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いつでも君のこと好きだったよ

大森静佳第二歌集『カミーユ』

2018-07-03 21:16:03 | 日記

 怖いような深い赤の表紙。血をおもわせるような赤黒い色。手にしたときにすでに情念を予感させるような、この歌集の世界に入っていくのに立ちすくむような一瞬の躊躇と大きな期待。

 

 ・曇天に火照った胸をひらきつつ水鳥はゆくあなたの死後へ

 

 火から水へ、生から死への流れが自然で、イメージも美しい。第一歌集『てのひらを燃やす』の後半の「生前という涼しき時間の奥にいてあなたの髪を乾かすあそび」の世界観に通じるような「生前」や「死後」という「生」の前後へすいと行き来ができるようだ。

 

 何度か読み返してみて、惹かれた歌を書き写したものを眺めると、「手」の動きに自分が惹かれていることに気がつく。

 

 ・馬の腹に手を押しあてる少しだけ馬の裡なる滝を暗くして

 ・曼殊沙華の白を両手にほぐしつつここに戻ってきてほしかった

 ・そこだけは無毛の羊に腹のあたり切り裂きぬ前脚を摑みて

 ・揚げ餃子(ホーショール)手づかみで食む指の間を油が<今>が滴り落ちる

 ・唇(くち)もとのオカリナにゆびを集めつつわたしは誰かの風紋でいい

 

 馬の腹に手を押しあてる、曼殊沙華を両手にほぐす、前脚を摑む、手づかみで食む、オカリナにゆびを集める。どれも印象深い。自分の手の動きにしても、他人の手の動きにしても手に焦点があたっていて、手によって感じたり、感じ取ったりしている。それがダイレクトに響いてくるのがいい。

 

 印象的な相聞の歌もたくさんあった。

 

 ・一枚ずつ葉を落とし葉をいとしみてきみだってこんなにも木なのに

 ・鈴のように一日(ひとひ)ひとひがふるえてる その鈴のなかのきみを撫でおり

 ・かわるがわる松ぼっくりを蹴りながらきみとこの世を横切ってゆく

 ・全身できみを抱き寄せ夜だったきみが木ならばわたしだって木だ

 ・目を閉じて少し待つのだお互いの葉ずれの音の静まるまでを

 

 激しさと静けさと。焦燥と苛立ちと決意。いろんな形で表現されているけれど、静かな歌にも熱さがあり、激しい歌にも冷静さがある。「きみだってこんなにも木なのに」。このフレーズからくる寂しさはなんだろう。熾火のような静かな寂しさ。そして「わたしだって木だ」というときの強さ。松ぼっくりをけりながらきみと横切るこの世、お互いの葉ずれの音が静まるまで「少し」待つ、という冷静さ。世の中にふたりしかいないような、ふたりだけで完結されたような世界。

 

 読むたびにいいなぁと思う歌が増えていくのだけれど、一番いま好きな歌は

 

 ・遠ざかるときがいちばんあかるくてあかるく見えて夕暮れの頬

 

 ひとりで抱きしめていたいような一冊です。

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