雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

「パッチもん」を求める心性

2010年03月21日 | 中国の雑談
さて、それはそれは高貴な身分の方が、中国へ出張となった。

筆者の担当する客先の、そのまたお客様、東証一部上場企業のエンドメーカーの本体にお勤めの超VIPである。

筆者の会社の直接の客先が中国に拠点がなかったので、どういう訳だか筆者にこのVIP殿を接待しまくるという意味不明な役回りがまわって来た。断るわけにもいかず、止む無く引き受けることにした。

で、このVIP殿、高価な酒を浴びるほどのむとか、女遊びをしまくるとか、そういう趣味は幸いにもないようだ。そんな次第で、全体としてアテンドは楽な仕事だった。ただこの方、何と超「パッチもん」コレクターなのである。年収は軽く1千万は超えているであろう富裕層の方が、「パッチもん」を血眼になって捜すのは、どういう理由か、根っからの貧乏人の筆者には理解不能である。

最近では、さすがに中国でもパッチもんを余りおおっぴらに扱わなくなりつつある。とりあえず、ブランドの偽物をコッソリ売っている店に連れて行ったら、「ロレックスの偽物ばかりで退屈だ。ロレックスのパッチもんなら、既に山ほどもっている。オメガとかないのか」と言い出す始末。

そこで、パッチもんばかりを扱っている店を3件ほどハシゴし、ようやくおきに召した店で2時間は物色しておられた。何でもこのVIP殿によれば、偽物には等級があり、S級(ホンモノをバラして図面を起こし、精巧に再現されたもの)、A級(S級をバラして再現されたもの)、B級「単に外観だけをそっくりまねたもの」などに区分されるという。お目当ての品に巡り合った折には、「これだ! この重量感、この感触! これこそがホンモノのS級(ニセモノ)だ!」などと、意味不明なことをおっしゃられていた。結局、3万円ぐらいのS級品(ホンモノなら、ウン十万円?)を買われたほか、1本100円ぐらいのモンブランのボールペンや50円ぐらいのゴルフ帽をお土産用に何十個も買っていた。

筆者は傍で見ていて、やはり、バブルを知っている世代だなぁ、と思った。これほどパッチもんに入れ込むためには、ホンモノのブランド品に対する強烈な信仰がなければならない。ホンモノにも全く興味がない筆者には、全く理解不能な消費行動である。

今、日本で重要な権限を持つ地位に上りつつある世代は、まさにこのパッチもん大好きVIP殿の世代で、強烈なブランド信仰の信者たちである。で、こういう人が、

「ヒュンダイの自動車なんか売れるわけねぇだろ!」
「サムソンの薄型テレビなんか好んで買うやつがいるか!」
「LGの家電製品なんか、全部ポンコツだよ、ポンコツ!」
「携帯音楽プレーヤーなら、ウォークマンに決まっているだろ!」
「安もんに飛びついて、日本ブランドを理解できない貧乏なクソ客なんか、相手にするな!」

などとホザいて、新興国の市場進出で後手に回ってしまい、今の日本の苦境を招いたのではなかろうか。

山ほど買ったパッチもんを嬉々としてスーツケースにつめなおすVIP殿を見つめながら、筆者はそんなことをふと考えてみたりした。


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