1日あけて、今年の塔新人賞。
受賞は高野岬さん「息を掬ふ」。おめでとうございます。
得票数からしても、5人の選者のうち4票が入っているので文句のない受賞だと思います。
とてもドライな詠いぶりがとてもよかったです。
・いづれわれが君を撒くとふ湾は今朝釣り舟多し秋晴れにして
・父に似てゐたのだと知る長距離を不思議を疾く走る躰は
・綱つけて散歩するもの失ひて浜へ出ること少なくなりぬ
・都心から従ひて来て朝羽振る波を怖れし海(カイ)といふ犬
・ゐたことの方が夢とも思はれて日に日に犬の顔忘れゆく
秋晴れの湾に浮かんでいる釣り舟。その湾はいづれ君を撒く湾だという。散骨でしょうか。少し先の時間を思って見ている。だけど、まったくウエットではないところが、
高野さんの詠い方であり巧さなのだと思います。 自分の身体のことも、まるで他人のようです。父親の血を受けついていたんだな、と思うけれど、それも余計な感情が入ってこない。ここからお父さんの歌が続くのかと思っても、この一首だけで飼っていた犬の歌に移ります。
犬のことにしても、「散歩するもの」とか、一度「海(カイ)」と名前を出すのだけれど、また次の歌には「犬の顔」と距離をとってあります。
私はつい、感情がどんどん溢れてしまって引き摺られて行ってしまうのですが、自分に欠けているものを目の前に広げられていくようで、ちょっと興奮しました。
・旅先で落ち合ふのが好き風景が貴方ひとりを懐しくする
この歌の「好き」まで言うのか、ということで座談会では議論になっていましたが、たぶん、他の歌がドライなぶん、余計に浮き立った感じがするのかもしれません。初読では気にならなかったのですが、そういわれてみれば目立つかなぁと思うようになりました。でも、30首あるわけですから、全部ドライにフラットにまとめても「物足りない」と言われたかもしれないですね。
一番好きだったのは
・床を踏む爪の音した感じして廊下の洞(うろ)に犬の名を呼ぶ
寂しくて悲しい歌。
次席は魚谷真梨子さん「風がほどけて」、候補作は福西直美さん「爪」、田宮智美さん「わたしの町を君の町を」、川上まなみさん「静かな波」、中田明子さん「いつかの靴」。
う~ん。ちょっと印象が薄い気がしました。まず、タイトルが弱くて、座談会を読みながら何度も作品の場所にもどり、「あ、この連作か」と確かめました。多くの作品が集まって来るのですから、タイトルで「ああ、あの作品だな」と繋がってほしい。
それぞれにまとまっていていい歌もたくさんあるのですが、全員女性で全員なんとなく恋をしていて、淡い。選者の好みが偏っている気がしました。あと、座談会では内容の読みにかなり時間をかけてあったようですが、構成とか文体とかその人の持つ個性とかそういう話もききたいと思いました。
予選通過された片岡聡一さんの「人魚原型群」てどんな作品だったんだろうとか、高橋ひろ子さんの「雪の予報」、大森千里さんの「ひとかけの氷」、廣野翔一さんの「海へ行く話」も読んでみたいなぁ。個人的には海老茶ちよ子さんの「ブラッディ・ミドルティーン」が一番気になる。
野太い作品群やハチャメチャなのがなかったのが少し残念でした。