羞恥心

昔、日本人は「恥じる」という奥ゆかしさを大切に
美徳としていた。

不躾、不心得、不行跡は恥である。

と至らぬ点は全て己を恥だと。しかし、現代の日本人は
その日本的美学”恥じる”を忘れてしまった。最近は
恥ずべき光景ばかり溢れている。

昨日も某ホテルにチェックインの際、夏休みで
混雑したロビーにて、立ってパンを食べている者、
大声で仲間内で騒いでいる者、長い列に並んで
待っているだけでもシンドイのに、こういう人種に
遭遇すると疲れがどっと増す。フロントマネージャー
と目が合い、呆れ顔で首を振ると、申し訳無さそうな
苦渋の表情で軽く会釈された。ホテル側にとっては、
どんな客でも大切なゲストである。極力、注意などは
しない。そんな時、一人の重役風のオッサンが列にも
並ばず、「いつまで、待たせるんだぁ！早くしろ！」と
カウンターに詰め寄った。この場合

１．ホテル従業員の対応にまかせる
２．注意する
３．排除する

僕は１を選択し、

「お待たせして誠に申し訳ございません。順番に
ご案内中で御座います。コチラでお名前をお聞かせ
いただければ、ご案内時に係りの者が伺いますので、
それまで、ロビーのソファーで座ってお寛ぎ下さい。」
との対応を期待していたが、怒鳴り散らすオッサンに
恐れ慄き、謝罪する女性スタッフは手続きを開始した。

否！！！！

ココは見過ごし、怒りを後からスタッフに向けて言うのが
大人だと皆言うが、目の前の愚行を黙殺して注意せず、
無関係な人に愚痴を言う位なら、”子供”だと揶揄され
ようが、僕は選択肢を２に切り替えた。先ず近くの
スタッフに問題のオッサンが得意客かを確認し、
リアクションで違うと判断できたので標的に近付いて

「あんた、歳いくつや？後ろ見ろよ、子供もおとなしく
並んで待ってるぞ。恥を知れ。この馬鹿タレ」

と言いながら蹴り上げてやりたかったが、騒ぎになると
益々、後者の列に迷惑がかかるので、手加減して足を
踏むにとどめ、良く聞こえる様に耳元で言った。

「イタタタタ、痛いだろ！何をするんだ！」

更に体重を乗せて、同じ内容を繰り返し伝え凝視すると
オッサンは自らの愚行を詫びた。
「後ろ向いて、全員に謝罪するべきです、オトウサン！」
と指摘するとオッサンは振り返り、後方の列に頭を下げた。

僕のチェックインの順番が来た時、フロントマンが自分達
の対応不備を謝罪してきた。確かに客を待たせ不快に
させるホテル側も悪い。スムーズなチェックインさえ叶えば、
トラブルも無かったろう。だけど、パブリックな場所で順番を
守るなど一般常識である。大人が恥ずかしい手本では
子供に示しがつかない。笑われ、真似され、叱れない。
ホテルには、待っている間に業務の流れを観察していて、
不効率で潜在課題があるとの意見を伝えた。キーを
受け取り、部屋に入ると予約より広い部屋となっていた。
気を遣いアップグレードをしてくれたのは感謝するけど、
誰もこない一人寝に広い部屋だと、寂しさが増すだけ。

同夜、明け方まで連れ回されて、ホテルに戻ったのは
ＡＭ４：００を過ぎていた。翌朝の迎えが来るギリギリまで、
寝たくて９時にアラームをセットし就寝したが、３時間半後、
注文していない朝食のルームサービスで起こされた。
総支配人からだと客室係に言われた。有難迷惑とは
正にこの事だろう。出発前、チェックアウトでフロントへ
立ち寄ると総支配人が待ち構えており、丁重な挨拶と
共にお詫びの印として、粗品の域を超えた大きな物体を
渡そうとするので、受け取りを拒否した。
はぁ・・・ダメだこりゃ・・・。迎えの人がロビーに到着した
ので足早に立ち去ろうとする僕の後ろを５～６人が
ゾロゾロと付いて来て、温泉旅館の御見送りみたいな
異様な光景となり、出迎えのクライアント担当者に
「何をしたんすか？いつも、何か事件ありますよねｗ」
とゲラゲラ笑われ、最高に恥ずかしかった。

そんな道中、ふと上着のポケットに手をやると覚えの無い
ピンクの小封筒に”ウコンの力”と”ブレスケアー”とメモが
入っていた。メモの主は前夜に訪れたクラブのチーママ。
さり気無い差し入れだった。

サービス業で最も重要なのは、過剰な”気遣い”ではなく、
控えめな”心遣い”見ぬフリ、知らぬフリは罪だけど、
出すぎて目立ち過ぎるのも恥をかく時がある。

以上