わたしが今までで一番泣いたとき、それは、
ずっと一緒に暮らしていて、おしゃれで気丈だった祖母が、
わたしが22歳の頃に、突然成人のお祝いをくれたときです。
中のお手紙に、達筆だったはずの祖母がよれよれの震えた字で、
「成人おめでとう おばあちゃまは なんだか
ぼけてきてしまったようです 日付がよくわかりません」
と書いてありました。今思い出しても涙が止まりません。
大正生まれで地方で育ちながら、勉強して東京の大学まで行き、
終戦時は満州から子供(私の父とおば)を背負って手をひいて逃げ帰り、
ボランティアや俳句の先生をして、
とってもおしゃれで、海外旅行にもよくいって、
いつもわたしにお手紙をくれました。
気位が高く、厳しく、優しく、いつまでも美しかった。
一体いつからおばあちゃんはこうなってたの?
自分がぼけてきている、と気づいたときはどんな気持ちだったの?
たしか、80歳になる前にも、
「人間80年も生きたらもう生きてる意味はないね」
と言ってたね。そのとき私は高校生で、
「まだ80歳じゃないじゃない」というのが精一杯だった。
わたしは何もしてあげられなかった。
でも祖母はその頃から、身辺を整理しはじめていた。
今も病院で意識もなく眠り続ける祖母。
祖母が正常だったとき、こういう姿には絶対になりたくなかったと思う。
とっても気位が高かったから。激動の人生。
でも、生きている限り、生きなければいけない世の中なのです。
本当にこれでいいのか、わかりません。
でも、どうしてあげればよかったんだろう?家族もつらいのです。
でも、家族を責める目がまわりにあることも事実です。
まだ、わたしの中で答えが見つからないままです。