憂太郎の教育Blog

教育に関する出来事を綴っています

版画家M・C・エッシャー

2008-07-04 22:10:47 | 発達障害の窓
■前回は,自閉症者と音楽についてお喋りをしたが,今回はアートの分野での話題を。こちらは,自閉症者のアートというのがある。いわゆるアール・ブリュット(アウトサイダーアート)というものだ。
■厳密には,アール・ブリュット=自閉症者アートというわけではなく,あくまでも,アール・ブリュットの一分野というところであろうか。詳しくは,各種サイトを参照して欲しいが,いずれにせよ現代は,自閉症者の一連のアートが芸術作品として確立した(?)ということだ。
■私も,彼らの絵画作品や塑像作品を巡回展で接したことがあるが,いかにも彼らの心のうちを示しているようで興味は尽きなかった。創作漢字を5ミリ大の大きさで紙びっしりに描いた(書いた)作品,空想都市を鳥瞰図で事細かに描いた作品(左上から描きはじめたと思われるデッサンだった!),あるいは,同じデザインの10センチ大の人形を100体くらい並べた塑像作品など,いかにもといった作品が並んでいた。
■さてさて,版画家M・Cエッシャーである。オランダ生まれの彼は,だまし絵で有名。永久機関やメビウスの輪をヒントにしたリトグラフや,幾何学模様を芸術作品に仕上げたグラフィックアートのはしりともいえる作品を数多く残している。私が子どもの頃にみた児童書の挿絵なんかにもエッシャーの版画が紹介されていたりして,そんなことから私は親しみを持っていた。ちなみに,私の職員室のマグカップのデザインは,エッシャーのだまし絵。かれこれ10年近く割れずに愛用している。彼のユーモアのある作品から,私は結構人間的な人物だと思っていた。
■しかし,彼の作品群を観る機会があって,そこで私の彼への心象は大きく変わることになる。子どもの頃の児童書の挿絵にあった,ユーモアのあるだまし絵に出会えてそれはそれで嬉しかったが,その一方で,多くの幾何学作品に私は驚いたのだった。何と,細かい。何と,緻密。現在のCGを使えば,それ以上の緻密な作品ができるのであろうけど,エッシャーの場合は,すべて手書きのデッサン。そしてリトグラフだ。その作品群を目の当たりにすると,その細かさに圧倒される。さすが名を残す芸術家。こういった作品は,作家のインスピレーションで一気呵成に書き上げる類のものじゃあないから,とにかく根気強さが必要になる。おそらく,エッシャーは,これらの作品を描き上げるのに,毎日何時間も,あるいは十時間以上も幾何学模様をひたすら描き続けたに違いない。
■そんなことを考えて,ああ,そうかと思ったのが,冒頭に上げたアール・ブリュットなのだ。私は,エッシャーの作品群と,アール・ブリュットのそれらとに親和性を見出さずにいられない。エッシャーは,多分,広汎性発達障害すなわちアスペルガー症候群じゃないかしらね。名声を得ながらも,晩年は,奥さんに愛想つかされ(別に,浮気をしたわけじゃあないでしょう),一人になって養老院で寂しく亡くなったというエピソードもいかにもという感じ。ただ,エッシャーの幾何学模様を眺めながら,これ程までに熱中できる根気強さは,それはそれでうらやましいと思ってもいるのだけどね。