Wilhelm-Wilhelm Mk2

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高資料

2008-02-28 | Weblog
 調べてみると、川端康成には複数のゴーストライターがいたそうだ。文藝春秋をたちあげた菊池寛なんかにもいたそうである。この二人が戦後文壇の巨頭としてしきっていたのだから・・・まあどの世界にも同じような話はあります。で、調べていると、川端のゴーストライターの件をどうどうと糾弾した人物がいることを知った。その名を「龍胆寺 雄」(1901~1992)。Wikiの説明では、慶応医学部中退で作家に転身、谷崎らに絶賛され、反プロレタリア文学としても活動。しかし、「M・子への遺書」で、文壇を徹底的に批判し、さらに川端の代筆を指摘。そのため文壇から追放・抹殺されるも、趣味の「サボテン」の研究で世界的な権威となる。この経歴だけで非常に興味がわいたので、文庫を購入(書店で簡単に手にはいるのはこの1冊だけであった)。まず例の糾弾文から読んでみた・・・。・・凄いよ、皮肉とかそういうレベルじゃない。自爆的な激しさがある。伏せ字など何一つない。でてくる人間・団体、全部実名。文藝春秋や新潮における文士たちの奇妙な階層社会、菊池寛のフィクサー的な黒い側面、そして川端康成の代筆が以下のように糾弾されている。

・・・内田憲太郎の代作である「空の片仮名」を本人にいわせると加筆らしい加筆も大してせず、中央公論にせんだって発表して、一方では、最も冷厳辛辣をもって名だたる、まじめな文芸評論のペンをとる。・・・ただこの人には、ひとにはちょっとのぞけない性格のしんぞこに、悪魔じみた恐ろしい冷たい、聡明な政治意識がひそんでいる。・・・・うっかりこの人に慣れ親しんでい思い上がると、ひやりと俺を突き放して、その間へ寒い風を流れさす。この人は悪魔だ、人間じゃない。

「人間じゃない!」文壇の親玉にこのいいざま。すごいよ。漢だ。尊敬する。この龍胆寺氏、幼いころから、相当に頭がよかったそうで、中学の時にニュートンの第二法則に疑問をもち、来日していたアインシュタインを押しかけ、その疑問をぶつけたという。趣味のサボテンについても、自分で学会まで立ち上げたというのだから、この人の根本は科学者・探求者だったのだろう。代筆させておいて、しらっと自分だけは良いこぶり、ノーベル賞をいただいてしまうような輩は許せなかったに違いない。
 さらに!この龍胆寺氏にはもう一つ紹介したい一面がある。なんと偽名をつかい大量の地下小説、いわゆるエロ小説を書いたというのだ。世には「高資料」なる珍奇なエロ小説群があるという。これは「高伴作」なるものが、あちこちのエロネタを蒐集して、記録という形でまとめたものということになっている。が、この高伴作こそ龍胆寺氏なのだそうだ。この件について、本人はのらりくらりとかわして肯定しなかったそうだが、今では「高伴作=龍胆寺」でほぼ間違いなしということになっているそうだ。おもしろい、おもしろすぎるよ、龍胆寺 雄。故人になった今でも主流の文壇からは抹殺されているので、簡単に作品を入手して読むことはできないが、全集もあるそうなのでじわじわと揃えたいと思っている。(高資料も・・?)この高資料について調べていたら、さらに面白こと(地下文学世界)を知ったのでそれは次回書きたい。