ビスケットのインタフェースに関しても面白い話があるので,書いてみる.
子ども向けにインタフェースを工夫した話と,教える側向けのシステムの話と.
まずは,子ども向けの話.
ビスケットはよく「何歳から使えますか」という質問を受けるが,最低年齢のネックはマウスである.
幼稚園児はマウスは難しい.手が小さいというのもあるし,ボタンを押しながらマウスを動かすというのは結構難しい.もちろん,中にはさくさくと出来ちゃう子もいるんだけど,ここで言っているのは,まったくコンピュータを触ったことが無い子どもの最低レベルだと思っていただいていい.ワークショップをやる場合,一人でも付いて来れない子どもがでると,そこに引っ張られて,スタッフが一人張り付き,という状態になってしまう.最低レベルで見るのが安全.
タブレットPCだと,クレヨンで絵が描けるような操作なので,4歳くらいなら大丈夫だと思う.
あと,意外と難しいのがクリック.クリックは,マウスボタンが押されてから,マウスを動かさずに,ボタンを離す,という操作である.ところが手が小さいと,ボタンを押すときにマウスが動いてしまう.指先だけ動かしてボタンを押すというのが難しいらしく,握る感じでボタンを押すので,マウスが動いてしまう.
なので,クリックとドラッグを判別させるようなUIは難しいのでなし.
ペンの場合は,実はクリックよりもドラッグの方が楽だったりする.ペンによるクリックは小さな点を打つことになるけど,上手じゃない子は小さな点が打てずに,長い点(線)になってしまうのである.
ビスケットでは,ライブラリーのボタンなどを使って手を抜いて作ってしまった箇所もあるのだけれど,基本的には,クリックではなくて,マウスダウン(ボタンが押された瞬間)だけで反応させるようにしている.これだと,どんな子でもうまく操作できるようだ.
あと,感圧式タブレットを使うようにすると,マウスオーバーも使えない.結構悲しい.
ペンコンピュータには,ゼスチャー認識などが付いているものもあるが,もちろんそういうのは全部OFFにする.ビスケットはWebで動いているが,以前,ゼスチャを認識して「戻る」操作が発行されてしまい,作品が消えた,という恐ろしいことが起きたことがある.あと,長押しで右クリックみたいなのも,禁止.ペンにボタンが付いてる場合もあるが,そのボタンも禁止.
あと,全画面表示も重要.ブラウザの画面のままだと,閉じるボタンや,戻るボタンを,間違って押してしまう人がいる.当然作品は消える.Javascriptで禁止できるようにすればいいんだな.
これくらいで,やっと初めてコンピュータを触る子にも安心して使ってもらうことができる.
困るのは,相手先の,たとえば学校のパソコン室のPCを使うような場合.設定を変えることもできないので,そのままでやるしかない.普通は参加者はそのPCには慣れているので,問題はないけれど.そのPCにインストールされている他のソフトと比べて,ビスケットは低学年でも使えるため,小さい子にとっては初めてこのPCを触るというケースもある.で,そういう誤操作は何人かやってしまう.あきらめるしかない.
いずれにせよ,現場で実際に子どもが触っている様子を観察するのは,インタフェースの改良には不可欠である.
そうやって観察していると,子どもに教えられることも多い.
いまでこそ,ゴミ箱の無いインタフェースもよく見るようになったけど,少なくとも初期のビスケットには,いらなくなった部品やメガネを捨てるための,ゴミ箱があった.そこに捨てなくても,画面の外に出したりすれば捨てられるのだけれど,わかりやすさのために用意していた.
年長の男の子がビスケットを使っている様子を観察していると,彼はそのゴミ箱を使おうとしない.で,どうしているかというと,いらなくなった部品やメガネは,それを出してきたところに戻しているのであった.「捨てる」のではなくて,「お片づけ」をしていたのである.そもそも,ブロックでも積み木でも,遊び終わったら箱に片付けるのであって,捨てたりはしない.
我々が,いかにコンピュータの上に作られた奇妙なお作法に毒されているか,という例であった.
それで,ビスケットのインタフェースでは,子どもの直感に反するようなことは出来るだけしないように気をつけている.たとえば,画面に大量に置かれた部品がいらなくなったとき,画面をいっぺんに消去するようなコマンドが欲しくなるが,そういうものは用意されていない.一つずつ片付けなければならない.わざと面倒な手順のままにしてある.作成した時間と同じだけ時間がかかる.同じような理由で,UNDOやCOPYもない.
コンピュータに対して,情報編集装置としては見せないように気をつけているのである.世の中には効率よく情報を編集する装置としてのコンピュータは満ち溢れているし,コンピュータは情報を編集するためにある,という間違った見方をしている大人が大勢いる.そんな間違った認識を正して,プログラミングというコンピュータの本当の魅力を伝えたいから,ビスケットを作っている.なので,情報編集装置としては,わざと不便にしてあるのである.
面白いことに,コンピュータに慣れた大人は,だんだんいらいらしてくるみたいだが,初めての子どもほどその片付けも楽しんでやっている.小学校高学年くらいになると,情報編集装置としてのコンピュータも知ってしまっているようだが,ビスケットは違う遊び方をするのだということに途中から気づいて,すぐに慣れてくれるようだ.
UNDOが無い話,多摩美の須長先生とも意見が合った.先生が作ってらっしゃるZuzieというシステムにもUNDOは無いそうだ.コンピュータがそのレベルの便利なツールだと思って欲しくない,というのだそうだ.
もう一つ,子どもはわからないけどとにかくやってみる,という性質が強い.ビスケットのように自由度の高いシステムの場合(プログラミング言語はすべてそうだと思うが),とにかくやってみるという方法だと.ぐちゃぐちゃになりやすい.
そこで,ビスケットでは,使える部品の種類が,入門用と上級者とで変わるような仕掛けにしている.入門用では画面に見えているものが少ない.いろいろと知ってくるにしたがって増えるようにしてある.そのあたりの話は(教える側編)に書くことにしよう.
子ども向けにインタフェースを工夫した話と,教える側向けのシステムの話と.
まずは,子ども向けの話.
ビスケットはよく「何歳から使えますか」という質問を受けるが,最低年齢のネックはマウスである.
幼稚園児はマウスは難しい.手が小さいというのもあるし,ボタンを押しながらマウスを動かすというのは結構難しい.もちろん,中にはさくさくと出来ちゃう子もいるんだけど,ここで言っているのは,まったくコンピュータを触ったことが無い子どもの最低レベルだと思っていただいていい.ワークショップをやる場合,一人でも付いて来れない子どもがでると,そこに引っ張られて,スタッフが一人張り付き,という状態になってしまう.最低レベルで見るのが安全.
タブレットPCだと,クレヨンで絵が描けるような操作なので,4歳くらいなら大丈夫だと思う.
あと,意外と難しいのがクリック.クリックは,マウスボタンが押されてから,マウスを動かさずに,ボタンを離す,という操作である.ところが手が小さいと,ボタンを押すときにマウスが動いてしまう.指先だけ動かしてボタンを押すというのが難しいらしく,握る感じでボタンを押すので,マウスが動いてしまう.
なので,クリックとドラッグを判別させるようなUIは難しいのでなし.
ペンの場合は,実はクリックよりもドラッグの方が楽だったりする.ペンによるクリックは小さな点を打つことになるけど,上手じゃない子は小さな点が打てずに,長い点(線)になってしまうのである.
ビスケットでは,ライブラリーのボタンなどを使って手を抜いて作ってしまった箇所もあるのだけれど,基本的には,クリックではなくて,マウスダウン(ボタンが押された瞬間)だけで反応させるようにしている.これだと,どんな子でもうまく操作できるようだ.
あと,感圧式タブレットを使うようにすると,マウスオーバーも使えない.結構悲しい.
ペンコンピュータには,ゼスチャー認識などが付いているものもあるが,もちろんそういうのは全部OFFにする.ビスケットはWebで動いているが,以前,ゼスチャを認識して「戻る」操作が発行されてしまい,作品が消えた,という恐ろしいことが起きたことがある.あと,長押しで右クリックみたいなのも,禁止.ペンにボタンが付いてる場合もあるが,そのボタンも禁止.
あと,全画面表示も重要.ブラウザの画面のままだと,閉じるボタンや,戻るボタンを,間違って押してしまう人がいる.当然作品は消える.Javascriptで禁止できるようにすればいいんだな.
これくらいで,やっと初めてコンピュータを触る子にも安心して使ってもらうことができる.
困るのは,相手先の,たとえば学校のパソコン室のPCを使うような場合.設定を変えることもできないので,そのままでやるしかない.普通は参加者はそのPCには慣れているので,問題はないけれど.そのPCにインストールされている他のソフトと比べて,ビスケットは低学年でも使えるため,小さい子にとっては初めてこのPCを触るというケースもある.で,そういう誤操作は何人かやってしまう.あきらめるしかない.
いずれにせよ,現場で実際に子どもが触っている様子を観察するのは,インタフェースの改良には不可欠である.
そうやって観察していると,子どもに教えられることも多い.
いまでこそ,ゴミ箱の無いインタフェースもよく見るようになったけど,少なくとも初期のビスケットには,いらなくなった部品やメガネを捨てるための,ゴミ箱があった.そこに捨てなくても,画面の外に出したりすれば捨てられるのだけれど,わかりやすさのために用意していた.
年長の男の子がビスケットを使っている様子を観察していると,彼はそのゴミ箱を使おうとしない.で,どうしているかというと,いらなくなった部品やメガネは,それを出してきたところに戻しているのであった.「捨てる」のではなくて,「お片づけ」をしていたのである.そもそも,ブロックでも積み木でも,遊び終わったら箱に片付けるのであって,捨てたりはしない.
我々が,いかにコンピュータの上に作られた奇妙なお作法に毒されているか,という例であった.
それで,ビスケットのインタフェースでは,子どもの直感に反するようなことは出来るだけしないように気をつけている.たとえば,画面に大量に置かれた部品がいらなくなったとき,画面をいっぺんに消去するようなコマンドが欲しくなるが,そういうものは用意されていない.一つずつ片付けなければならない.わざと面倒な手順のままにしてある.作成した時間と同じだけ時間がかかる.同じような理由で,UNDOやCOPYもない.
コンピュータに対して,情報編集装置としては見せないように気をつけているのである.世の中には効率よく情報を編集する装置としてのコンピュータは満ち溢れているし,コンピュータは情報を編集するためにある,という間違った見方をしている大人が大勢いる.そんな間違った認識を正して,プログラミングというコンピュータの本当の魅力を伝えたいから,ビスケットを作っている.なので,情報編集装置としては,わざと不便にしてあるのである.
面白いことに,コンピュータに慣れた大人は,だんだんいらいらしてくるみたいだが,初めての子どもほどその片付けも楽しんでやっている.小学校高学年くらいになると,情報編集装置としてのコンピュータも知ってしまっているようだが,ビスケットは違う遊び方をするのだということに途中から気づいて,すぐに慣れてくれるようだ.
UNDOが無い話,多摩美の須長先生とも意見が合った.先生が作ってらっしゃるZuzieというシステムにもUNDOは無いそうだ.コンピュータがそのレベルの便利なツールだと思って欲しくない,というのだそうだ.
もう一つ,子どもはわからないけどとにかくやってみる,という性質が強い.ビスケットのように自由度の高いシステムの場合(プログラミング言語はすべてそうだと思うが),とにかくやってみるという方法だと.ぐちゃぐちゃになりやすい.
そこで,ビスケットでは,使える部品の種類が,入門用と上級者とで変わるような仕掛けにしている.入門用では画面に見えているものが少ない.いろいろと知ってくるにしたがって増えるようにしてある.そのあたりの話は(教える側編)に書くことにしよう.
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