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日本幻景 #4 - 伝単

2013-05-30 20:44:39 | Bibliomania
信田真一 @nobushin
Amazonでこの本を買ったら、こんな切り抜きが挟まっていた。気持ち悪い。新品で買ったから、Amazonか取次か印刷所か版元の従業員が挟んだのだろう。文面を検索しても出てこない。なんだ、これ? pic.twitter.com/W5oVwn7Kyo 16-May-2013


この紙片と同様のものが「図書館で借りた本に挟まってた」との目撃情報もあるそうだが、ツイッターから各種まとめサイトに転用されるなど急激に広まることになったのは、やはり「Amazonから送られてきた本」に挟まってたというところがミソでしょう。

経営者目線というより、Amazonの倉庫・配送所みたいな多国籍企業の過酷な現場で働く日本人労働者が意趣返しで妙な紙片を作って無差別にバラまいた、どこか秋葉原事件のKATOにも通じるおもむきがあり、画像を目にして私が連想したのが「伝単」という言葉。
過去さまざまな戦争でバラまかれた、敵兵や敵国民の戦意を失わせるための宣伝・謀略ビラを、特にわが国では中国由来の伝単という名で呼んできた。




第一次大戦以降、盛んに用いられるようになった宣伝ビラを、日本軍は日中戦争で多用した。
当初は制作を各地の派遣軍が担当したが、やがて参謀本部に一本化され、↑このように貞操帯を描いて妻の不倫をほのめかすようなポルノまがいのものは「皇軍の威信失墜」として禁止された




代わって、国民党と共産党による「国共合作」の離反を狙って、「蒋介石の命運尽きれば、今度は共産党にしゃぶられる」といった反共宣伝が増えたものの、抗日意識に燃える中国人を宣撫することは困難だったとみられる。 ─(以上2点:『世界史の中の1億人の昭和史【4】日中戦争から第二次大戦へ』 毎日新聞社、1978年)




米英に宣戦して戦域が東南アジア~太平洋に拡大すると、日本軍は次第に物資に事欠くようになり、宣伝ビラによる心理戦でもアメリカに圧倒される状況に陥る。
空襲などで既に東京も戦場になりつつあることを兵士に知らせて戦意を挫くこのビラは10万部が投下された




戦線が分断され、孤立して情報の乏しい日本軍に対しては新聞形式のプロパガンダが効力を発揮。
プロパガンダといっても、日本軍のやり方と比べ、歪曲や誇張を排して可能な限り「事実」を伝える方針がとられており、この琉球週報では日本軍の中国での攻勢など日本にとって有利な情報が掲載されることもあった。

また絵と言葉を組み合わせたビラでも、日系米兵や捕虜を協力させることにより、いったん撒いたビラの誤字や不自然な部分を修正した改良版が作られるなどした。
層が厚い欧米のジャーナリズムを前にして、みじめな撤退戦を強いられる橋の下の虫さんが二重写しになりますなァ ─(以上2点:土屋礼子 『対日宣伝ビラが語る太平洋戦争』 吉川弘文館、2011年)
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