切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『上京ものがたり』 西原理恵子 著

2005-06-19 11:30:00 | 超読書日記
コリン・ウィルソンの本からとった「超読書日記」もなんだかマンガばかりになってきた。でも、はっきりいって、今騙されたと思っても読んでみる価値があるのは芥川賞より断然手塚賞でしょ。というわけで、三冊目の手塚賞作品、西原理恵子(というか"サイバラ"の方がしっくりくるな。)の『上京ものがたり』なんですけど、これも良かったんだな!

第九回手塚治虫文化賞 短編賞

帯に書いてある「東京で一人暮らしをしている全ての女の子たちに読んでもらいたい」という言葉どおり、東京で一人暮らしを始めた当初のサイバラの自伝的マンガ。でも、「スナックに孤独に通いつめるオジサンにも読んでもらいたい」っていう感想を持ったのはわたしだけかな?

サイバラというと、どうも『恨ミシュラン』などで馬鹿女キャラが定着している感があるのだけど、じつはなかなかセンチメンタルなマンガも描くひとだと思う。わたしとサイバラの出会いは案外遅くて、阪本順治監督、観月ありさ主演の映画『ぼくんち』を観て、原作を読んだのが最初。これは結構衝撃だった。「やってることはポップな中上健次だよ」って気がして。つまり、地方の土着の本当の無頼漢を「教養」を通さずに描いた傑作だと思ったんですよ。(「教養」めかしたフィルターを通すと車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』になっちゃう。)

で、今回の作品なんですが、最後の方がちょっとパワーダウン気味ながら、業田良家の『自虐の詩』以来の畳み掛けるような作品だと思った。1ページ1話形式で53話まであるのだけど、ひとりで暮らしていく孤独感、寂しさが、作中に登場する野良猫、男、水商売の客などの姿から見事に浮かび上がってくる。そして、ここに出てくるサイバラ本人と思われる主人公はいつになく弱気でセンチメンタルだ。それ故に、救いを仕事に求めていくというところが、離婚したサイバラの今の心境を投影しているのかなという気もするが・・・。

『ぼくんち』にせよ、『上京ものがたり』にせよ感心するのは、色彩感覚の素晴らしさ。そして、本人は下手だというけれど、絵も抜群にうまい。きわめてシンプルな線や色彩の一コマなのだけど、ちゃんと情報量が詰まっていて、わかりにくいところがひとつもない。(こういうところが凄いところなんだけど。)

実は恥ずかしながら、中学時代美術部部長なんてことをやっていたので、美大なんてことも考えたことがあったのだけど、当時教育実習できていた美大生から、「美大受験の予備校なんか行くと、信じられないくらいデッサン力のある三浪、四浪がゴロゴロいるんだよね」という一言であっさり断念。(デッサンも全然駄目だったし・・・。たまには教育実習生も役に立つ!?)一時期高校中退イメージで売ってたサイバラも実はちゃんと美大を出てるんですよね。

姉妹編の少女時代を描いた『女の子ものがたり』や子供との生活を描いた毎日新聞連載中の『毎日かあさん』など、ここへ来て自分自身に関心の矛先を向けているサイバラ。やや内省的になってきてはいるけれど、やっぱり見過ごせない存在ですね。

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