くさぶえの道

身辺雑記 思い出の記

「人間臨終図鑑」

2015-08-31 23:45:42 | 参加する
最寄りの書店前で時々古書の出店が開かれる。魅力的な本が何冊も見つかることがある。
先日はすでに3冊抱えて帰りがけに、新品同然の分厚い文庫本が3冊束ねられて僅か500円で出ているのを目にした。「人間臨終図鑑全3冊」著者が山田風太郎だったので、これも迷わず追加。この人のものなら大丈夫と、包みをほどいて中を検めることもしなかった。以前読んだ戦中戦後にわたる大量の日記集は特に気に入って、転居の際にも捨てずに持ってきたぐらいだから。

適当にパラパラ読み始めるとこれが予想以上に面白い。ざっと数えてみると800人位の古今東西の名の知れた故人を取り上げているのだが、その死に方だけでなく、それぞれの生涯を逸話なども交えながら要領よくまとめて紹介してある。

順序としては没年ごとに纏めて若い順になっているから、まずトップに十代で死んだ八百屋お七やアンネ・フランクなど、最後は百歳代の野上弥生子、泉 重千代などで終わっている。一人について一ページから多くて四ページほどなのだが、これだけの情報を、しかもこれ程コンパクトに、物語のように読む人を飽きさせずに纏め上げたものだと感心した。

今までよく耳にしたことがある有名な臨終の言葉があって、例えばゲーテの「もっと光を」とかベートーベンの「喜劇は終わった。諸君喝采し給え」なども前後の情景を書き込んであって面白い。元侍従長の入江相政さんが日曜日にもう一度寝直すと言って家族に向かっておどけて、「では皆さん、またお目にかかることもあるでしょう」と寝室に入りそのまま亡くなっていたと言う話は何だかとても好き。それから好いのは、狂歌師蜀山人の辞世とされている「今までは人の事だと思うたに 俺が死ぬとはこいつはたまらん」だ。多分万人の本音だろう。

記憶から遠ざかっていたけれど、ああこんな人も、あんな人もいたなあと、改めて思い出して、知らなかった逸話や臨終の様などに触れて楽しかった。

兎に角この三巻は気の向くまま、いつどの巻のどのページを開いてみても興味深い話に出会うことになる。さすがは山田風太郎先生。