい「欲しい欲しい病」の投資家が多く、物件ごとに法人を作って銀行を欺くスキームまであるとか。著者は23年かけてコツコツ積み上げて姫路市を中心に4900戸・借入4百億・月収4億・返済2.3億に達した有名大家で、数は力なり、豊富な経験を基に管理会社や銀行との付き合い方を指南。バブル紳士の一典型


ジェフ・ベゾス 果てなき野望
滑川 海彦,井口 耕二
日経BP社

ブラッド・ストーン/ジェフ・ベゾス 果てなき野望/日経BP社2014、原著2013
アップルのSジョブズは音楽すなわち人生というくらいなのでiTunesとiPodを発明することができた。いっぽう音楽がそう好きでないJベゾスは読書家で、科学と人文知を共に愛し、壮大なヴィジョンのもとアマゾンを創業。「否定的なレビュー」「新品と中古品を並べて売る」「顧客のパーソナライズ」など既存の出版社・書店が嫌がる、しかし本好きにとって革命的なサービスを提供。初期の混乱を脱すると、キンドルやAWSやアレクサなどイノベーション連発、「剣闘士文化」でエリートが学び競う社風により巨大化・覇権化は果てしないだろう
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