自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

1.ウイルス感染とワクチン

2015-04-08 21:17:41 | ワクチン

三谷 ウイルスによる伝染病はワクチンで感染拡大を阻止し、家畜では大量殺処分を回避して生かすためにワクチンを使用するのが常識だと思いますが、わが国で発生した口蹄疫ではワクチン接種した後に大量殺処分し、鳥インフルエンザではワクチンを使わずに大量殺処分をしています。ワクチンでは感染拡大を阻止できない理由があるのでしょうか?ウイルス学の立場からお考えをお聞きしたいのですが。

山内 ワクチンの効果を議論する場合、個体レベルでの感染防御の効果と集団レベルでの感染症の拡大阻止の効果(公衆衛生の立場)とを分けて考える必要があります。ワクチンの品質管理は検定基準に従って行われ、有効性(免疫効果)と安全性が検討されます。その際、有効性は感染防御効果に基づいて判断されますが、集団レベルの効果は実験的には分かりません。流行の際の経験から疫学的に推定されます。
このような視点から天然痘ワクチンとインフルエンザワクチンの例をご説明したいと思います。まず、天然痘ワクチンは強い免疫を与え、感染の拡大を確実に阻止しました。すなわち、個人レベルの免疫が集団の防御につながりました。その結果、1980年に世界保健機関WHOによる根絶宣言になったのです。天然痘に次いで根絶をめざしているものはポリオと麻疹で、これらのワクチンも強い感染防御効果により感染拡大の阻止に役立っています。一方、インフルエンザワクチンは、感染を完全に防ぐことはできません。しかし、重症になるのを防ぐといった発病防止効果があります。そこで、重症になりやすい子供や高齢者にワクチンを接種しているのです。また、インフルエンザの蔓延は小・中・高校生を中心とした低年齢層で起こるため、これらの年齢層へのワクチン接種が集団防衛の観点から推奨されています。

ここで、注意したいのは養鶏に大きな被害を与えている鳥インフルエンザに対するワクチンの効果は人のインフルエンザワクチンとは異なることです。農林水産省は、鳥インフルエンザワクチンの効果は発症防御であって排出されるウイルス量を減少させるものの感染は防げないという理由で、2011年の宮崎での発生ではワクチンを接種せずに大量の鶏を殺処分しました。しかし、農林水産省が述べている理由は前述のように人のインフルエンザワクチンにあてはまりますが、鳥インフルエンザワクチンにはあてはまりません。日本で用いられている鳥インフルエンザワクチンを、実験的に鶏に接種したのち非常に大量の流行ウイルスを攻撃接種した実験成績が報告されていますが、ウイルスは一過性に気管や糞に少量が検出されただけで、まったく発病していません。感染を確実に防止する免疫がもたらされているのです。しかも免疫効果は138週間も続くことが報告されています。これは産卵鶏の最大飼育期間100週間を超えるものです。このようなすばらしい成績を示すワクチンを用いない科学的理由はありません。
 参考文献 山内一也:鳥インフルエンザへのワクチン対策を考える。科学、2011年5月号。
 両ワクチンの効果にこのような大きな違いがあるのは、ワクチンの製法にあります。どちらも孵化鶏卵にインフルエンザウイルスを接種し、増殖したウイルスをホルマリンで不活化したものです。しかし、インフルエンザワクチンでは副作用を軽減させるためにウイルス粒子をエーテルで破壊して部分的に精製したものを用いているのに対して、鳥インフルエンザワクチンではウイルス粒子をそのまま用いています。その方が免疫効果ははるかに強くなります。さらに、鳥インフルエンザワクチンでは免疫増強物質を添加していますが、インフルエンザワクチンでは副作用の可能性を考慮して用いられていません。一方、ワクチンの検査方法にも大きな違いがあります。鳥インフルエンザワクチンではニワトリにワクチンを接種して有効性と安全性を確かめています。インフルエンザワクチンでは、人での検査は不可能なので、有効性はマウスにワクチンを接種して抗体の上昇の程度から推定しています。安全性はエーテルが残っていないことやウイルス粒子の破壊ができていることを確かめるだけです。すなわちインフルエンザワクチンでは有効性、安全性ともに間接的に確かめられているのです。ほかの人体用ワクチンの場合も同様で、動物用ワクチンの方が人体用ワクチンよりも科学的に信頼できるといえます。

三谷 鳥インフルエンザウイルスは渡り鳥が運んでくるので根絶できませんが、ワクチンは感染を確実に防止できる効果があるということですね。山内先生がFAO/OIE鳥インフルエンザ・レファレンスセンター長のI Capua博士と懇談された際に「渡り鳥による感染リスクに曝されている日本の状況はEU指令では予防的接種に当てはまると述べていた」と科学5月号(2011)で紹介されていますが、日本では鳥インフルエンザはワクチンで確実に被害を防いでウイルスと共生する時代になっているということですね。
一方、口蹄疫のワクチンは効くか効かないか分からないと説明されています。しかし、鳥インフルエンザワクチンと同じようにウイルス粒子をそのまま用いて不活化し、精製していますので副作用もなくワクチンの効果は非常に大きいのではないでしょうか

山内 口蹄疫ワクチンではOIEの陸生動物のための診断法及びワクチンに関するマニュアル(以下、OIEマニュアル)にしたがってワクチンを牛に接種したのち、牛の舌に1万感染単位のウイルスで攻撃して発病防御の効果を確認しています。この点では鳥インフルエンザワクチンと同様のものとみなせます。しかし、口蹄疫ワクチンの免疫持続期間はおそらく鳥インフルエンザワクチンほど長くはないと推測されます。
 両ワクチンで大きな違いは、鳥インフルエンザワクチンは予防ワクチン、口蹄疫ワクチンは緊急ワクチンとして使用する点です
。すなわち、鳥インフルエンザではワクチンによる免疫が成立したのちの防御効果に期待するわけですが、口蹄疫では流行中にワクチン接種をするため、免疫が成立する前に感染し時にはキャリアになる可能性のあることです。OIEマニュアルではワクチン接種21日目後に野外ウイルスによる攻撃を行うことになっています。実験的にはワクチン接種7日目には発病防止が可能と報告されていますが、実際の流行ではそれ以前に感染することもありうることが問題になっています。

三谷 鳥インフルエンザワクチンは1回で確実に長期間の効果があるので1回接種で予防ワクチンとして使える。口蹄疫ワクチンも確実に効果があることは検査で確認されているけど、口蹄疫は発生してから緊急ワクチンとして接種するので、効果が出る前に感染することはありうるということですね。でもワクチンの目的は1頭も感染させないことではなくて、いかに早く感染拡大を阻止するかということですから、緊急ワクチンは使うことを前提に準備をしておくべきですね。使うかどうかは疫学調査で感染の拡大の状況を把握して速やかに判断すべきだし、殺処分を最小にするためには感染が確認されたら最初からワクチン接種をした方が良いかもしれません。しかし、国の専門家はワクチンの効果が確実にあることは全く説明していませんし、ワクチン使用についても否定的です。

初稿 2012.6.29

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