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日本幻景 #19 - 平時の兵役

2016-04-17 19:29:50 | Bibliomania
小野寺秋風(おのでらしゅうふう)による軍隊漫画絵はがき集の第1集『軍隊生活 入営から除隊まで』。10枚の絵はがきが封入され、糊付けして第四種郵便として3銭で送れる、とあることから昭和初期に制作され、昭和12(1937)年以降に再版されたものとみられる。当時、秋風や荒井一壽ら人気漫画家による絵はがき集がシリーズ化され、ユーモラスな作風が親しまれたが、日中戦争の泥沼化、対米英開戦など戦争の激化により、ヤシの木が描かれた漫画を最後に姿を消す








【入営】【消防演習】【銃剣術】
旧憲法下のわが国では兵役の義務が定められ、17歳から40歳までの内地と樺太に籍のある男子に適用された。20歳を徴兵適齢といい、前年12月から当年11月までに20歳になる者が徴兵検査を受ける。

体格(性器や肛門も)、結核、視力などが調べられ、甲乙丙丁戊の5つに分けられる。甲乙が現役に適する者で、平時にはこの中からくじ引きで徴集が決まる。丙は現役に適さず国民兵役とし徴集しない。丁は兵役に向かない者で免除。戊は病気などで翌年再検査。

徴集された現役兵は、入営して2年間の訓練を受ける。海軍は志願兵の制度を併用しており、志願で定員の半分は埋まった。陸軍より圧倒的に人数が少ないことや、船や制服への憧れ、食事がよかったことなどが志願の理由に挙げられる。






【基本体操】【入浴】
暴力による私的制裁、自由の拘束、さまざまな差別、人権蹂躙など軍隊社会に対する批判は常に存在するが、一方この当時、盆と正月以外休日も賃金もない丁稚奉公、冬以外は1日十数時間労働の農作業、労働者保護のない工場労働など、一般の平均的な青年の生活条件が悪かったので、平時の軍隊生活は3度の米飯、定期的な入浴、日曜ごとの外出(多くは花街に出かける)など、民間に比べ生活条件はよかったとみることもできる








【不寝番】【非常呼集】【炊事場】
少なくとも平時においては軍隊の食事はまんざらでもなかった。まず朝食は一般家庭並に味噌汁とタクアン、稀にアジの干物。昼食はカレーライスやけんちん汁、魚の干物などで、豚肉と豆・野菜のごった煮などが副菜。週2日の演習日には下給品の小夜食として和菓子。夕食は週の半分がカツ・ステーキなど肉、あと半分が魚を材とするおかず。

もちろん戦争になって戦地へ送られれば、状況が一変。常に戦死・餓死・病気やケガにおびやかされることとなる






【掃除】【除隊】
戦局の悪化に伴い、徴集制度の拡大が図られる。事実上入営せずに済む、上級学校進学者の「徴集延期」のとりやめ。現役を終え、予備役となっていた者の再招集。昭和15年には、それまで兵役不適格だった「丙」を招集対象とする。18年には徴兵適齢を19歳に引き下げ、翌年から実施。また同年、志願兵制があった朝鮮・台湾に兵役を義務づけ、徴兵検査を行う。

朝鮮台湾に広げるにあたっては軍の中にも消極論と積極論があった。消極論の中には「大和民族たる兵の素質が低下しつつあるこんにち、彼らの軍隊への混入は、軍隊を牛耳られるおそれなきや」という臆病なものがあったし、積極論の中にも「大和民族のみの犠牲による征戦遂行は適当ならず。大和民族のみ戦死し、朝鮮民族が残る時は、その旺盛な繁殖力と相まって将来ゆゆしき問題を招く。朝鮮民族からも戦死者を出すべし」という露骨なレイシズムがあった。

「旺盛な繁殖力」には苦笑せざるをえない。私も前回ネトウヨを病原菌よばわりしましたからね ―(兵役の制度と待遇に関する記述は亀岡修著・百瀬孝監修 『よみがえる戦前日本の全景 遅れてきた強国の制度と仕組み』 毎日ワンズ・2015年、より)



よみがえる戦前日本の全景―遅れてきた強国の制度と仕組み
百瀬 孝
毎日ワンズ
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